待ち人は、いつも傍に‥

白樫 猫

文字の大きさ
19 / 33

19話

しおりを挟む
葵の実家に行った日から、毎週のように凛太朗はカフェに顔を出すようになった。
それでも、葵が凛太朗に憑依?する事は無かった。
朝陽は不安になり、凛太朗が来るたびに、そこに葵がいるのか確認する事になる。

「ええ、ちゃんといますよ‥」

凛太朗の言葉に安心している自分がいるが、葵の声を聞く事も姿を見る事も出来ない自分がもどかしい。

「なぁ、凛太朗‥お前さ、葵がお前に憑りついてる時って、お前は何してんの?意識はあるの?」

朝陽の言葉に、何故か凛太朗は顔を赤くした。

「‥はい、意識もありますし、感覚もあります‥それに、葵さんの気持ちも一緒に感じます。まるで‥自分の事のように‥」

だから、葵が朝陽に触れる度に、自分にも感情が溢れてくるのが、凛太朗には少し恥ずかしかった。
現在、付き合っている恋人などはいないが、凛太朗にとって恋愛対象はいつだって女性だったし、男性に対して、こんなにドキドキとしてしまう自分にも驚いていたのだ。

「ふ~ん、そっか‥」

そんな凛太朗の気持ちを知ってか知らずか、あっさりと呑気な返事をしている朝陽に、凛太朗は苦笑するしかなかった。

「‥ビルも、まだいる?」

自分の足元を見ながら、朝陽が再度聞いてくる。

「ええ、もちろん‥朝陽さんの足元に居ますよ‥あっ、名前呼ばれたから、シッポ振ってます」

その言葉に、朝陽は嬉しそうに微笑む。
柔らかな優しい笑顔。
見た目は鋭い瞳のせいで、一見怖そうに見えるが、凛太朗は初めから怖いとは一度も感じなかった。
むしろ可愛いとか‥守らなきゃとか‥そんな気持ちが込み上げてくるのだ。
これが、葵の影響なのか、今はまだよく分からなかった。

「あっ、ちょっと待って‥ビル?‥やっぱり、ビルがちょっと薄くなってる‥」

凛太朗のその言葉に、朝陽は衝撃を受ける。

「どっ‥どういう事?」
「いや、分かんないけど‥なんか、俺が初めて会った時より、透けて見えるって感じ‥」

凛太朗の言葉通り、始めの頃は、しっかりと犬の形だったが、今は薄っすらと透けて形もボヤッとして明確じゃない。

「ビル‥?どうした‥?」

心配そうに朝陽が、ビルが居るであろう足元を見ながら声を掛ける。

「いや、嬉しそうです‥ワンワンって元気いっぱいです。けど‥やっぱり消えそう‥」
「嫌だ‥ビル‥お前、また俺を置いていくのか‥?」

朝陽の声が震えている。

こうやって、自分はまた一人になる‥。
もう凛太朗に、傍に葵やビルが居ると教えてもらう前には戻れない。
ひとりになりたくない‥。

「‥‥葵さんが、ビルはもう十分生きたから‥もう成仏させてあげてって‥」

その言葉に、朝陽がキッとくうを睨みつける。

「葵!!お前は‥残された‥‥ひとりで残された俺の気持ちなんて‥分かんないだろ‥なんで、そんな酷い事‥言うんだよ」

叫び声が響くと、朝陽は両手で顔を覆う。

「‥朝陽さん」

凛太朗が席を立ち、朝陽の傍まで行くと肩を抱き寄せる。
朝陽が凛太朗の腰に抱き付くと、凛太朗は優しく背中を撫でた。

「‥朝陽さん‥ビルは、きっと新しく生まれ変わるんですよ。新しい命を授かって、また再び生きるんです。この世のどこかに、ビルが生まれて、そして、また‥幸せな人生を歩むんですよ‥大丈夫です‥あなたは一人じゃありません‥」

優しく触れる手が、凛太朗のものだと分かる。
再びひとりぼっちになる恐怖が、少し和らいだような気がした。




12月に入ると気温がグッと下がり、飲み物もアイスが出なくなる。
ジャズが流れるカフェで、じっくりとコーヒーを飲み、身も心も温まって欲しいと、そんな穏やかな願いを込めて、毎日働いている朝陽だったが、今日は11時のオープン時間から、お客がひっきりなしに入り、ホッとする時間も取れずに、せわしなく働いていた。
15時を過ぎた頃、テーブル席の4人が帰って、ようやくホッとできるかと思いきや、すぐに入り口の扉がカランと音を立てた。
今日ばかりは、いつもの明るい「いらっしゃいませ~」とは言えず、ワントーン低い「いらっしゃいませ」となった。

「ほら、ここ‥お前ジャズ好きだろ?雰囲気もいいし‥」

お客が入り口で、一緒にいる連れに一生懸命説明をしているのを聞いて、朝陽は嬉しくて、自然と疲れがどこかに消え、にこやかに入り口に向かった。

「何名様ですか?」

そう問いかけ、お客を見た瞬間、ドキッと心臓が波打った。
奥に立っていた男は、よく知っている顔だったから。
佐藤佑二‥2年前まで、朝陽と付き合っており、酷い別れ方をしてしまった男。
佑二は一瞬、朝陽の顔を見て驚いた表情をしていたが、すぐに視線を逸らした。
手前の男が2名ですと答えたので、空いているテーブル席へと案内するが、朝陽は頭の中で、あの時‥別れた時の佑二の顔を思い出していた。
そして自分が、佑二を傷付けてしまったと、後悔した事‥。
お冷とおしぼりを出し、いつもの様に声を掛けカウンターに戻るが、一度も視線を合わせない佑二に、当たり前なのに、朝陽の気持ちが沈んでいく。
暫くすると、男が手を上げたので、注文を取りに行く。

「ホットコーヒー2つに、俺はフレンチトーストで、こいつが‥」

男がそう言って、チラリと佑二を見る。

「野菜サンド」

ニコリともせず、朝陽に視線をくれることなく言葉を発した佑二に、朝陽は頭を下げ復唱してカウンターに戻る。
朝陽の背後で、男が佑二に、どうしたんだよ‥そんな顔して‥と声を掛けていたのが聞こえた。
やはり自分に怒っているんだと、当然だと分かっていても、朝陽は胸の痛みに眉を潜めた。
注文通りに料理とコーヒーを提供すると、朝陽はカウンターで大きな溜息を付いた。
カウンターに座っている常連さんが、今日は混んでるから大変だね~と、心配そうに声を掛けてくれ、いや嬉しい事ですよ‥なんて笑顔で会話をしながらも、心の中では違う事を考えていた。

今になって気が付いたが、葵は亡くなってからずっと自分の傍に居たと言っていた。
ということは、自分が‥何人もの男性と一夜を共にしたり、今、目の前にいる佑二とも付き合っていた事を知っている‥って事なのか。
それなのに、自分は葵と離れたくないと‥そんな自己中心的な事を、言っていたのか‥。
そんな事を思い、朝陽は見えない葵を探る様に、天井を見上げた。

――葵は今‥どんな顔をしているのだろう‥。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら

たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生 海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。 そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…? ※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。 ※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

幼馴染み

BL
高校生の真琴は、隣に住む幼馴染の龍之介が好き。かっこよくて品行方正な人気者の龍之介が、かわいいと噂の井野さんから告白されたと聞いて……。 高校生同士の瑞々しくて甘酸っぱい恋模様。

恋の闇路の向こう側

七賀ごふん
BL
学校一の優等生として過ごす川音深白には、大切な幼馴染がいる。 家庭の事情で離れ離れになった幼馴染、貴島月仁が転校してくることを知った深白は、今こそ昔守られていた恩を返そうと意気込むが…。 ──────── クールで過保護な攻め×完璧でいたいけど本当は甘えたい受け

処理中です...