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第一章_サヨナラ、コンニチハ

第1話:サヨナラ我が家

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 「とりあえず居住できる場所を確保しないとな。」


 こんな言葉を発する日が来るなんて。

 1ヶ月前は、思ってもいなかっただろう。

 時は1週間前に遡る。

 ~~~~~~~~~~

 ヴィンナー王国、首都 ルカン。
 
 そこに王国の拠点、ヴィンナー要塞城が在る。

 国王の名は、ルーカイ。大陸一の王国を築き上げた、張本人である。

 それだけの人物であって、なかなか気難しい人だった。

 部下には厳しく、子供たちにも容赦はしない。

 
 第一子は、長男の ルーク。

 拳闘師として、幼い頃から才能を発揮した。

 ルイセンと10も歳が離れていて、とても気が合いはしなかった。


 第二子は、長女の アンネ。

 魔術師として、幼い頃から才能を発揮した。
 
 ルイセンと8つも離れていて、アンネが主にルイセンの面倒を見てくれた。

 
 第三子は、次男の ルイシュタイン。

 薬学師や医療師として、頭の良さを発揮した。

 ルイセンと5つ離れていて、ルイシュタインとルイセンは仲が最悪だった。


 そして第四子が ルイセンである。

 大して目立った才能はなく、簡単に言うと“凡人”だった。

 いつも兄達にいじられ、苦痛を味わう日々が続いた。

 
 第五子は、次女の アリス。

 剣士として、幼い頃から才能を発揮した。

 ルイセンより、2つ下でルイセンには興味なしだった。


 母は、アメジスト。

 詠唱師として名を馳せ、子供の教育に熱心。


 父は、ルーカイ。

 大陸一の王国を築き上げ、部下を日々しごいている。


 ルイセンは誰からも大事にされなかった。
 
 そんな日々が続き、ある日。事件は起こる。



 いつも通り廊下を歩き、朝礼の集会に向かった。

 集会は自棄やけに重苦しい雰囲気だった。

 
 「父上?何かあったのですか?」

 
 ルイセンはただ疑問をぶつけた。

 すると思いもよらぬ答えが返ってきた。


 「お前。夜な夜な、城外に出て遊んでいる。という事を聞いたのだが?」


 信じられなかった。そんなことするはずがない。

 
 「そんなことしておりません!ベッドに入ったら、すぐに寝付いてしまいます。」


 「それがお世話役の、ヨーゼフが言っていた。」


 嘘だ!あの優しいヨーゼフが、そんな嘘をつくとは思えない。


 「見間違えではないでしょうか?夜は顔が見づらいでしょう。」


 「いぃや。ヨーゼフはお前から、遊んでくる、と言われたと言っていた。」


 そんなこと言っていない。どういうことだ?

 状況が読めず、目の前が暗くなっていくのを感じた。


 「そんなこと言ってな...」


 「もういい。お前を正式に、王族から追放する。
  もうお前は、俺の家族じゃない。」


 なにも言えなかった。

 訳が分からないまま、何かが崩れ去っていく感覚に捕らわれた。

 ふりだしに戻っていく。


 「でも急に一人では生きていけないだろう。
  出来損ないだからな。
  山に住んでいる、ルーコラ叔母さんを覚えているか?
  .......」

 
 ルーカイの声は、もう聞こえなかった。

 呆然としていた。

 だが着実に、玄関に向かっている。

 もうここに居場所はない。

 それだけは理解できた。

 そして俺は、少しの食料と、道具を持ってヴィンナー要塞城を出ていった。


 ~~~~~~~~~~


 あれからどれだけ歩いてきただろう?

 目は涙で溢れ、腫れている。

 通りすぎる人も、少し驚いてルイセンの顔を見る。

 どれだけ酷い顔をしていたのだろう?

 だけど一歩一歩足を運び、何処かに向かって歩いていった。


 ~~~~~~~~~~


 そしてもう涙も出尽くした時。

 木が生い茂る森にやって来た。

 ここがどこだか全く分からない。

 だが、脚がパンパンで、とても痛いことから、要塞城からは随分歩いてきたはずだ。


 「ここ、何か。見たこと有るような...?」


 気のせいか。

 それより今は、休みたい。

 脚がとてつもなく疲れている。

 更には睡魔も襲ってきている。

 空は夕焼けが綺麗に輝いていた。

 今日の朝の、朝日の何倍も綺麗に輝いていた。

 寝床を確保しなければならない。一応寝袋は持ってきたが、土地に凹凸があっては体が休まらない。

 そこで、いい感じに平たい土地を探した。

 森を歩いていると、不思議と気持ちが軽くなるような気がした。


 「これが自然の力ってやつだな。」


 さっきまでショックで心が痛んでいたのに、今はもう前向きに考えている。


 「自然に包まれるって、本当に良いな!」


 もはや今の方が、楽しいかもしれない。

 これが自給自足サバイバル生活ってやつだ!

 何だか心が弾んだ。


 ~~~~~~~~~~

 
 そして探すことおよそ10分ほどで、平たくて柔らかい土地を見つけた。

 この森は本当に過ごしやすそうだ。

 10分で、薬草ときのこを採集できた。

 だが詳しい知識がないため、薬草が安全か?きのこに毒は入ってないか?など、分からないことだらけだった。


 「とりあえず今日は疲れたから、寝よう....ファァ...」


 気がつくと、辺りは暗くなりかけている。

 どうか魔物がいませんように!

 そう祈りながら、ルイセンはすぐに眠りに着いた。

 
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