104 / 107
レイズは守る
報告。
しおりを挟むヴィルは静かに氷のハンマーを見やり、その声音はあくまで優しく――しかし底に深い感情を湛えていた。
「……それで。その大仕事は、上手くいったのですね」
レイズは片眉を上げ、肩をすくめて答えた。
「あぁ。……でも二度と行きたくはねぇな。あんなとこ、遠すぎるんだよ」
ヴィルはくすりと笑う。
「……分かっていて、行かれたのではありませんか?」
「おい、それは意地悪すぎだろ」
レイズが苦笑すると、ヴィルの目元が柔らかく揺れた。
ふとレイズが思い出したように言葉を続ける。
「そういえば……祖母に会ったよ。ダークエルフの“レイ”っていう人に」
その瞬間――
ヴィルの手がぴたりと止まり、表情が固まる。
驚き、安堵、そして少しの痛み。それらが混ざった複雑な光が瞳に宿り、やがて静かに息を吐いて言った。
「……そう、ですか。それは……本当に良かった」
レイズは嬉しそうに頷き、声を張る。
「それとヴィル! 俺にダークエルフの血が入ってるなんて知らなかったぞ!」
ヴィルの目がかすかに揺れた。
「えぇ……いつかお話ししようとは思っていましたが……」
その声音には、長い時間胸に抱えてきた影が落ちていた。
セシルとリヴェル――レイズの両親のこと。
簡単に触れられるほど軽い話ではなかった。
レイズはその空気を感じ取り、深く頷いた。
「……ああ。父さんと母さんのことも聞いた。
ヴィル、……本当に、ありがとう」
ヴィルは胸を押さえるように目を伏せ、静かに返す。
「……いえ。私が、もっと早く動いていれば……」
「いいって。それ以上は言うな」
レイズの声は優しかった。
少し空気が和らいだところで、レイズは思い出したように言った。
「そうだ。魔族がさ……“なんでアルバードは魔石を使わないんだ”って不思議がってたぞ」
ヴィルは目を閉じ、小さく笑った。
「……なるほど。彼らの言い分も正しいでしょうね」
そして少しだけ厳しい声音で続けた。
「ですが――安易に魔石に頼るべきではない。それが、私たちの立場なのです」
レイズは納得するように息を吐く。
「……まぁ、確かに一理あるな」
そしてミスリルを示しながら声をかける。
「それじゃ、ヴィル。これ見てくれよ。いい感じだろ?」
レイズは死属性の力を使い、氷を溶かし始めた――が。
「レイズ!! 待ちなさい!!」
ヴィルの声が鋭く走った瞬間にはもう遅く、
――バシャァァン!!
大量の水が部屋中にぶちまけられた。
沈黙。
レイズはゆっくりと、びしょ濡れの床を見下ろす。
「……うん。ヴィル。まぁ……こういうこともあるよな」
ヴィルは瞼を伏せ、長い沈黙のあとでゆっくりと目を上げた。
その表情は穏やか――しかし、背後に黒い炎が立ち昇るような圧をまとっていた。
「久しぶりに……レイズ。
私と“模擬戦”をしましょうか」
「お、おい!? ねぇヴィル!? 怒ってるよな!? 絶対怒ってるよな!?」
「怒っていませんよ。えぇ……ただ――」
ヴィルはゆっくりと微笑む。
それは慈愛を含んだ、しかし絶対に逃げられない“師の笑顔”だった。
「孫が、どれほど強くなったのか。
……確かめたくなっただけです」
レイズは顔を引きつらせながらも観念するように答える。
「……わかったよ」
そして散乱したミスリルに視線を移し、
「それで、このミスリルの加工……任せていいか?」
ヴィルはひとつひとつを丁寧に見下ろし、静かに言った。
「はい。必ず整えてみせます」
その直後、すっと顔を上げ――
「……ではレイズ。早く行きましょう」
すでに庭へ向かって歩き出していた。
「おい!! なんでそんな急ぐんだよ!?
ねぇ!? 怒ってるよね!? 本当に怒ってるよね!? ねぇってば!!!」
レイズの必死の叫びが屋敷にこだまし、
その前を、ゆっくりと――しかし逃げ場を与えない速度で進むヴィルの背中があった。
その姿は、まさに“師”。
穏やかで、優しくて――そして恐ろしいほど強い、アルバードの根幹そのものだった。
5
あなたにおすすめの小説
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる