待ち人は、いつも傍に‥

白樫 猫

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4話

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街路樹は秋の装いで、金色の葉をたくさん落とし、歩くたびにサクサクと音を立てる。冷たい乾いた風が吹くと、サーッと葉が擦る音がし、金色の葉が揺れ舞い落ちる。まるで祝福を受けているかのように。
そんな些細な出来事でさえ胸が高鳴るのは、同じ視線で、同じ方角を見て、同じ歩幅で歩く、隣にいる人のせいだと、朝陽は葵の横顔を見てフフッと笑いを漏らす。

葵の手には、先程スーパーで買いだめした食材が入っており、今日は一緒に鍋でもしようと話をしていた。
さらに会話はくだらない方向へ進み、自分の方が好きの気持ちが大きいとか、好きになったのは自分の方が先だとか、そんな事で言い合いをし、最終的には、葵が朝陽を追いかけるように高校も大学も決めたのだと話をされ、葵の方が気持ちが大きいと、結論を出された。

「分かったよ‥それで良いけど、俺だって、お前の事が好きな気持ちは、お前に負けないからな‥」

などと、堂々巡りしそうな会話をして、二人で笑いあっている。

アパートの手前には、子供達がよく遊んでいる公園があり、今日もその脇の道を通っていると、キャアキャアと騒ぐ声が聞こえ、ふと視線を送る。
公園の中には、子供や母親達が大きな木の近くに集まり騒いでいるのが見え、何気なく見ると、その大きな木の下に白い犬が繋がれていた。
何事かと、二人が近づき声を聞いてみると、どうやら、昨日からここに繋がれている白い犬の飼い主が分からず、保健所に誰が連絡をするのか、そんな話をしていた。
昨日から、ここに‥?
朝陽がチラリと犬を見ると、グッタリと寝そべっている様子に、いてもたってもいられずに、周りの母親に声を掛けた。

「あの‥飼い主が居ないんですか?」

振り向いた母親が、ハッと朝陽の顔を見て息を呑んだが、すぐ隣に立っている葵の顔を見てふにゃりと笑顔になる。

「そうなの‥結構大きいでしょ?子供たちが心配で‥」

朝陽が近づいてみると、犬が口でハァハァと呼吸している。

「水とか‥餌とかは‥?」
「分からないわ‥」

その言葉に、朝陽は持っていた水のボトルを開けると、葵に渡した。

「これ、俺の手に注いで」

そう言って、自分の手をお椀代わりにすると、葵に注いでもらい水でいっぱいになった手を犬に近づけた。

「ほら、水だよ‥わんちゃん‥飲める?」

クンクンと匂いを嗅ぐように反応した犬は、指の間からポタポタと零れる水をペロリと舐めると、すぐに手の中の水に気が付いたのか、身を起し朝陽の手からペロペロと水を飲み始めた。

「‥美味しい?」

空になった手に、再び水を注ぎ入れると、また犬に差し出す。
しばらく夢中で飲んでいたが、満足した様で、犬はお座りをしてしっぽを振った。
その白い犬は、毛艶もあまりよくなくて、薄汚れていたが愛嬌はあった。

「‥保健所を呼んだ方が良いわよね‥」
「そうね‥私が連絡してみるわ‥」

そう言って電話番号を調べている母親の横では、別の親がヒソヒソと呟くのが聞こえた。

「でも、保健所に行っても、結局、殺処分になるのかしら。ほら、見た感じ老犬だし‥」

その言葉に、朝陽の胸がギュッと痛む。

「‥お前、帰る家がないのか?」

頭を撫でながら犬に聞いても返事がある訳でもなく、ただしっぽを振り頭を傾げている。
首輪を見ても、飼い主の情報がある訳でもなかった。

「‥うち‥来るか?」

ボソッと言った言葉に、分かったのか犬がワン!と力強く返事をした。
いきなり吠えられ驚いたのか、母親達は蜘蛛の子を散らすように去って行った。

「クスクスッ‥お前、言葉が分かるみたいだな‥」

朝陽が笑いながら話しかけると、またワン!と楽しそうに吠えた。
結ばれている木から鎖を解くと、犬は嬉しそうに朝陽と葵と並んで歩く。




翌日、朝陽と葵は犬を動物病院に連れて行く。

「雄ですね‥飼い犬でしょうね。一応、ワクチンを打っておきます」

返事をすると、医師が神妙な顔をして言った。

「どうしますか?犬は拾得物になるので、警察に届ける事と‥後は、センターに連絡して預けるとか‥になりますが、おそらく‥10~12歳くらいでしょうか‥それだと、貰い手もなかなか厳しいのが現実です‥」

やはり、見たままの老犬だったようだ。

昨日は、自宅に連れて帰り、すぐにホームセンターへ走り必要な物を買い込み、帰宅してすぐに風呂場に籠り、嫌がる犬と格闘しながらシャンプーをしてドライヤーで乾かし、ご飯を上げて‥なんて世話をしたもんだから、愛着が湧いてきた。
飼ってあげたい気持ちはあるが、アパートではなかなか難しい。

犬がキュルンと愛らしい瞳を、こちらに向けてくる。

「葵‥どうしよう‥」

葵に向けた朝陽の瞳も、犬と全く同じで、葵の返事はもう決まっていた。

「はぁ~どうしようって言っても、もう手放せないでしょ?」

その言葉に、朝陽の顔が満面の笑みに変わった。

「‥ありがとう」

これが惚れた弱みって事か‥葵は朝陽が犬に抱き付き笑っている姿を、愛情深く見つめていた。

アパートは父親の物だが、やはり他の住人の事もあるから、無駄吠えさせない事と、他の住人から苦情が来たら、自分達で解決する事、出来なかったら退去するとの方向で了承を得た。
まぁ、6室ある部屋の4室しか現在は埋まっておらず、他の2部屋は2階の住人で、殆ど姿を見ない。
おそらくセカンドハウス‥倉庫のような形で借りているのだろうと、葵の父親が言っていた。
そんな事で、我が家の家族の一員となった犬に、早速名前を付けようと、一匹と二人は部屋の真ん中で見つめ合っていた。
頭を捻る事10分。
朝陽がせーので言おうと言いだした。
実際、葵は何でもよかったが、楽しそうにする朝陽に水を差すのが嫌で、頷いた。

「せーの!」
「ビル!」「ビル!」

同時に同じ名を呼び、二人がゲラゲラと笑いだす。
二人がジャズを好きになったキッカケの有名なピアニストの名だ。

「やっぱ、ビル・エヴァンスのビルって言うと思った」

葵がそう言ってニヤッと笑うと、朝陽もケタケタと笑いだす。
何が面白いのか分からず、ビルと命名された犬が、楽しそうにピョンピョンと跳ねた。

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