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天啓編

予言魔法との矛盾

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エリクは森を離れる前に、自身の師匠である蒼翔光に最後の挨拶をするために、彼の庵を訪れることに決めた。彼らは幻翠林の奥深くにある、美しい自然に囲まれた蒼翔光の庵に到着した。庵の入口には、静かに水が流れる小さな池があり、その横には庵の入り口を守る古木の扉があった。

エリクは深呼吸をして、扉をノックした。すると、扉の内側から優しく「どうぞ」という声が聞こえ、彼らは蒼翔光の庵に入ることができた。部屋の中は暗く、柔らかな照明が漂っていた。床には綺麗な敷物が敷かれ、一方の壁には大きな棚が置かれ、その上には様々な書物や魔法の道具が収められていた。

そして、奥の部屋には蒼翔光がいた。彼は白い髪と青い瞳を持ち、年を経た体にもかかわらず、その姿はなおも美しく偉大であった。エリクは深々と頭を下げ、「ご無沙汰しております。師匠、私は今回、王国再建のために、エリオットとイヴと共にやってきました。占星魔法により、私たちが王国を助けることができるという啓示を受けたのです」と伝えた。

蒼翔光は静かに頷き、優しく微笑んだ。「君たちは立派な使命を帯びて、また私たちの世界を救うために来たのだね。それでは、私は隠居の身となってしまっているが、代わりに私の弟子、エリク・シャドウスティールを推挙するよ。彼が君たちを王国再建のために手助けすることができるはずだ」と言い、エリクに目配せした。

エリクは再び頭を下げ、蒼翔光に感謝の意を示した。

そして、蒼翔光は、昔々、この地に大いなる力を持つ竜族の国があったことを語った。竜族たちは、人間たちと共存し、和平を築いていた。しかし、ある時、人間たちが竜族たちに対して戦いを挑み、竜族の国は滅びてしまった。竜族たちは、魔法を使い、彼らの生き残りを別の世界に送り出し、そこで新たな国を建国することにした。

そして、その竜族の国の王が、かの地に蒼翔光を呼び寄せ、魔法の知識を教えて欲しいと願った。蒼翔光は、王の願いを受け入れ、竜族たちに魔法を教え、彼らの国を栄えさせることに成功した。しかし、その後、王は不慮の事故により亡くなり、竜族たちは再び苦難に見舞われることになった。

蒼翔光は、彼らが自分たちの国を再興できるよう祈りを捧げたのだった。

エリクは、この物語を聞いた後、彼らに自分の知識を提供し、王国再建のために協力することを決めた。そして、彼らは協力し合い、アンドラス帝国と竜族王国の野望を打ち砕くため、戦いの準備を始めた。

しかし、その時、蒼翔光の表情がいつもとは違っていた。不安定で深い眼差しをエリクに向け、エリクが聞いたこともない呪文を唱え出した。エリクは驚きと恐怖に震えたが、蒼翔光は彼を落ち着かせ、その魔法が予言魔法であることを説明した。

蒼翔光は目を閉じ、手を合わせて呪文を唱えた。その間、部屋の中には不思議なエネルギーが漂い、エリクは不安に包まれた。そして、蒼翔光は目を開けて、深いため息をついた。

「エリク、君には不吉な相がある。予言によれば、このまま王国で戦えば君は破れるであろう、と」蒼翔光は厳しい表情でエリクに語りかけた。

エリクは驚き、混乱した表情を浮かべた。自分が不吉な運命を背負っているなんて、信じられなかった。彼は自信満々に、自分の占星魔法で王国が勝つことを予測していたのだ。

「これは私が死んで王国が勝つと言うことなのだろうか?」とエリクは考えた。しかし、その疑問を蒼翔光はすぐに否定した。

「いいえ、それだけではありません。王国も負ける。このままでは、誰も勝てないでしょう」と蒼翔光は厳しい目でエリクを見つめた。

エリクは動揺し、焦りを感じた。何が起こっているのか、何をすべきなのか分からなかった。しかし、蒼翔光は彼に向かって、強い口調で語りかけた。

「だが、まだ手遅れではありません。私たちはこの予言を覆す方法を探さなければならないのです。私たちの力を合わせて、世界を救いましょう」

エリクは蒼翔光の言葉に勇気づけられ、決意を新たにした。彼は蒼翔光と協力して、予言を覆すための道を探すことを決めたのであった。
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