1 / 2
第壱章 天才刀鍛冶ノ譚
第1話 刀敬刀愛
しおりを挟む
「スーッ、スーッ、スーッ.....」
一定のリズムで、一定の音で、一定の動きで。
まさに、精密且つ優しく、四角い石が刀の上を滑る様子は、我が子の頭を撫でる母の如く、とにかく優しい音が静かな部屋に透き渡る。
何時間、いや、何日、あれ?、何週間か。何週間も、刀と向き合い、その洗練された技を尽くした。
全身全霊、一点集中、まさに至高の域に達するほどの天才刀鍛冶。
食事も、寝る間も惜しみ、とにかく刀を研ぐこと磨くことに全てを尽くしていた。
それほど刀を愛し、刀のことしか考えられないような、老いぼれのじいさんだ。
しかし、刀を研ぐその出で立ちだけで、只者ではない雰囲気を醸している。
「まさに、至高の逸品じゃ。」
彼の名は、真光刀壱郎。
刀壱郎は、刀が完成したときに必ずや、そう言って自分の刀の出来を褒める。
それほど自分の才能を信じているし、自負している。
自画自賛かよ!と思わずにはいられないほどの台詞と顔。
長年過ごしてきた人間の、言葉の重みは、恐らく地球の総重量より重い(感覚的に)。
「あぁ、もう鉄鉱石が無いではないか...。」
刀壱郎は、鋭いつるはしを持って、鉱山に出掛けた。
辺鄙な村というレベルではなく、山奥にポツンと建っているただの小屋に住んでいる。
刀を研ぐことに集中したいが為に、鉱山が近く、静かな山奥に小屋を建てたのだ。
まぁ、簡単に言えば、馬鹿なんです。
刀壱郎は鉱山に着くと、岩肌に手を当てて瞼を閉じた。
本人曰く、岩と繋がって、質の良い鉄鉱石を提供して貰うらしい。
そして、次回のための依頼もするらしい。
は?
「今日も助かったよ。次も頼むな。」
端から見れば、とんだブッ飛び野郎だと思うだろうが、本当に凄い人なのだ。
世界中の刀を振るう者に聞けば、最高の刀鍛冶は“真光刀壱郎”だと答える。
まるで、「人間は呼吸をしています」と至って当たり前のことをサラッと言うように。
さっき刀を造り終えたばかりなのに、また造ろうと、飽きることなく制作を繰り返す。
皆の衆、馬鹿の一つ覚えとは、このことでは無かろうか?
まず大きな鉄鉱石を、軽く火で炙る。中にある不純物をを沸々させて、表面に浮き出させる。
それを洗い流したら、水に浸けて更に鉄鉱石の純度を高める。
他の刀鍛冶の制作行程では、ここで鉄を融かすのだが、そうするよりも刀を硬くする方法を刀壱郎は開発した。
鉄は融かさずに、鉄鉱石を融かさずにじっくりと熱を加えたり、冷やしたり、色々な行程を行うことで、鉄鉱石を状態変化させないまま、純度の高い鉄を精製してしまうのである。
何もかも今までの常識をぶち壊すもの過ぎて、我々には到底理解できない。魔法でも成し得ないことだ。
まず、長い直方体型の鉄鉱石を、数分高温で熱し、数分氷水の中に入れる。それを繰り返す。
およそ、5日間。数分だったり、止め時というのは、刀壱郎の勘である。
それが終わると、日光に当てながら、柔らかいトンカチで軽く打つ。これも、1週間近く行う。
そうしたら砂で表面を研ぎ、綺麗に洗い流したら、樹齢1000年近くある樹木の樹脂を塗って数時間低温で加熱する。またもや、水で綺麗に洗い流した後に、ぬるま湯に一日浸けておく。
そして、この方法にすることで、その直方体の鉄鉱石の中心がより純度が高くなるため、最高級の自作の砥石をトンカチで軽く叩き、外側を削っていく。
そうして、大まかな刀の形を造ったら、砥石で本格的に研いでいく。約2週間。
だが、早く上手く行けば3日で良いときもあるし、逆に全然できないときは納得するまで1ヶ月掛かることもある。
こうして完成するのだが、彼のこだわりは事細かで、恐ろしいほどだ。
火の焼き加減も、今までのを記録し、最適な時間に最適な温度で加熱するという微調整。
水も鉱山で取れた天然水を使用している。砥石も、高級な大理石で作られているもの。
トンカチも10個近く持っており、行程に応じて変えたり、力加減も微妙に変えていったりしている。
砂で研ぐという行程もあるが、遠くの海から取り寄せた、炭素を多く含む砂を取り寄せている。
その山の空気も、世界で有数の澄んだ空気の山だ。更に、標高が高いため、太陽により近い。
もはや、こだわりの域を越えている。
そんな刀壱郎は、刀鍛冶に尽くしすぎて、ある欠点がある。
刀の才能は、恐らく国家精鋭隊並の技を持っているが、魔法に関しては...。
うん、察して?
彼は、魔法が全く使えない。
小学生でも、火の粉なら魔法で起こすことができる。
だが、刀壱郎は小さい頃から、木を拾ってきては木刀を造り、日夜振り回していた。
元々器量が大きい刀壱郎は、刀使いはもはや天賦の才能を持っていた。
体に染み付くほど振った刀は、振ったときの風圧でヒビが入るほど使い古されていた。
だが、小学校等の、義務教育過程を達成できていない彼は、魔法を習得できていない。
それだけの器量を持っていながら、魔法が使えなければ、戦闘系の仕事には就けない。
1つの事に没頭し、極めあげてしまった彼を責めることはできない。
恐らく彼が魔法を使えていれば、この世界で最強クラスの戦士になれただろうに。
悲しきことである。
その後も刀に尽くし続けた刀壱郎は、ある日、息を絶やした。
死期を悟った彼は、残りの時間全てを掛けて、1本の刀を精製した。
その名も、羅刀毘沙門天。
この日、世界最高峰の刀が出来上がったことを、彼を知ることができなかった。
造り終えた瞬間に息絶えたのだ。
ここだけの話、彼の寿命は既に越えていた。ただ、その刀を仕上げるという使命感とやらが、彼の寿命を引き伸ばしたのだ。
恐ろしい男だな...。
一定のリズムで、一定の音で、一定の動きで。
まさに、精密且つ優しく、四角い石が刀の上を滑る様子は、我が子の頭を撫でる母の如く、とにかく優しい音が静かな部屋に透き渡る。
何時間、いや、何日、あれ?、何週間か。何週間も、刀と向き合い、その洗練された技を尽くした。
全身全霊、一点集中、まさに至高の域に達するほどの天才刀鍛冶。
食事も、寝る間も惜しみ、とにかく刀を研ぐこと磨くことに全てを尽くしていた。
それほど刀を愛し、刀のことしか考えられないような、老いぼれのじいさんだ。
しかし、刀を研ぐその出で立ちだけで、只者ではない雰囲気を醸している。
「まさに、至高の逸品じゃ。」
彼の名は、真光刀壱郎。
刀壱郎は、刀が完成したときに必ずや、そう言って自分の刀の出来を褒める。
それほど自分の才能を信じているし、自負している。
自画自賛かよ!と思わずにはいられないほどの台詞と顔。
長年過ごしてきた人間の、言葉の重みは、恐らく地球の総重量より重い(感覚的に)。
「あぁ、もう鉄鉱石が無いではないか...。」
刀壱郎は、鋭いつるはしを持って、鉱山に出掛けた。
辺鄙な村というレベルではなく、山奥にポツンと建っているただの小屋に住んでいる。
刀を研ぐことに集中したいが為に、鉱山が近く、静かな山奥に小屋を建てたのだ。
まぁ、簡単に言えば、馬鹿なんです。
刀壱郎は鉱山に着くと、岩肌に手を当てて瞼を閉じた。
本人曰く、岩と繋がって、質の良い鉄鉱石を提供して貰うらしい。
そして、次回のための依頼もするらしい。
は?
「今日も助かったよ。次も頼むな。」
端から見れば、とんだブッ飛び野郎だと思うだろうが、本当に凄い人なのだ。
世界中の刀を振るう者に聞けば、最高の刀鍛冶は“真光刀壱郎”だと答える。
まるで、「人間は呼吸をしています」と至って当たり前のことをサラッと言うように。
さっき刀を造り終えたばかりなのに、また造ろうと、飽きることなく制作を繰り返す。
皆の衆、馬鹿の一つ覚えとは、このことでは無かろうか?
まず大きな鉄鉱石を、軽く火で炙る。中にある不純物をを沸々させて、表面に浮き出させる。
それを洗い流したら、水に浸けて更に鉄鉱石の純度を高める。
他の刀鍛冶の制作行程では、ここで鉄を融かすのだが、そうするよりも刀を硬くする方法を刀壱郎は開発した。
鉄は融かさずに、鉄鉱石を融かさずにじっくりと熱を加えたり、冷やしたり、色々な行程を行うことで、鉄鉱石を状態変化させないまま、純度の高い鉄を精製してしまうのである。
何もかも今までの常識をぶち壊すもの過ぎて、我々には到底理解できない。魔法でも成し得ないことだ。
まず、長い直方体型の鉄鉱石を、数分高温で熱し、数分氷水の中に入れる。それを繰り返す。
およそ、5日間。数分だったり、止め時というのは、刀壱郎の勘である。
それが終わると、日光に当てながら、柔らかいトンカチで軽く打つ。これも、1週間近く行う。
そうしたら砂で表面を研ぎ、綺麗に洗い流したら、樹齢1000年近くある樹木の樹脂を塗って数時間低温で加熱する。またもや、水で綺麗に洗い流した後に、ぬるま湯に一日浸けておく。
そして、この方法にすることで、その直方体の鉄鉱石の中心がより純度が高くなるため、最高級の自作の砥石をトンカチで軽く叩き、外側を削っていく。
そうして、大まかな刀の形を造ったら、砥石で本格的に研いでいく。約2週間。
だが、早く上手く行けば3日で良いときもあるし、逆に全然できないときは納得するまで1ヶ月掛かることもある。
こうして完成するのだが、彼のこだわりは事細かで、恐ろしいほどだ。
火の焼き加減も、今までのを記録し、最適な時間に最適な温度で加熱するという微調整。
水も鉱山で取れた天然水を使用している。砥石も、高級な大理石で作られているもの。
トンカチも10個近く持っており、行程に応じて変えたり、力加減も微妙に変えていったりしている。
砂で研ぐという行程もあるが、遠くの海から取り寄せた、炭素を多く含む砂を取り寄せている。
その山の空気も、世界で有数の澄んだ空気の山だ。更に、標高が高いため、太陽により近い。
もはや、こだわりの域を越えている。
そんな刀壱郎は、刀鍛冶に尽くしすぎて、ある欠点がある。
刀の才能は、恐らく国家精鋭隊並の技を持っているが、魔法に関しては...。
うん、察して?
彼は、魔法が全く使えない。
小学生でも、火の粉なら魔法で起こすことができる。
だが、刀壱郎は小さい頃から、木を拾ってきては木刀を造り、日夜振り回していた。
元々器量が大きい刀壱郎は、刀使いはもはや天賦の才能を持っていた。
体に染み付くほど振った刀は、振ったときの風圧でヒビが入るほど使い古されていた。
だが、小学校等の、義務教育過程を達成できていない彼は、魔法を習得できていない。
それだけの器量を持っていながら、魔法が使えなければ、戦闘系の仕事には就けない。
1つの事に没頭し、極めあげてしまった彼を責めることはできない。
恐らく彼が魔法を使えていれば、この世界で最強クラスの戦士になれただろうに。
悲しきことである。
その後も刀に尽くし続けた刀壱郎は、ある日、息を絶やした。
死期を悟った彼は、残りの時間全てを掛けて、1本の刀を精製した。
その名も、羅刀毘沙門天。
この日、世界最高峰の刀が出来上がったことを、彼を知ることができなかった。
造り終えた瞬間に息絶えたのだ。
ここだけの話、彼の寿命は既に越えていた。ただ、その刀を仕上げるという使命感とやらが、彼の寿命を引き伸ばしたのだ。
恐ろしい男だな...。
0
あなたにおすすめの小説
真実の愛ならこれくらいできますわよね?
かぜかおる
ファンタジー
フレデリクなら最後は正しい判断をすると信じていたの
でもそれは裏切られてしまったわ・・・
夜会でフレデリク第一王子は男爵令嬢サラとの真実の愛を見つけたとそう言ってわたくしとの婚約解消を宣言したの。
ねえ、真実の愛で結ばれたお二人、覚悟があるというのなら、これくらいできますわよね?
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。
柊
ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。
そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。
すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる