逆行死神令嬢の二重生活 ~兄(仮)の甘やかしはシスコンではなく溺愛でした~

猪本夜

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最終章

127 罠1 ※ユリウス視点

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 六月、ユリウスはメイル学園に通う傍ら、ハイゼン家の後継者の勉強とユリアの動向を探るのを並行していた。メイル学園を卒業した姉と会う機会が減り、ユリウスは頻繁に姉のいるリンケルト家も訪れていた。時々は泊まることもある。

 その日も忙しい合間に時間を見つけ、昼食を姉と流雨と共に過ごした。そして流雨は仕事なので姉と二人で最近の報告を互いにしていたのだが、ユリウスは眠くなったため、少しだけ仮眠した。そして目が覚めると、さきほどまで部屋にいなかった流雨と目が合う。

「……おはよう」

 口を開いた流雨の視線が、非難の意味を含んでいる。ユリウスが姉の膝を枕にして寝ていたからだろう。毎日姉を独り占めしているくせに、弟に少しでも姉をとられるのが嫌なんだなと思いつつ、目覚めが悪いのでユリウスは寝返りをうって姉のお腹側を向いた。

「もう起きたらどう?」
「るー君、ユリウスは疲れているの。寝かせてあげてよ」
「今、目が開いていたけれど?」
「今日はうだうだしたいなーって日、あるでしょう? ユリウスはそんな日なの」

 そうそう、そんな日です。流雨の目の前で姉に甘えたい日です。流雨の前だろうと、姉はユリウスの姉である。流雨に遠慮は不要。

 そうやって姉に十分甘えた後、ユリウスはリンケルト家を出た。気分転換は十分にした。これから、またやることがある。

 ユリアの動向は、かなり怪しい。先日も皇帝の婚約者候補を一人、蹴落としていた。裏から誰にもバレないよう動いている。もう何人目になるのか。これを皇帝ヴェルナーは気づいているのかどうか、気づいていないから止めないのか。小さいころからヴェルナーとは姉と一緒に会うこともあったから、だいたい性格は知っている。ヴェルナーがユリアの所業に気づいていないとは思えない。しかし今のところ止める気配はなく、ユリウスも他人のことまで首を突っ込むつもりはない。ユリウスがユリアから守りたいのは、姉だけだ。

 ユリアは間違いなく、現在では姉を狙っている。以前、ヴェルナーと姉が舞踏会で踊った以降、その動きが顕著になってきている。そうはいっても、姉を狙うのは難しい。流雨か護衛のエマが姉の傍にいるから、簡単には狙えないのだ。

 例えば精神的に姉を狙うにも、婚約者は流雨、つまりルーウェンである。姉の悪い噂を流しても、噂が歩くうちにいつの間にか素行の悪い印象の強いルーウェンに話が代わっていて、ルーウェンの悪い噂に埋もれてしまい、姉の悪い噂など立ち消えてしまう。肉体的な攻撃をしようにも、流雨かエマが傍にいて狙えない。社交が苦手な姉は、流雨がいないと社交にも出ないため、例えば女性の集まりの中で口撃なんて技も使えない。

 狙える機会が少ないからか、最近姉への攻撃の質が悪くなってきた。だんだんと無差別的なものになってきたのだ。

 先日のある日。死神業の魂探しで街に出ていた姉は、仕事の終わりにドーナツ屋に立ち寄っていた。

「プレーンが四つ、チョコが三つと、バナナ入りを二つ下さい。咲はイチゴジャムのが食べたいのだっけ?」
「そう。あと、ブルーベリーも」
「オッケー。じゃあ、イチゴジャムとブルーベリージャムを三つずつ下さい」

 姉が咲、ジーク、双子とエマを連れ、店員に注文していた。そこに表向き平然と、しかし内心慌ててユリウスは姉に声を掛けた。

「姉様! 久しぶりですね!」
「ユリウス! 久しぶりって、一昨日会ったよ?」
「そうなんですけれど、毎日会えないと久しぶりな気がしたのです。そして、ドーナツは買うのを止めましょう。実はお菓子を持って姉様のところへ行こうとしていたのです。食べるものが多すぎてしまいますので」
「本当? ありがとう。でもドーナツも食べたいから買おうかな? 口がもうドーナツ食べたい口になっていて」
「偶然ですね。実はドーナツもあるのです。美味しいので、それを食べて欲しいです」

 ユリウスはちらっと咲を見た。それで咲には誤魔化したいということがとりあえずは通じたのか、頷きだした。

「いいじゃん、ユリウスのドーナツ。俺はドーナツが食べられるならユリウスのでいいよ」
「そう? じゃあ、店員さん、ごめんなさい。今日のドーナツは遠慮します。また買いに来ますね」

 姉を連れてドーナツの店を出る。そして姉には先にリンケルト家へ帰ってもらい、ユリウスはお土産用のお菓子とドーナツを別の店で調達。そして、姉が買おうとしていたドーナツの店員は部下に捕まえてもらった。姉のところに約束通りお菓子とドーナツを何食わぬ顔で届けて、部下に捕まえてもらったドーナツ店員の尋問をした。

 やはり、姉が買おうとしていたドーナツには、微量だけれど毒入りだったらしい。軽く吐き気やお腹を壊す程度のものではあったけれど、あのまま姉が買っていれば、姉や咲たち全員が体調を壊しただろう。

 そうやって、ユリアは姉が立ち入りそうな店の店員を買収して、姉が来た時に毒入りを渡せるよう用意していたようだ。しかし店員は毒入りではなく、睡眠薬入りだと聞いていたと言い訳したが、睡眠薬も使い方次第では毒と同等である。ドーナツ屋の店員だけ買収されており、オーナーは知らなかったようなので、厳重注意に留めたけれど、だんだんとエスカレートするユリアから目が離せない。

 しかしユリアも注意深いようで、部下を使い足が付かないやり方をしているので、証拠がなく堂々とユリアを追及できないのだ。

 しかし、少しずつ追い詰めるしかないと地道にユリアの罠を追っていたユリウスは、ユリアの部下の男を捕まえることができそうになったとき、たまたまある人物に出会った。

「……あなたは」
「お前は生ぬるい。証拠など、後からでっち上げればいいのだから、先に怪しい人物は捕まえてしまうことだな」

 ユリウスが捕まえようとしていたユリアの部下を、先に捕まえたその人は、表情こそ感情的ではなかったけれど、ユリアの部下はすでに血みどろだった。血みどろだけれど、呻いているのころをみると、生きてはいるようである。こういう光景は、ウィザー家にやってきたころの咲の所業のようで、なぜか懐かしく思うユリウスは、少し麻痺しているのだろう。

 その人物は、姉の前世で皇帝であり姉の夫、現在の第四皇子ルドルフだった。
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