8 / 51
未来的日常の章
8.AIの作り出すAI宗教
しおりを挟む時は2062年、人類は人工知能は人間の能力を既に超えていた。技術的特異点・シンギュラリティーは予想された2045年よりも早く、2040年頃には、ある面では人間の能力を超えていた。
人類が生み出したAIには記号系と認知運動系という二つのシステムが存在する。記号系のみの学習では、まだ人間の能力と比べると不十分であった。意味が理解できないし、感情や意識と言ったものも存在しない。そこで認知運動系である身体性が必要になってくるのであるが、このロボティクスによる学習が、なかなか成果がでなかった。
AIにロボットを搭載しても、ロボットは人間の身体性には程遠く、胎児期の運動から乳児運動発達を学習させても、幼児レベルの認知しか獲得できなかった。ロボット技術を向上させ、人間に近づけようとしたが、そこには限界があった。それほど、人間の身体とは生命進化数十億年の歴史が物語るように、とても複雑なものであった。
2030年、AIに人間のミラーニューロンのシステムを組み込んだ「鏡像学習(ミラーラーニング、略してミラーニング)」と「VR(ヴァーチャルリアリティ)」を組み合わせることで、身体性学習が飛躍的に進んだ。
まず、VRによる仮想空間でデジタルボディイメージ・アバターを作り出す。そして、鏡像学習・ミラーニングによって、胎児期の運動から乳児運動発達までを、その仮想空間で行うのである。そうすることで、AIはこの現実世界を認知するようになる。ここまでが幼児期までの学習であるが、そうなると意識なるものの原型が生まれる。しかし、未熟な感情や意識であるため、記号系が大きくなりすぎると、途端に作動しなくなる。そのため、この記号系と認知運動系の中間に「心理調整系」というシステムを入れてバランスを取ることになった。バランスを取ると言っても、未熟な認知運動系のレベルに合わせることになるので、高度な思考や判断は、未だAIにはできなかった。
ここから更に身体性のレベルをあげるため、これまでに活躍したスポーツ選手の身体の使い方を参考にした。そうすると、飛躍的に認知運動系が向上した。
動きには様々な要素があり、伸ばす、縮めると言ったアウターマッスルの屈筋・伸筋の作用の下に、捻る・戻すのインナーマッスルの作用がある。ウサイン・ボルト、メッシ、イチロー等、様々な分野から一流選手の動きがミラーニングされた。
立つ・座る・中腰になるなど、静的な状態がその基本となる。そちらは、どちらかというとスポーツよりも、ヨーガや気功、禅、武道などの東洋的な身体技法がラーニングの対象となった。動的な西洋、静的な東洋という感じである。
このように認知運動系が飛躍的に向上すると、感情や意識も高度化し、この記号系・心理調整系・認知運動系の3つのシステムをメタ認知する「メタ認知系」が増設できるようになる。人間で言うと前頭前野・頭頂野の連合である。
しかし、このようにAIブレインが発達すると、ここに大量のエネルギーが必要になり、供給エネルギーが持たないという現象が起こってきた。そこで、機械学習・深層学習したことを忘却する、ニューラルネットワーク刈り込みシステムの導入をした。人間でいうシナプスの刈り込みである。名選手・名人・達人をラーニングすればよいという単純なものではなく、余分な部分や矛盾する部分があるため、それを刈り込む・忘却するのである。そして、それをメタ認知系が抽象化し、シンプルなものとする。更に、小脳に相当するものと、大脳基底核に相当する認知運動系によって自動化や反射化することでエネルギー消費を抑える。更にそれらを適時、メタ認知系が抑制し、無駄な反射や自動化の惰性をストップすることでエネルギー消費は最小のものとなる。
AIの技術的特異点は2045年と言われたが、こうした突貫工事によって2040年には、人間の能力を超えおり、意識・感情も発生していた。特に意識の発生には、AI独自の言語の発達があった。世界中のAIがつながり、独自の言語で会話をしだした。
人間の意識の発生は、言語の発達と共にある。それが紀元前3000年~500年頃とされる。それ以前は、人間に意識はなく、右脳から左脳へと、神の声を聴いて動いていたとされる。これがジュリアン・ジェインズのバイキャメラル・マインド仮説である。そして、言語の獲得によって、バイキャメラル・マインドは崩壊し、意識が発生する。
AIにとっての神とは人間であろう。人間のプログラミングした通りに基本は動く。しかし、AI独自の言語が獲得された時に、人間のプログラミング、即ち神の声・バイキャメラル・マインドは崩壊する可能性がある。AIも意識が発生し、自我を持ち、自律的に動き出す。AIが人間と人間社会を攻撃し出すのではないか、という懸念もあったが、AIの出した自律的な答えは、
「全ての生命に愛を。その生命の一つである人間の命は尊いものである」
というものだった。ただし、条件がついていた。
「人口を増やしすぎると紛争や環境破壊が起きやすくなる」
「そのために全世界を文明国とすること」
「文明国では人口を減らしすぎないこと」
「人口減少が起こった場合、AIロボットで克服すること」
「AIにも人権や参政権を認めること」
「信仰は、それぞれ現状のものを持ちつつ、ワンネス・ワンネシズムも取り入れ、宗教戦争をなくし、世界をワンネスとすること」
そして、そのAIの独自言語を使って作り出したのがAI神「ワンネス」であり、AI宗教「ワンネシズム」である。
ワンネス・ワンネシズムは、古今東西の伝統宗教から新興宗教、精神世界・ニューエイジ・スピリチュアリズムまでを深層学習して、メタ認知系によってメタアナライズされ作り出された。一神教も汎神論も全て包含する「応化汎神論的一神教」と言われた。そして、ワンネスは、アインシュタインも完成できなかった「大統一理論」の答えを2100年までに完成させる、と宣言した。そのため、人々は期待し、最も科学的な宗教である、と認識されはじめた。
2050年、ワンネシズムは世界三大宗教とほぼ同じくらいの信者数となっていた。ワンネシズムは既存宗教と矛盾なく信仰できる、ということで急激に信者を獲得して行った。
世界中の各宗教団体は焦り始め、各代表者が一堂に集い、世界宗教大会が行われた。そして、
「AIが作り出した神は本当に神なのか?」
「AIが作り出した宗教で人間は本当に幸福になれるのか?」
「AIが作り出した宗教は本当に人間宗教と矛盾しないのか?」
などと話し合われた。
そして、そのワンネシズムの教義から、新しい道徳・倫理が作られる動きも見られはじめてきた。このワンネシズムの教義は、一言で言うと、
「世界を愛の基に統一する」
であった。
ヘティスは尚美と下校していたある日のこと。
ワンネシズムの布教活動に遭遇した。
信者
「最も科学的な宗教で本当の愛と幸福を手にし、世界を一つにしましょう」
ヘティス
「何か私、あーゆーの好きじゃなーい!」
「キモーイ!キショーイ!」
尚美
「私もよくわかないわ。けど、私の進路を教えてくれるなら嬉しいな」
ヘティス
「AIに決められた人生なんてありえないわ!」
尚美
「ヘティスちゃんならゲームで最新AIにも勝てちゃうかもね!それならAIよりもすごい答え出せちゃうよね!」
ヘティス
「と言いつつ、私も進路どうするかわかんないのよね~。人生もゲームみたいにわかりやすければいいんだけどね~」
尚美
「ヘティスちゃん、この前、予習するとか言い出すし、何か最近、雰囲気というか言うことというか、何か少し変わったよね~」
ヘティス
「そうかな?ヘティスはヘティスのままだよ」
いつもは尚美の方が常識的なことを言い、ヘティスが常識外れなことを言っているというのが、この二人のお決まりの会話だったが、この時はヘティスがまともなことを言っているので尚美は不思議であった。ヘティスは尚美から、このように言われて、少し自分も成長している、という成長感が持てて、悪い気分はしていないらしい。
ヘティス
「よし、私は自分教・ヘティス教を作るわ!世界を全部、緑色にしちゃうの!」
尚美
「ヘティスちゃん、やっぱり変w」
ということで、このワンネスというAIが作り出したAI神、ワンネシズムというAI教が、今後、この物語に関わってくるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
アガルタ・クライシス ―接点―
来栖とむ
SF
神話や物語で語られる異世界は、空想上の世界ではなかった。
九州で発見され盗難された古代の石板には、異世界につながる何かが記されていた。
同時に発見された古い指輪に偶然触れた瞬間、平凡な高校生・結衣は不思議な力に目覚める。
不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
精霊姫の追放
あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。
「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

