待ち人は、いつも傍に‥

白樫 猫

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16話

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玄関から出てきたのは、葵の母親だった。
何年振りだというのに、つい先日も会ったかのような懐かしさが、朝陽の中に込み上げてくる。
朝陽の顔を見た瞬間に、葵の母親の瞳が涙で濡れたが、すぐ隣に居る凛太朗の姿に気が付き、戸惑いの表情を浮かべた。
朝陽が葵の顔を見上げると、口元をギュッと結び眉を寄せ、泣きそうな顔をしていた。

「‥ご無沙汰しております」

朝陽が腰を折り丁寧にお辞儀をすると、合わせる様に葵も頭を下げた。

「すみません‥こいつは橘凛太朗と言って、俺達の大学の後輩です。葵とも俺ともすごく仲良くしてたんで‥一緒に良いですか?」

母親にとっては初めましての男が急に来たのにも関わらず、葵の母親は嫌な顔ひとつも見せずに、ニコリと微笑むと、良いわよ‥と頷いた。
どうぞ‥と、促されるままに家に上がると、懐かしい葵の家の匂いがした。
小さい頃はお互いの家に入り浸り、ゲームをしたりお泊り会をしたりと、懐かしい思い出がいっぱいだ。
靴を脱ぎ、チラリと横を見ると、葵がそっと目を拭っているのが見えた。
それを見て、朝陽は胸がギュッと締め付けられる。
先を歩いている母親の後ろを付いて歩き、リビングに案内されると、そこには葵の父親と、葵の弟の碧葉あおばが座っていた。
幼い頃は、よく一緒に遊んでいた碧葉に会うのは久しぶりで、見た瞬間に葵に目元が似ていて、思わず息を吞んだ。

「ああ、朝陽君‥久しぶりだね‥」

父親が声を掛けてきたので、朝陽は頭を下げ挨拶をした。

「ご無沙汰しております。その節は‥大変、ご迷惑をお掛けして・・」

あの時、自分が倒れた時の事を言ったのだが、父親は手を横に振った。

「いや、迷惑だなんてちっとも思ってないよ。むしろ‥‥私には‥感謝しかない‥」

そんな言葉に、朝陽がどれほど救われるか、朝陽の瞳の奥がまた熱くなる。
凛太朗の紹介をしていると、母親がコーヒーを出してきて、一緒にソファに腰掛けた。

「あのね、ニュースにもこれからなると思うが、その前に、朝陽君には知っておいて欲しいと思って‥急に呼びつけてしまって、悪かったね」
「‥いいえ、大丈夫です‥」

神妙な顔をした両親と弟の碧葉が、再びジッと朝陽を見つめた。

「警察の人が言うにはね、葵はあの夜‥あの近所の公園で、女性が乱暴されているのを見て、助けたらしいんだ‥」

その衝撃的な話に、思わず朝陽は隣に居る凛太朗‥葵の顔を見ると、葵は強張った顔をしているが、小さく頷いた。

「それでね‥葵は‥犯人と揉み合いになって‥相手が持っていたナイフで刺され‥犯人はヤクザ者でね、女性は逃げ出せたけど、報復が怖くて通報が出来なかったらしい。そして、犯人は‥葵を車に乗せ‥静岡の山奥に埋めたって‥携帯は、途中のサービスエリアで鳴っているのに気が付いて、そのまま捨てたそうだ‥」

返す言葉が何も出てこない‥信じられない事実に、頭が混乱する。
呆然としている朝陽に、父親が話を続ける。

「今回、その犯人が、別の犯罪で逮捕されてね‥余罪を調べている時に、その女性が、ようやく口にして、それで犯人が殺したと自供した。それで葵を‥‥埋めた場所も特定できた・・」

隣で聞いている母親も、話している父親も、ジッと俯いている碧葉も、朝陽も葵も‥みんないつの間にか泣いていた‥声は出ず、静かに涙を流していた。

そして、ゆっくりと父親が手元に出した段ボールを開いた。
中を見て、朝陽は目を瞠った。
中にはビニール袋に入っている、あの時‥薄っすらと記憶にある、葵が着ていた服‥それが泥まみれになり、所々が破け酷い状態で折りたたまれていた。
それを見て、あの時‥『散歩がてら薬を買ってくるよ‥寝てろよ‥』そう言った葵の姿が目に浮かんだ。

「‥ああっ‥‥葵‥‥っ‥‥葵‥‥」

そのビニールを抱き寄せ、朝陽は何も考えられなくなるほど泣き叫び、その姿を見て、母親が朝陽を抱き寄せた。

「‥ごめんね‥また、思い出させちゃって‥朝陽君‥ごめんね‥」

部屋に朝陽の嗚咽が響き渡る。

「‥っ‥申し訳ありません‥俺が‥俺が風邪を引いたりしなければ‥っ‥葵に‥薬を頼まなければ‥‥こんな事には‥‥本当に、申し訳ありません‥」

膝に擦り付ける様に、深く深く頭を下げる。
その朝陽の身体を支え顔を上げさせたのは、母親だった。

「そんな事、言わないで‥っ‥葵は‥後悔なんてしていないはず‥女性が‥救われたんだから‥朝陽君のせいじゃない、朝陽君が傷付く事なんてないのよ‥」

母親の言葉に促されるように、父親も大きく頷いた。

「そうだよ‥葵は、その女性を助けたことも、あの時、出掛けた事さえ後悔はしていないと‥私はそう思いたい‥」

そう言って父親は、段ボールから何かを取り出した。
それは、葵の財布だった。
それも泥で汚れていたが、おそらく警察か両親が綺麗にしたのだろう、中身を見せてくれた。
少しのお金と、運転免許所‥数枚のカードが入っていたが、その他に、葵と朝陽が笑顔で写っている写真が入っていた。
周りは泥にまみれ、色あせてはいるが、ハッキリと自分達だと分かる。
そして、父親が朝陽の手に握らせてくれた物は‥あの時‥朝陽の誕生日に貰った、葵がずっと薬指にはめていた‥Beloved Asahi と刻まれているペアリング。

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