飛んで火に入る火取蟲

白樫 猫

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火を恋う青蛾は焔に焼かれ

12話

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獅道はテーブルに拳を振り落とした。
ガシャンと音がしガラスのテーブルがバラバラになり砕けた。

「落ち着いて下さい‥」

そう工藤に言われたが、落ち着けるはずもなかった。
先程から石塚の拠点に次々に部下を向かわせているが、すべてもぬけの殻だったのだ。
そして今、最後の拠点を調べた部下から連絡が入り、やはり誰もいなかったとの報告を受けたのだ。
今頃、響がどうなっているのか‥それを考えただけでも胸が苦しくなる。

「‥‥どうせなら‥俺を殺せばいいだろ‥」

低く唸った声に、工藤がギョッと視線を送る。

「早まらないで下さい。必ず‥助けましょう」

そう工藤が声を掛けた瞬間、獅道の携帯が鳴った。
それは初めに石塚から連絡が入って、きっかり1時間後だった。

『もしもーし』
「てめぇ!!」

楽しそうな声に、獅道は殺意を隠すことなく言葉を吐き出す。

『クスクスッ‥かなり焦ってるね‥どう?1時間楽しんでくれた?』

にやけた石塚の顔が目に浮かんで、獅道は唇を噛み締める。

『あっ、そうそう、お前の可愛い子ちゃんは、俺の部下みんなに回されちゃって‥‥クックッ‥楽しませてもらったよ‥あそこの具合も良くってさ‥ああ、声を聞かせてあげようか?』

石塚はそう言うと、すぐ傍で男達に突っ込まれ喘いでいる響の声を聞かせた。

「‥殺してやる‥お前を絶対に殺す!」

獅道に尋常じゃない怒りが沸いてくる。

『まぁまぁ、返して欲しいなら、お前と交換で返してやるよ。そうだな‥このままだとヤリ潰れて死んじゃうから、早い方がいいだろ?』

呑気そうな声に、怒りが沸き立つが、獅道は大きく息を吐き出し冷静さを取り戻す。

「分かった‥どこに行けばいい?」





獅道は告げられた場所に指定通り一人で来ていた。
車を降りると、数人の男達に囲まれボディチェックをされた。

「何も持っていない‥」

男達は頷き合うと無言のまま獅道の先に立ち歩き出す。
後ろから付いて行くと、だだっ広い廃倉庫の中に入っていく。
こんな場所に隠していたのかと、獅道はチッと舌打ちをした。
暗くて奥が見えないが、先に進むとようやく目が慣れ見えてきた。
そこには椅子が一つ置かれ、その椅子に全裸の響が縛り付けられていた。
痛々しくも両足は開かれ、血まみれになっている後孔にディルドが差し込まれ、ブルブルと振動していた。
幸いなことに、気を失っているのか獅道が近づいても、身動きひとつしなかった。

「よし、そこで止まれ‥」

石塚の声がし、あと数メートルという位置で獅道は歩み寄る足を止めた。
響の隣に立っている石塚の手にナイフが見え、それが今にも響の首を掻き切れるように、ピタリと当てていた。
響が少しでも動くと、スパッと切れそうだ。

「‥‥くっ‥そ‥‥」

握り締めた拳は自分の爪で穴が開き、血がポタポタと垂れ落ちる。

「‥俺が来たから、そいつはもう関係ないだろ‥解放してくれ」

絞り出すような声に、石塚はケタケタと笑いだす。

「何言ってんだよ‥解放した途端、暴れられたら困るんだよ‥」

そう言うと、石塚は胸ポケットからリボルバーを取り出し撃鉄を起し、狙いを定める様に獅道に向ける。

「お前が死んだら、こいつを解放してやるよ‥」

響の首元に当てているナイフがスッと動き、首に赤い筋が引かれた。

「‥‥っ‥俺が死んだら解放するって保証がないだろ!」
「クスッ‥まぁな。それも、お前次第だ‥どうするよ。ここで俺に打たれて死ねば、こいつも助かるかもしれない。ただ、今ここでお前が暴れると、確実にこいつは死ぬ」

ナイフで響の頬をピタピタと叩き、嬉しそうに歓声を上げる。

「‥‥早く俺を殺せ!」

獅道は覚悟を決めたように、その場に仁王立ちになる。

「そうか、潔い奴は好きだぜ‥」

石塚はそう言うと、響に向けていたナイフを部下の男に渡し、リボルバーを獅道に向けた。
次の瞬間には、バンッと大きな音が反響し、獅道が地面に片膝を付く。
リボルバーからは薄っすらと煙が立っていた。
呻き声ひとつ上げない獅道の右足の腿からは、血がドクドクと流れ落ちている。
そして、その大きな音で響の意識が戻り、瞬きを何度も繰り返し、ようやく視点が定まったのか、目の前で膝を付いている獅道に驚き、隣で拳銃を向けている石塚をみてすべてを察した。
さらに自分の情けない姿が目に入り泣きそうになるが、もうすでに下半身は痺れ、痛みさえも感じない。
ただ、獅道が倒れているのを見逃すわけにはいかないと、声を振り絞る。

「‥し‥どう‥さん‥俺は‥‥だいじょ‥ぶ‥」

掠れる声が届いたのか、獅道が顔を上げ響を見つめる。
その瞳に哀れみを感じて、響の胸がギュッと苦しくなる。

「おや?目が覚めたんだね?ちょうどいいタイミングだ。これからクライマックスだからね‥楽に死なせやしない、苦しませて殺してやる‥」

石塚の目は狂気に歪んでいた。
そして再び撃鉄を起すと銃口を獅道に向けた。

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