4 / 45
第一章 王女を取り巻く環境
04 執着 ※アルノルド視点
しおりを挟む
「ふざけてる! まだ諦めていないのか!」
父であるヴォロネル王の執務室に呼ばれたアルノルドは、同じく呼ばれた弟の次男ロメオと三男シルヴィオとそれぞれソファーに座っていた。そして怒りで震えた声を出し、持っていた紙を握りしめて吐き捨てるシルヴィオの声を聞いていた。アルノルドの表情は変わらないが、気持ちはシルヴィオと一緒である。
シルヴィオが握りしめている紙は、妹レティツィアに対する求婚書状。相手は我がヴォロネル王国の北に位置するプーマ王国の、第二王子ディーノからだった。何度断っても定期的に送られてくる。それはそれは頭の痛い話だった。
プーマ王国第二王子からの求婚の始まりは、四年前だった。
ヴォロネル王国の王宮で行われたパーティーは、他国からもたくさんの要人が招かれ、プーマ王国からは王弟と第二王子がやってきた。
当時十三歳だったレティツィアはアルノルドの隣で客に挨拶をしていたのだが、第二王子はレティツィアを見たとたん様子がおかしくなった。そして周りに大勢の人がいる中、迷惑にも大声でレティツィアに求婚をしたのである。
まさか断られるとは思っていない様子の第二王子は、驚きつつもその場を収めようと笑みを浮かべて口を開きかけたレティツィアの手を無理やり引っ張った。すぐにでもプーマ王国に連れ帰ろうとでも言うような強引さに、青い顔でレティツィアは震えながら引っ張られ、アルノルドが無理やり第二王子からレティツィアを引き離し、その場はなんとかこれ以上混乱することのないよう収めた。
それから、プーマ王国から正式に求婚の書状が送られてくるようになった。まだレティツィアが子供だからと何度も断ているのだが、それでも定期的に送られてくる。
それだけではない。書状だけでなく、第二王子自ら何度も我が国にやってきては、レティツィアに会おうとする。我が国の王宮は、文官や武官、使用人が大勢行き交う。その中に紛れて、王族しか入れない区域にこっそり入ろうとしたりするのである。
また、これまでに三度、レティツィアは誘拐されかけた。どれも未遂で済んだが、誘拐の実行犯は金で雇われた者ばかりで、第二王子が犯人だという証拠がない。
お陰で、王宮内だというのに、レティツィアは自室以外へ行く時は必ず護衛を付けなければならない。昔は侍女を連れていたが、それでは心もとないのだ。
第二王子は、プーマ王国の愚王子だと有名なのに、正妃の唯一の王子で次期王太子だと目されている。王太子の座を争っている第一王子は優秀だが愛妾の子で、第二王子を支持する貴族との対立に負けるだろうと噂されている。
愚王子と有名なだけあって、第二王子は見た目は整ってはいるものの、性格はクズ。自国では兄の第一王子に暗殺者を放ち、我が国ではレティツィアに執着しストーカー行為。迷惑しかない。
我が国ヴォロネル王国は、プーマ王国と国土の広さは変わらないが、軍力がプーマ王国より弱い。そのため、プーマ王国とは敵対しない程度にはうまく付き合っていく必要がある。だから、レティツィアへの求婚を断っても何度も送られてくる求婚の書状に大きく抗議できないのが、頭が痛いところだ。しかもレティツィアも現在十七歳で、そろそろ『子供だから』が理由で断ることが難しくなってきている。最近では第二王子の我慢も限界のようで、『国同士がいつまで今までのように親密でいられるか』と、使者が不穏な空気をちらつかせるように遠まわしに脅してくる始末。
我が国だけでなく近隣諸国の国では、王侯貴族だけでなく平民も全て十八歳になると成人となる。成人すれば、親の承諾なくとも結婚ができる。王侯貴族の場合、当主の承諾は一般的には必要なので、実際には親の承諾は必要、ということにはなるが、親に反対され、駆け落ちして結婚する人も時々いるのだ。婚姻は教会に依頼すればできるのだから。
それを曲解して、第二王子がレティツィアが十八歳になった時に無理やり結婚しようとするのではないかと、今から不安で仕方がない。
第二王子はレティツィアを度々誘拐しようとしているが、もし誘拐が成功したなら、レティツィアを成人するまで監禁するなどして、成人したらすぐにでも教会に依頼して婚姻を結ぼうとしているのだろう。それだけでなく、レティツィアを肉体的にも自分の物にしようとしているはずだ。
第二王子は現在十八歳でレティツィアの一つ上。困ったことに、現在我が国の王立学園に通っている。せっかくレティツィアは王立学園の入学試験に合格したのに、第二王子と顔を合わせるのが怖いのだろう、入学を諦めてしまった。同年代の子供と一緒に勉学をし、親しい友人を作ることのできるせっかくの機会を、逃すことになったレティツィアが不憫でならない。
あと数か月でレティツィアは十八歳になる。第二王子の求婚をはっきり断るためにも、レティツィアに婚約者を探した方がいいのは分かっている。しかし、国内で第二王子のレティツィア狂いは有名で、第二王子に嫌がらせをされたくないのだろう、レティツィアに求婚しようとする貴族の子息は少ない。それに、レティツィアに他の婚約者を作ろうものなら、第二王子の指示でプーマ王国からどんな仕返しがやってくるか分からないのも苦悩するところだ。
いつかはレティツィアも結婚をする。第二王子以外で、可愛いレティツィアを任せることのできる男がいればいいが、いたらいたでレティツィアを任せるなんて嫌過ぎる複雑な兄心。
そんな複雑な思いを横にやりながら、アルノルドは父と弟たちと今後の対応を協議するのだった。
父であるヴォロネル王の執務室に呼ばれたアルノルドは、同じく呼ばれた弟の次男ロメオと三男シルヴィオとそれぞれソファーに座っていた。そして怒りで震えた声を出し、持っていた紙を握りしめて吐き捨てるシルヴィオの声を聞いていた。アルノルドの表情は変わらないが、気持ちはシルヴィオと一緒である。
シルヴィオが握りしめている紙は、妹レティツィアに対する求婚書状。相手は我がヴォロネル王国の北に位置するプーマ王国の、第二王子ディーノからだった。何度断っても定期的に送られてくる。それはそれは頭の痛い話だった。
プーマ王国第二王子からの求婚の始まりは、四年前だった。
ヴォロネル王国の王宮で行われたパーティーは、他国からもたくさんの要人が招かれ、プーマ王国からは王弟と第二王子がやってきた。
当時十三歳だったレティツィアはアルノルドの隣で客に挨拶をしていたのだが、第二王子はレティツィアを見たとたん様子がおかしくなった。そして周りに大勢の人がいる中、迷惑にも大声でレティツィアに求婚をしたのである。
まさか断られるとは思っていない様子の第二王子は、驚きつつもその場を収めようと笑みを浮かべて口を開きかけたレティツィアの手を無理やり引っ張った。すぐにでもプーマ王国に連れ帰ろうとでも言うような強引さに、青い顔でレティツィアは震えながら引っ張られ、アルノルドが無理やり第二王子からレティツィアを引き離し、その場はなんとかこれ以上混乱することのないよう収めた。
それから、プーマ王国から正式に求婚の書状が送られてくるようになった。まだレティツィアが子供だからと何度も断ているのだが、それでも定期的に送られてくる。
それだけではない。書状だけでなく、第二王子自ら何度も我が国にやってきては、レティツィアに会おうとする。我が国の王宮は、文官や武官、使用人が大勢行き交う。その中に紛れて、王族しか入れない区域にこっそり入ろうとしたりするのである。
また、これまでに三度、レティツィアは誘拐されかけた。どれも未遂で済んだが、誘拐の実行犯は金で雇われた者ばかりで、第二王子が犯人だという証拠がない。
お陰で、王宮内だというのに、レティツィアは自室以外へ行く時は必ず護衛を付けなければならない。昔は侍女を連れていたが、それでは心もとないのだ。
第二王子は、プーマ王国の愚王子だと有名なのに、正妃の唯一の王子で次期王太子だと目されている。王太子の座を争っている第一王子は優秀だが愛妾の子で、第二王子を支持する貴族との対立に負けるだろうと噂されている。
愚王子と有名なだけあって、第二王子は見た目は整ってはいるものの、性格はクズ。自国では兄の第一王子に暗殺者を放ち、我が国ではレティツィアに執着しストーカー行為。迷惑しかない。
我が国ヴォロネル王国は、プーマ王国と国土の広さは変わらないが、軍力がプーマ王国より弱い。そのため、プーマ王国とは敵対しない程度にはうまく付き合っていく必要がある。だから、レティツィアへの求婚を断っても何度も送られてくる求婚の書状に大きく抗議できないのが、頭が痛いところだ。しかもレティツィアも現在十七歳で、そろそろ『子供だから』が理由で断ることが難しくなってきている。最近では第二王子の我慢も限界のようで、『国同士がいつまで今までのように親密でいられるか』と、使者が不穏な空気をちらつかせるように遠まわしに脅してくる始末。
我が国だけでなく近隣諸国の国では、王侯貴族だけでなく平民も全て十八歳になると成人となる。成人すれば、親の承諾なくとも結婚ができる。王侯貴族の場合、当主の承諾は一般的には必要なので、実際には親の承諾は必要、ということにはなるが、親に反対され、駆け落ちして結婚する人も時々いるのだ。婚姻は教会に依頼すればできるのだから。
それを曲解して、第二王子がレティツィアが十八歳になった時に無理やり結婚しようとするのではないかと、今から不安で仕方がない。
第二王子はレティツィアを度々誘拐しようとしているが、もし誘拐が成功したなら、レティツィアを成人するまで監禁するなどして、成人したらすぐにでも教会に依頼して婚姻を結ぼうとしているのだろう。それだけでなく、レティツィアを肉体的にも自分の物にしようとしているはずだ。
第二王子は現在十八歳でレティツィアの一つ上。困ったことに、現在我が国の王立学園に通っている。せっかくレティツィアは王立学園の入学試験に合格したのに、第二王子と顔を合わせるのが怖いのだろう、入学を諦めてしまった。同年代の子供と一緒に勉学をし、親しい友人を作ることのできるせっかくの機会を、逃すことになったレティツィアが不憫でならない。
あと数か月でレティツィアは十八歳になる。第二王子の求婚をはっきり断るためにも、レティツィアに婚約者を探した方がいいのは分かっている。しかし、国内で第二王子のレティツィア狂いは有名で、第二王子に嫌がらせをされたくないのだろう、レティツィアに求婚しようとする貴族の子息は少ない。それに、レティツィアに他の婚約者を作ろうものなら、第二王子の指示でプーマ王国からどんな仕返しがやってくるか分からないのも苦悩するところだ。
いつかはレティツィアも結婚をする。第二王子以外で、可愛いレティツィアを任せることのできる男がいればいいが、いたらいたでレティツィアを任せるなんて嫌過ぎる複雑な兄心。
そんな複雑な思いを横にやりながら、アルノルドは父と弟たちと今後の対応を協議するのだった。
17
あなたにおすすめの小説
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる