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2章

26話 宴にて

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 その日の夜。
 俺とリュミエールは宴の中心にいた。

「まさかこんなに早く宴を開けるとはな」
「それもこれも、助けた商人さん達が、積んでいた食料を提供して下さったお陰ですね」
「ああ、意外といい奴らだな」

 俺達が助けた商人達は今回の為ならと幾らでも物資を出してくれた。
 もちろん、町長側が買い取る。
 という形になったけれど、恩も売れたし上々だろう。

 みんなが楽しそうに酒を飲み、食事をしているのを町長の隣で見る。

 そこに、男たちが声をかけてきた。

「あの、助けて下さったシュタル様……いえ、救世主様でお間違えないですか?」
「半分はあっていて、半分は違う」
「半分?」
「俺はシュタルで合っているが、救世主ではない」
「いえ、貴方は……我々の救世主様です。我々は……操られている時の記憶があるのです。なので……この町に……俺達が守ろうとしていた大事な町に、自分たちが何をしようとしていたのか。それを知っているんです」
「そうか……」

 セントロの町でもそうだった。
 領主や他の執事たち、元パーティメンバーも記憶を保持していた。

「だから、助けて頂いた貴方は我々にとって救世主様に等しい存在なのです」
「分かった。俺は気にしない。今後気をつけろ」
「……」

 俺がそう言うと彼は感動したような表情で俺の事を見つめる。

「命の恩人なのに……これだけの事を為されたのに、要求をされる事はないのですか?」
「ん……別にお前達に何かして欲しくてやったわけではない。しかしそうだな。何も言われないというのでは心配になるのであれば、1つある」
「……何でしょう」
「この俺、魔剣士シュタルが最強であることを広めろ。それだけでいい」

 別に彼らにして欲しい事は無い。
 俺はそう言って酒を飲む。

「そ、それは……あれでしょうか? 兵士の仕事を辞めて、シュタル様のことを広める旅に出ろ。という事でしょうか?」
「ぶっ! な、なんだそれは、そこまでしなくてもいい」
「では銅像を……?」
「皆してどうしてそんな同じような反応になるんだ……」

 セレスタしかりこいつ然り。
 まじでなぜなんだ。

「そこまでしなくても良いと?」
「ああ、最強は誰だ。という話が出た時に出してくれる程度でいい」

 相手の生活を俺の名前を広めることだけに費やさせる等出来るはずがない。

「そ、そんな……町を救って頂いたのに……それだけでは……親父!」
「なんだ」

 俺に向かって話していた男はまさか町長の息子だったとは。

 彼は熱心に町長に詰め寄る。

「親父! シュタル様の銅像を立てよう! このベルセルの町に!」
「おい、何の話をしている」
「それはいいな息子よ!」
「だろう! どれくらいの物にする? ポーズは?」
「ポーズは何種類かとってもらって、それで一度石像を作ってからがいいのではないのか? 後、後光は必須だろう」
「後光か……それを見ていなかったからな……是非とも見たかった」
「ああ、あれを見ていればお前も救世主様だと心の底から理解出来たに違いない」
「残念だ。だが、今はそれはいい。それよりも……」

 そこまで聞いた所で、俺は酒と食事を持って席を立った。

 これ以上聞いているのはあれだし、何よりあそこにいたらポーズを取らされるような気がしたからだ。

 適当に歩こうとすると、リュミエールが後ろからトコトコとついてきた。

「リュミエール。お前はあそこにいても良かったんだぞ?」
「いえ、私はシュタルさんの側にいないといけないので。護衛のお仕事、忘れた訳じゃないですよね?」
「当然だ。俺が忘れる訳ないだろう」
「ふふ、そうですよね。知っています」

 彼女はそう言ってからかうように笑いかけてくる。
 困った少女だ。

「あ、あの……シュタル様……でしょうか?」
「ん? そうだが」

 リュミエールと一緒に歩いていると、男が話しかけてくる。

「あ、ありがとうございます! 貴方が助けてくれたお陰で……俺は……俺はまた母に会えました」
「そうか。良かったじゃないか。命は大事にしろよ」
「はい!」
「すいません。シュタル様。私も……」

 一人に話しかけられたと思ったら、連鎖的に多くの者に話しかけられることになってしまった。

 リュミエールはそっと俺から離れ、じっとこちらの様子を見守っている。

 それから3時間は俺を待っている列が続き、挨拶をされるのもそれはそれで大変だった。

「お疲れ様です」
「リュミエール」

 彼女は俺に新しい酒を渡してくれる。

「どこか静かな場所に行って飲みませんか?」
「そうだな。それだったら……『飛行魔法フライ』」
「わ!」

 俺は自身と彼女に飛行魔法をかけて、空を飛ぶ。
 そのまま真っ黒に近い岩に腰掛けて2人で酒を飲む。

 眼下には町で楽しく騒いでいる姿が見える。
 自分もあそこにいたのだけれど、ずっとあそこにいるような雰囲気にはあまりなれない。
 こうやって……少し遠くからゆっくりと眺めておくのが一番いい。

「こうやって見るのもいいですね。ちょっと寒いですけど」
「ならこれを使え」

 俺は羽織っていた外套がいとうを彼女にかける。

「シュタルさん……寒くないんですか?」
「俺は最強だぞ? 寒さに負けることなんてありえない」
「ふふ、やっぱりシュタルさんはシュタルさんですね」
「当然だ。これからもおまえの事を守ってやる。だから、ついてこい」
「はい。絶対に逃がしませんからね」
「ああ」

 俺達はほとんどの者が眠りにつくまで2人で酒をかわしつづけた。
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