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第二章_料理人として

第5話:見えてくるもの

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 ぼんやりと目を覚ました。

 その日は、雨が降っていた。

 ちょっとドンヨリだったが、料理人として早起きして朝食を作らないといけない。

 王族の頃から、朝は苦手だった。


 「よぉし、朝食作るぞぉ...ふあぁ」


 トロールに指示をするが、その声に気が入っていなかった。

 昨日の夜は、ランコウ草を洗ったりなど、寝るのが遅くなってしまった。

 その途中から、体に異変を感じた。

 今日も少し違和感を感じるが、眠気も吹き飛ばして朝食を作った。


 《豚ダレ焼き肉》

 倉庫にあった豚の腹の部位を切り取る。

 1cmの厚さに切り、10cmほどの長さで均等に切る。

 胡麻や大豆、樹油を混ぜて発酵させた特製ダレで焼く。

 きつね色になってきたら、塩をパッと振り掛けて完成。


 《ヘルシーサラダ》

 ヘル という草をたんまりと使ったサラダ。

 それとシーで捕れた、魚を使用して作る。

 イコール、ヘル シーサラダ。

 ヘルを切り刻んで、ドレッシングを掛ける。

 その後、鮭の肉(サーモン)を切って盛り付ければ完成。


 トロール達は大食いではなく、そこまで用意しなくても足りる。

 だが、トロール達はたくさん報酬の食糧を貰ってくる。

 生産者は腐るほどあるが、消費者があまりにも拙い。

 どうにも釣り合ってるとは言えない。


 「ッ!」


 急に喉が詰まるような感覚に捕らわれた。

 
 「グゥッッッ...!クッ...」


 心臓に激痛が走った。

 ヤバイ!胸が痛い!心臓が...い...た.....

 視界が暗くなり、意識が遠のいた。

 ~~~~~~~~~~

 目が覚めるとそこはベッドの上だった。

 どうやら病室のようだ。

 せっかく森にやって来たというのに、早々倒れてしまうとは。


 「あら、目が覚めた?」


 「ん?人語?」


 人語を喋るその者を見ると、どうやらトロールではないようだ。

 体は薄茶色(ペールオレンジ)で、人と大して変わらない。

 が、足が大きく、全身の筋肉が発達しているようだ。

 
 「まだ安静にしてなさい。」


 どうやら性別は女性で、顔からして30代だろうか?


 「あの、あなたは誰ですか?」


 「あぁ、私は森の精霊フェアリー慈愛の精霊ルーヴィング・フェアリーよ。」


 せ、精霊?精霊って、人には見えないとか、そんな感じじゃなかったっけ?


 「精霊って、人に見えるんですか?」


 「今は人に見える、可視状態だからね。仮の姿で、本当の姿ではないわ。」

 
 なるほど。そんなことができるのか。


 「ウッ...!ッゥ!」


 まだ心臓に痛みがあった。


 「ほら、安静にしてなさいって言ったじゃない。
 まだ寝てなさい。」


 トロール達には迷惑を掛けちゃったなぁ。

 倒れてからどれだけ時が経ったのだろう?


 「あのぉ、倒れてからどれだけ時間が経ちましたか?」


 ルーヴィングは、呆れているようだった。


 「今は寝た方が良いわよ。」


 「これが最後だから。」


 仕方ない、という顔をして教えてくれた。


 「倒れて運ばれてきて、3日が経ったわ。
 それと、トロール達はちゃんと自分達で料理するって。心配しないでほしいって。
 まぁ、元通りの食生活に戻っただけってこと。」

 
 良かった。困ってはいないようだ。

 安心して、ベッドに身を任せた。

 それにしても、ルーヴィングは美貌だった。

 昔会った、隣国の王女プリンセスに似ている。

 その王女とは仲が良かった。そしてルイセンは、王女のことが好きだった。

 そんな恋心も虚しく、ルイセンが4歳の時に王女は失踪してしまった。

 未だに見つかっていない。

 恐らく死んでしまったのだろう。

 昔の思い出に耽って、気づけば寝ていた。

 ~~~~~~~~~~

 さっきまで顔に照りつけていた日光は、いつの間にか月光に変わっている。

 あれからまた半日が過ぎた。

 胸の痛みは、随分と治まった。だがまだ違和感を感じる。

 あれだけ眠ったため、夜なのに眠気を感じない。


 「起きたわね。そろそろ完成しそう。」


 完成?なんのことだろうか?


 「完成って、どういうこと?」


 「あぁ、説明してなかったわね。あなたは、異才者いさいしゃなの。
 異才者はその名の通り、異才を持つ者。
 異才者の特徴が、成長が著しく乏しいということ。
 そして異才者は、“ある時才能に目覚め、急成長する”傾向がある。
 詳しい正体は研究者も分からない。けど、今のあなたは武に関しても、文に関しても、成長したはずよ。
 これからは、思う存分才能を発揮できるわ。」


 異才者?俺って、そんな凄かったの?!

 小さい頃から、自分には兄や姉みたいに特別じゃないって分かってた。

 それがコンプレックスだったし、致し方ないと思っていた。

 今の俺は、成長したのだろうか?


 「でも、まだ完全形態ではないわ。もう少し待ってね。」


 ルーヴィングは、成長を確かめたいルイセンの気持ちを察し、警告した。

 ルイセンは、月光を浴びながら、天井を見つめた

 今までは序章に過ぎなかったんだ。これからが、本当の自分。本番なんだ。

 実感は湧かなかったが、前向きに考えた。

 トロール語も覚えられるかも、モンスターと戦えるかも、等今まで絶望的だったものが、希望に変わった。

 だがそれと同時に、恐怖も覚えた。

 手に入れた才能を制御できるか、暴走はしないだろうか?

 だが今自分ができることは、待つことだ。

 ルイセンは、また眠りに着いた。

 ~~~~~~~~~~

 その夜は何度も起きてしまった。

 眠くないものそうだが、体の異変にまだ慣れていないのだ。


 「......そうね。彼だわ.....」


 隣室から声が聞こえた。

 ルーヴィングの声だろう。

 ルイセンは、壁に耳を当て、良く聞いた。


 「彼はルイセンね。久しぶりすぎて、驚いたわ。」


 誰かと話しているようだ。それにしても、ルーヴィングは、ルイセンを知っているようだ。

 どうやら最近東洋から伝わった、最新式の連絡方の電話を使って話しているようだ。


 「小さい頃は、もっと可愛くて、愛らしかったけど、随分と凛々しくたくましくなっちゃって。
 でね、ルイセンはどうやら異才者らしいの。.....そうよね。」


 相手の声は聞こえなかった。だが、ルイセンの小さい頃を知っているって、ルーヴィングは誰なんだ?


 「じゃあ、いつかまた会いに行くわ。」


 と言って、電話を切ったようだ。

 するとこっちの部屋に向かってきた。

 急いでベッドに潜り、寝たふりをした。

 ルーヴィングは、隣のベッドに身を入れた。

 謎が深まるルーヴィングだが、考えても答えは出てきそうにない。

 ルイセンは今日で5度目の眠りに着いた。


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