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第二章 王との見合い
19 面白い ※オスカー視点
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レティツィアとのお茶会を終えたオスカーは、仕事に戻り、部下からその日の報告を聞きながら、緊急で上がってきた書類にサインを終えてシリルに書類を渡した。窓の外は夕日が沈みかけている。
「他に残っているものは」
「本日分はこれで終了です」
書類を受け取ったシリルが、口を開いた。
「明日の予定だった会議は明後日に変更致しました。また、レティツィア王女と侍女のお忍び用の服もお届けが済んでおります。あとは、護衛も手配しました」
「分かった」
オスカーは席を立つと、壁の棚からワインを取り、グラスに注ぐ。そして一口飲んでいると、シリルが口を開いた。
「レティツィア王女。今度もずいぶん変わった方が来られましたね」
「シリルが選んだのだろう。毎回よくもまあ、色物ばかり選ぶものだ」
「わざとではないです。それに、王侯貴族の令嬢たちが、ああも変わり者ぞろいだとは思わないでしょう。たとえ変わっていたとしても、普通表面上は取り繕うものでしょうに」
「七日の滞在期間は、ボロを出すのを見たいから設定している。最初こそ、令嬢たちも取り繕っていただろう。自分の役割の仮面を装着し続けるのは、そうそう長続きしないものだ。隠している本人の自我を見たいのだから、別に自己主張がある分は問題にしていない」
レティツィアもお見合い一日目の最初だけは、普通の王女の仮面をかぶっていた。しかし、レティツィアもオスカーを夫候補として採点する、と堂々と言い放った。王の婚約者になるためのお見合いなのだから、候補者側だけが採点されるものだと、暗黙の了解のように思われていたものを、最初に切り込んだのだ。王の配偶者になりたい女性や、子を王の配偶者にしたい親は多い。オスカーが王になり立てのころ、積極的な粛清を行ったことに恐れをなしているものも多いが、それを抜いてもみなから渇望される席だからこそ、王側のほうが優位な立場であるのが一般的だ。
しかし、レティツィアの言葉は正しい。本来なら、どちらも平等に採点されるべきだ。そのように堂々と宣言するものがいないだけ。レティツィアは面白い女性である。
「まさか、陛下に『夫婦ごっこ』をやりたい、というところから『わがまま』を聞け、と来るとは思いませんでした。いくらこちらが打診したとはいえ、陛下の婚約者になりたいから来られたものだと思っていたのですが、実は婚約者になる気がないのでしょうか」
「そうかもな。俺から断ってほしいと思っているのではないか?」
「えぇ!? だったら、打診時点で断って下さればよかったのに。一度断られれば、こちらだってすぐに諦めますよ。……まさか、あれですかね、プーマ王国の第二王子に執着されているように、我々に断っても執着されると思われたのでしょうか」
「さあな」
こちらから断られるために来たのであろう、とオスカーは今のところ推測しているが、さすがに、向こうの思惑の細部までは分からない。
「まあ、でも、どんな『わがまま』を言うのかと身構えましたが、レティツィア王女のわがままは可愛いですね。八番目の候補者の令嬢のように、まだ婚約者でもないのに『劇場を貸し切りにして陛下と二人っきりで観劇したい』とずうずうしいお願いでも言うかと思っていたのですが」
「俺もそのレベルの『わがまま』を言うかと思っていた。まあ、予想外のおねだりではあったな」
「陛下は、手で口元を隠して何度も考える振りをしつつ、笑いを堪えていましたよね」
「一応、俺でも困惑はしたぞ。自分はブラコンだと堂々と自白したかと思えば、手を繋いでくれ、抱っこしろ、膝に乗せろと、いちいち言うことが可愛い。あれは兄に対して日常的に言っているのだろうな」
「私は、会って間もない相手によく言えるな、と若干引きましたが、後から考えると、あんな風に妻に言われたいと思いました。うちの妻、恥ずかしがり屋なので、きっと膝には乗ってくれないな」
最後はシリルは独語のように呟いた後、オスカーを見る。
「陛下自身は、レティツィア王女をどうされるつもりです?」
「どうって、レティツィアの希望通り、『夫婦ごっこ』をやる予定だが?」
「……ちょっと楽しくなってきていますね? まあいいですが、レティツィア王女を好きにならないでくださいね」
「なんで?」
「え、好きになる予定でもあるのですか? 向こうはこちらから断ってもらうのが目的なのでしょう? たとえ、陛下がレティツィア王女を気に入って婚約しようとしても、結局向こうから断られるなら無駄でしょう。もしレティツィア王女を気に入っても、お見合い期間だけ楽しむ、というところで留めておいてください」
「留められたらな。レティツィアがあまりにも可愛いから、俺が欲しくなるかもしれない」
「えぇぇ? それ、本気で言ってます? 一応、レティツィア王女の次の方を見繕っている段階なので、早めに判断をお願いしますね? もう、それ次第で、また私の帰りが遅くなるので……」
ぶつぶつと妻大好きシリルが、今後の処理を検討しているのを横目で見ながら、オスカーは今後がどう転ぶか自分でも分からない先行きに、楽しそうに笑みを浮かべながらワインを口にするのだった。
「他に残っているものは」
「本日分はこれで終了です」
書類を受け取ったシリルが、口を開いた。
「明日の予定だった会議は明後日に変更致しました。また、レティツィア王女と侍女のお忍び用の服もお届けが済んでおります。あとは、護衛も手配しました」
「分かった」
オスカーは席を立つと、壁の棚からワインを取り、グラスに注ぐ。そして一口飲んでいると、シリルが口を開いた。
「レティツィア王女。今度もずいぶん変わった方が来られましたね」
「シリルが選んだのだろう。毎回よくもまあ、色物ばかり選ぶものだ」
「わざとではないです。それに、王侯貴族の令嬢たちが、ああも変わり者ぞろいだとは思わないでしょう。たとえ変わっていたとしても、普通表面上は取り繕うものでしょうに」
「七日の滞在期間は、ボロを出すのを見たいから設定している。最初こそ、令嬢たちも取り繕っていただろう。自分の役割の仮面を装着し続けるのは、そうそう長続きしないものだ。隠している本人の自我を見たいのだから、別に自己主張がある分は問題にしていない」
レティツィアもお見合い一日目の最初だけは、普通の王女の仮面をかぶっていた。しかし、レティツィアもオスカーを夫候補として採点する、と堂々と言い放った。王の婚約者になるためのお見合いなのだから、候補者側だけが採点されるものだと、暗黙の了解のように思われていたものを、最初に切り込んだのだ。王の配偶者になりたい女性や、子を王の配偶者にしたい親は多い。オスカーが王になり立てのころ、積極的な粛清を行ったことに恐れをなしているものも多いが、それを抜いてもみなから渇望される席だからこそ、王側のほうが優位な立場であるのが一般的だ。
しかし、レティツィアの言葉は正しい。本来なら、どちらも平等に採点されるべきだ。そのように堂々と宣言するものがいないだけ。レティツィアは面白い女性である。
「まさか、陛下に『夫婦ごっこ』をやりたい、というところから『わがまま』を聞け、と来るとは思いませんでした。いくらこちらが打診したとはいえ、陛下の婚約者になりたいから来られたものだと思っていたのですが、実は婚約者になる気がないのでしょうか」
「そうかもな。俺から断ってほしいと思っているのではないか?」
「えぇ!? だったら、打診時点で断って下さればよかったのに。一度断られれば、こちらだってすぐに諦めますよ。……まさか、あれですかね、プーマ王国の第二王子に執着されているように、我々に断っても執着されると思われたのでしょうか」
「さあな」
こちらから断られるために来たのであろう、とオスカーは今のところ推測しているが、さすがに、向こうの思惑の細部までは分からない。
「まあ、でも、どんな『わがまま』を言うのかと身構えましたが、レティツィア王女のわがままは可愛いですね。八番目の候補者の令嬢のように、まだ婚約者でもないのに『劇場を貸し切りにして陛下と二人っきりで観劇したい』とずうずうしいお願いでも言うかと思っていたのですが」
「俺もそのレベルの『わがまま』を言うかと思っていた。まあ、予想外のおねだりではあったな」
「陛下は、手で口元を隠して何度も考える振りをしつつ、笑いを堪えていましたよね」
「一応、俺でも困惑はしたぞ。自分はブラコンだと堂々と自白したかと思えば、手を繋いでくれ、抱っこしろ、膝に乗せろと、いちいち言うことが可愛い。あれは兄に対して日常的に言っているのだろうな」
「私は、会って間もない相手によく言えるな、と若干引きましたが、後から考えると、あんな風に妻に言われたいと思いました。うちの妻、恥ずかしがり屋なので、きっと膝には乗ってくれないな」
最後はシリルは独語のように呟いた後、オスカーを見る。
「陛下自身は、レティツィア王女をどうされるつもりです?」
「どうって、レティツィアの希望通り、『夫婦ごっこ』をやる予定だが?」
「……ちょっと楽しくなってきていますね? まあいいですが、レティツィア王女を好きにならないでくださいね」
「なんで?」
「え、好きになる予定でもあるのですか? 向こうはこちらから断ってもらうのが目的なのでしょう? たとえ、陛下がレティツィア王女を気に入って婚約しようとしても、結局向こうから断られるなら無駄でしょう。もしレティツィア王女を気に入っても、お見合い期間だけ楽しむ、というところで留めておいてください」
「留められたらな。レティツィアがあまりにも可愛いから、俺が欲しくなるかもしれない」
「えぇぇ? それ、本気で言ってます? 一応、レティツィア王女の次の方を見繕っている段階なので、早めに判断をお願いしますね? もう、それ次第で、また私の帰りが遅くなるので……」
ぶつぶつと妻大好きシリルが、今後の処理を検討しているのを横目で見ながら、オスカーは今後がどう転ぶか自分でも分からない先行きに、楽しそうに笑みを浮かべながらワインを口にするのだった。
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