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未来見学の章
ベーシックインカムとプライバシー
しおりを挟む2020年、不治の病に侵された少女・結海(ゆうみ)はヨットで世界一周をすると決めて航海に出たが、UFOのようなものに遭遇し、なぜか2062年の未来へとタイムスリップすることとなってしまった。そこで、ヘティスと結海は出会った。
未来の社会では、既にベーシックインカムとなっており、人々は創造的な仕事に専念していた。創造的な仕事をすることで、社会全体の生産性は向上し、その分、国は税金として大きなリターンを回収することに成功していた。
結海
「あ、ハーブティーおかわりしたら、トイレ行きたくなっちゃった!」
ヘティス
「あ、ちょっと待って」
ヘティスはスマートグラスを取り出して結海を見つめた。
ヘティス
「はい、うみみん、こっち見て」
結海
「ん?」
ヘティス
「私の目をみつめてw」
結海
「え?なんで?おしっこ漏れちゃうw」
ヘティス
「いいからこっち見てw」
結海
「・・・ん、こう?」
ヘティス
「はい、撮影OKよw」
結海
「撮影?」
ヘティス
「今、このスマートグラスで、うみみんを撮影したの。で、今から登録開始よw」
結海
「登録?」
そう言うと、ヘティスは空中で手を動かし始めた。
結海
「いきなり手を動かして、何してんの?」
ヘティス
「ああ、うみみんの時代には仮想PCはないのねw」
結海
「仮想PC?」
ヘティス
「今はもうPCってリアル空間にはないの。バーチャル空間にあってね、このスマートグラスをかけると、ホログラフィック映像の仮想キーボードが目の前に出てくるのよw」
「音声で打ち込んでもいいんだけどね。正確な情報を打ち込む場合は手動よ。“結海”を“ゆうみ”とフリガナをつけて登録する場合は、音声打ち込みより手動の方いいの」
結海
「パソコンもなくなっちゃったのね・・・。もうマジ、マンジ~なんだけどw」
ヘティス
「で、今、この仮想PCを使って、うみみんを同居人登録してるのw」
結海
「あ~、漏れちゃうwはやく、はやく~!」
ヘティス
「はい、終わったわ!じゃ、トイレに案内するからw」
ヘティスは結海をトイレに案内し、結海はトイレを済ませた。
結海
「あ~、超スッキリ!」
「未来と言ってもトイレは普通ねw広くて綺麗なトイレだったけどw」
ヘティス
「うみみん、アナタ、身体が酸性に傾いてるわ~。お野菜とか足りてないわよ~。あと、遺伝子にいくつかの病気になる因子があるわ。お金なくても食べ物には気をつけないとダメよ~」
結海
「え?なんでそんなことわかるの?」
ヘティス
「普通のトイレに見えるけど、スマートトイレと言って、そこで尿検査や大便検査をしてくれるのw」
結海
「え~、何ソレ~。ちょっとぉ、勝手に人のおしっこを検査しないでよぉ。プライバシーの侵害だわ~!ひっどーい!超サイアクなんだけど~!」
「も~、チョベリバでチョベルブ~!」
ヘティス
「あら、うみみんの時代の文化とは、ちょっと違うみたいねw」
「私たちは、個人情報を提供することにあまり抵抗感がないのかも」
結海
「だって、自分のおしっこのことを誰かに知られるのって嫌よ~!」
「うん○はもっと嫌~!」
ヘティス
「ごめん、ごめんw説明すればよかったわw」
「昔の人って、そんな感じだもんねw」
結海
「昔の人って・・・w」
「私、最先端の超ギャルなんだけど・・・w」
ヘティス
「個人情報が知られるって言っても、もちろん、この家のAIや同居者だけよw」
「けど、それでも嫌なのよね?」
結海
「そうね・・・wお父さんとか彼氏とかに知られたら嫌~w」
ヘティス
「まあ、個別にプライバシーは設定できるし、自分だけの設定もできるけどねw」
結海
「それならいいけど・・・w」
ヘティス
「私たちは、限定的な範囲で個人情報を提供することは嫌なことではなくって、逆にメリットがあることだって思っているの」
結海
「そうなの?」
ヘティス
「そうよ」
「だって、それによって健康状態の悪化がわかったり、逆にそれが改善されたりしたら、それはメリットよね?」
結海
「それは、そうだけど・・・」
ヘティス
「私は小さい頃から、私の生体情報をパパやヘパが見て来ているから、何とも思わないわwそれで食事管理してくれてるから、今、こうして元気でいられるしw」
「それに、生まれつき身体の弱い人は、全ての生体情報を医療機関に提供している人もいるわ」
「だって、誰でもおしっこはするものでしょ?」
結海
「そりゃ、そうだけど・・・」
もし結海が、この時代に生まれていたら、結海は病になっていないかもしれない、そのように結海は思った。
ヘティス
「それに、さっき話したベーシックインカムも同じよ」
結海
「え?そうなの?」
ヘティス
「うん」
「私たち国民は、それなりのレベルの個人情報を国に提供するの。所得とか、個人資産とかね。誰が、どれだけ稼いで、どれだけお金を持っているかを国は全部、把握するのよ」
結海
「え~!それも、なんか、見られてて嫌~!」
ヘティス
「けど、そうすることで、税金を誤魔化す人もいなくなるでしょ?」
「その方が平等な社会になるじゃない?」
結海
「けど、現金で持つ人だっているわよね?そうなると、完全に把握するのは不可能じゃないの?」
ヘティス
「“現金”ってのは、リアルマネーのこと?紙のお札とか、金属のコインとか?」
結海
「うん、こういうのよ」
結海が財布から1000円札や100円硬化を取り出した。
ヘティス
「あ、珍しいものを持ってるわねw」
「ネットオークションに出すと、きっと、いい値段で売れるわw」
「あ、このギザギザのついた10円とかすっごく価値ありそうww」
結海
「やっぱ、そういう反応なのね・・・。もう、慣れてきたわ・・・w自分が一気にお婆さんになった感じがして来たんだけど・・・ww」
ヘティス
「私たちの世界は、こういうリアルマネーはもう流通してないの。全部、デジタル通貨だし、暗号通貨で決済できるのもあるわ」
結海
「まあ、私たちの世界でも、キャッシュレスは始まっていたから、そういう反応は少し予想できたわ・・・w」
ヘティスは珍しげに貨幣を触って眺めた。その様子を、結海は不思議そうに眺めている。過去と未来では、お金の姿形は違うのだが、そのお金そのものの認識も変わっているのかもしれない、と結海は少し思った。
結海
「つまり、個人情報の提供とデジタルマネーになってるから、税金を誤魔化すことってできないのね」
ヘティス
「そうなの」
「だから脱税とかってのはないのよw」
「あと、確定申告も全て政府のAIが自動でやってくれるしw」
結海
「てゆーことは、後で税務署が入るとかってのもないのねw」
ヘティス
「そうね、それは時代劇のお話よw」
結海
「時代劇って・・・w」
この時代、税金を国に払うと、国から納税者へ「デジタル納税証明書」が仮想空間にて発行される。国民は仮想空間に国民IDがあり、このIDにデジタル納税証明書が紐づく。このデジタル納税証明書によって、その国のあらゆるインフラを無料で活用することができる仕組みとなっている。もし、納税証明書がない場合は、その国にインフラ税を支払って使うこととなる。インフラ税は頻繁に使用する場合、割高であるため、人々は基本的に、その国で経済活動をしたら、その国に納税し、デジタル納税証明書を取得するのである。
ヘティス
「うみみんは、さっき、ベーシックインカムについて“いいな~”って思ったでしょ?」
結海
「うん、超いいわw」
ヘティス
「けど、個人情報を国に提供するのは嫌なのよね?」
結海
「うん、それは嫌w」
ヘティス
「じゃ、“ベーシックインカム”か“個人情報の保護”か、どちらか、選ぶとしたらどっち?」
結海
「どっちか選ばないのいけないの?」
ヘティス
「そーね」
「どっちか選んでみてw」
結海
「うーん・・・」
「よくわかんない」
ヘティス
「私は、何もやましいことはしていないから、多少の個人情報を国に提供するのは何とも思っていないの。そりゃ、私は、ちょっと胸が小さいからスリーサイズを聞かれたりすると嫌だけど、そんな個人情報は提供しなくてもいいしねw」
結海
「私だって悪いことはしていないわ。けど、常に国に監視されてるって、なんか嫌・・・w」
ヘティス
「それよりも家賃や明日食べるもののお金を考えて生活する方が大変そう。そういう経験が私はないから、何とも言えないけど」
結海
「そうね、私も、家賃や食費は稼ぐものだって当たり前に思ってるけど、これがなくなったら楽よね~」
ヘティス
「楽もあるけど、その時に、うみみんがどんな創造的活動をしているか、そこに興味ない?w」
結海
「なんか、ヘティと話してると、創造的な私にチョー興味が出て来たw」
ヘティス
「でしょ、でしょw」
人類がベーシックインカムにシフトする時、それは楽な生活を送りたいとうモチベーションではなく、創造的な活動をしたい、というモチベーションになった時ではないだろうか。そして、その時は、所得や資産の情報を国に提供するという、プライバシーとのトレードオフによってベーシックインカムは行われるのかもしれない。
過去から来た結海と話すことで、ヘティスは、何かを得るには何かを譲らねばならない、ということを感じるのであった。
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