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第1章

49 兄(仮)は妹(仮)を可愛がりたくて仕方がない1

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 麻彩がスマホでダンス用の音楽を流しだすと、ソファーから少し離れた床で、麻彩は音楽に合わせてダンスを始めた。

「ま、まーちゃん可愛い!」

 さすがアイドルのダンスを踊るだけあって、ダンスがすごく可愛い。動きも機敏で、とても上手である。
 麻彩のダンスが終わると、私と兄と流雨は拍手をした。

「まーちゃん、すごく良かったよ!」
「えへへ!」

 麻彩の可愛さに、麻彩ならアイドルもいける! と本気で思う。撮った動画は、ユリウスに見せてあげよう。

「紗彩は今のダンス踊れるの?」
「私!? 無理無理!」

 流雨の質問に、私は顔をぶんぶんと振る。あんな機敏な動きは、私にはハードルが高い。

「私が踊れるのは、ワルツとか社交ダンスくらいだよ」
「社交ダンスが踊れるの!?」

 流雨は驚いている。
 前世はダンスを習う時間がなくて踊れず、ルドルフと結婚後にダンスを習い、やっと踊れるようになった。
 現世は、小さいころから社交に必要なダンスは習っていたので、踊ることはできる。

「私だけじゃなくて、お兄様もまーちゃんも踊れるよ」
「そうなの!?」

 兄も麻彩も、海外のパーティーで踊ることがあるかもしれないからと、小さいころに習っている。

「さすが一条家だな……」

 まあ、普通は社交ダンスなんて必要ないから、この流雨の驚きも当然だろう。帝国では貴族は踊れるのが一般的だが、文化の違いだ。

 それから、私と麻彩は一緒に風呂に入った。そして風呂から上がると、兄と流雨はソファーでわあわあと何か冗談のような言い合いをしていた。喧嘩などではなく、悪友のやりとりのような、昔から友人をやっている二人にしか通じなさそうな、楽しそうな雰囲気である。
 私と麻彩はそれぞれアイスを一本食べると、私は麻彩の髪をドライヤーで乾かしてあげる。そして私は自分で乾かそうとすると、流雨に止められた。

「紗彩のは俺が乾かしてあげるよ」
「いいの? やったぁ!」

 流雨の言葉に甘えて、髪の毛をドライヤーで乾かしてもらう。流雨の足に挟まれながら、ソファー下でじっとしているだけで、流雨が乾かしてくれるから楽ちんだ。

「乾かしてくれて、ありがとう、るー君」
「どういたしまして」

 それからも四人で話をしていたが、麻彩がいつの間にか私の膝上で寝てしまっていた。麻彩は今日は学校だったし、明日も学校だから、眠くなるのは当然だ。でも私は流雨がせっかくいるし、もう少し起きていたいので、麻彩の頭をそっとクッションに移動させる。そしてソファーに座る流雨の横に行こうかと立ったとき、流雨が口を開いた。

「紗彩、ここにおいで」

 流雨の言う「ここ」とは、流雨の膝の上だった。

「え!? い、いいよぅ、私はるー君の隣に座る」
「どうして? ひざが空いてるよ?」
「だって、どうして膝!? いつもそんなことしないでしょ!?」
「えー? でも、今日実海棠の膝に乗ってたよね?」

 なんでそれを流雨が知っているんだ。兄に聞いたのだろうかと、兄を見るが、兄はしれっとしている。

「お兄様はいいの! いつも乗ってるもん」
「へぇ。いつも実海棠の膝に乗ってるんだ……」

 なぜか流雨から圧力を感じる。

「だったら、俺の膝にも乗れるでしょ?」
「の、の、乗れない!」

 私は流雨の隣に座る予定だったのに、流雨の提案に抵抗するように、兄の膝に乗った。そして兄にしがみつく。流雨の膝なんて、恥ずかしくて乗れるはずがない。

「馬鹿紗彩……それじゃあ、逆効果だぞ?」

 兄のため息含みの声に、何がだろうと流雨を見ると、なんだか流雨の笑顔が怖かった。あれ?

「紗彩……俺のことが嫌いなんだね」
「違うよ!?」
「小さいころは、抱っこもさせてくれてたのに、させてくれなくなったし」
「どうして急に昔の話!? もう私大きいでしょ!? 大きい子は抱っこは恥ずかしいはずでしょ!?」
「中学校になったからって、抱っこさせてもらえなくなった俺の悲しい気持ち、紗彩には分からないよね……」

 ええ!? そんな悲しい顔されると、困るんですけど!? 私がものすごく悪人に感じるではないか。

「日本の子は、小学生高学年になっても抱っこされる子はいないって聞いたよ!?」
「……日本の子は? 帝国では違うの?」
「え? うーん、帝国でも抱っこはやっぱり小学生くらいの年齢までじゃないかな? でも、大人でも男性が女性を横抱きにするのは、よく見るけど」
「横抱き?」
「お姫様抱っこのことだよ」
「へぇ……」

 あれ!? 今、部屋の温度下がった!? 気のせい!?

「るるる、るー君、なんだか怒ってる?」
「怒ってないよ。紗彩もお姫様抱っこされているの?」
「私がされるわけないよ! 恋人いないし! ユリウスだけだよ、帝都で抱っこしてくれるの」

 小さい声で「馬鹿……」と兄から声が聞こえた。え? 私ってば、変なこと言ったのだろうか。

「そっか。じゃあ、俺が抱っこしてもいいんじゃないかな」
「え!?」
「実海棠もユリウスも紗彩を抱っこしてるんでしょう。俺も兄だし、俺も抱っこしてもいいよね?」
「えっとぉ……」

 助けて! という気持ちで兄を見るが、観念したら? という目で見られた。兄に見捨てられた。

「るー君、私重いから!」
「紗彩が百トンあっても、俺は抱っこを諦めないよ?」

 なんでだよ! と、突っ込みたいけど、突っ込める状況ではなくなってきた。

「そんなに俺に抱っこされるの、嫌?」
「………………嫌じゃない」

 流雨がそっと手を伸ばした。私を兄の上から抱き上げると、流雨は私を膝に乗せるのだった。
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