吸血鬼たちの秘めた関係

浅倉喜織

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刹那的な快楽①

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 ぼんやりとした意識の中で、甘い匂いを感じた。瞼が重く、開くのも億劫だ。真っ暗な視界は聴覚と嗅覚を研ぎ澄ます。
 安物の香水に、バシャバシャとした水音……これはきっと風呂場から聞こえる音だろう。
 充満する音と匂いでぼんやりしていた意識は明瞭になっていく。夢うつつの中からようやく抜け出した俺は、ゆっくりと瞼を開いた。俺の部屋のものではない天井が広がっていた。寝転がっているベッドも、俺のものではない。時間は分からないが、どうせ夜だろう。人間ではない俺は、夜しか活動できない体だ。

 壁や床へと目を向ける。派手で下品な女物の衣類が無造作に脱ぎ捨てられ、その中には俺が昨日着ていたスーツも混ざっている。
 ゆっくり体を起こすと下半身に鈍い痛みが走る。嫌な痛みだ。気だるさに舌打ちをし、サイドテーブルに置かれた煙草を引き寄せて火をつける。
 悪い煙を肺いっぱいに吸い込み、溜め息とともに吐き出した。本来得られる酩酊感などない。今の俺が感じているのは、下半身の痛みと血への渇望だけだった。

 人間ではない存在……新宿歌舞伎町で生きる現代の吸血鬼、高坂健吾。それが俺だった。
 壁にかけられた日めくりカレンダーは、今日が1970年の4月中旬だと示している。吸血鬼になって何十回目の春だろうか。老いることのできない身ゆえに、数えるのも面倒になっていた。

 裸のまま煙草を吸っていると、風呂場から男が出てきた。丸坊主にひげ面、筋肉隆々の大男だ。見た目は俺と変わらない30代後半くらいだろうが、もっと若く見えることもあれば年上に見えることもある。腰にバスタオルを巻いただけの格好で、彼は俺を見て笑った。

「あらン、起きたのねケンちゃん。おはよ」

 風貌に似合わない女性的な口調だ。気色悪い……と出会った当初は感じたものだが、かれこれ十数年の付き合いだ。もうこいつ……ヤナのちぐはぐさにも慣れてしまっていた。

「やだァん! お布団の上で煙草は吸わないでよォ!」
「仕方ねぇだろ。体が怠いんだ。誰かさんのせいでな」
「んもぉ、嫌味な言い方ねン。仕方ないじゃないの、ケンちゃんが可愛くていじめたくなっちゃったんだから」

 何が“いじめたくなった”だ。てめぇの性欲のせいで、俺は怠くてしょうがねぇんだよ。
 心の中で毒づいて、天井に向かって煙を吐いた。
 昨夜……もう明け方に近い時間だった。俺が用心棒をしているバーの店主であるヤナは、仕事帰りに「アタシの家に泊まらない?」と聞いてきた。それが何を意味するのか分からない俺ではない。
 あぁ、俺のことが食いたいのか……とすぐに察した。こういうことは初めてではなかったからだ。
 ヤナの家に行くと、すぐに身ぐるみ剥がされ好き勝手に身体中を蹂躙された。抱かれる側になるのは慣れていない。いつも他の年下を抱いてばかりいる俺を、そのように扱うのはヤナだけだった。
 足を開かせ、いきり立ったものを俺の後孔に捩り込み、掻き回し……喘ぐ俺の中に何度も精をぶちまけていた。
 それでこのザマだ。短くなった煙草を灰皿に放り込み、二本目の煙草に火をつけたが、隣に座ったヤナがそれを奪い取った。

「でも、ケンちゃんも気持ちよかったでしょ? あんなに鳴いてて可愛かったわよン」
「やめろ、気色悪ィ。血が満足に飲めないからこうしているだけだ」
「お互い様よ、それは。アタシもそうだもの。吸血鬼って不便だわねェ。血が飲めないと欲しくて欲しくてムラムラしちゃうんだものォ」

 吸血鬼は血への渇望を肉欲で誤魔化し生きている。セックスで腹が膨れるわけではないが、そうでもしないと気が狂いそうになるのだ。
 戦後の混乱期ならまだしも、今の平和な世の中で人間の生き血を得るのは簡単なことではない。
 深々と煙を吸い込むヤナは、煙草を返すつもりがないらしい。溜め息をついて髪をかき上げると、ヤナの分厚い手が俺の腰を撫で回した。
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