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最終章
130 真実2 ※ルドルフ視点
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違う日、サーヤの家を遠い場所から見張っていた。すると、前髪のない恰好で、サーヤが家を出てきた。サーヤは街をうろうろとして、人を探しているようだった。そのサーヤをルドルフはじっと見るが、やはりサーヤの顔が見ることができない。しかし、他の人はそんなサーヤに違和感を感じている様子はなく、こんな変な見え方をしているのは自分だけなのだと愕然とした。
さすがにこれはおかしい。時間を逆行させたことの影響だろうか。宮殿の図書室で、時間の逆行に関する文献でも残っていないかと探すが、そういったものはやはり残っていなかった。しかし、たまたま過去の皇帝の日記のようなものを発見した。時間を逆行させたことのある皇帝だろうか、そこにはこう書かれていた。
『後悔しないと思っていた。あの子さえ笑っていてくれるならと。しかし本当に見たかった笑顔を見る機会を、私は与えられなかった。代償とは、これのことだったのだ。今となってはもう、あの子の顔さえ思い出せない。弧を描く瞳が印象的だったはずの笑顔が思い出せない』
この日記を見て、愛した人の顔が見えなくなる、それが時間を逆行させた代償なのだと思い知った。
しかし、顔の上が見えないからと、どってことはないと思っていた。サーヤが何をしているのか分からないが、街をうろつくサーヤをいつも追った。サーヤの事業の取引先に部下をこっそり配置したりした。危ない時は、陰ながら助けたりもした。サーヤの声、動く口、それさえ分かればいいではないかと思っていた。
しかし、だんだんと成長するサーヤを見て、見えない顔上半分が見えないことが悲しくなるのだ。緑色の大きい猫目が印象的な、ルドルフが好きなサーヤの顔。メイル学園の医務室でサーヤが寝ているところをこっそり覗いては、サーヤの前髪を上げるけれど、やはり見えない。目の前にいるのに、肌が温かく生きているのに、ぐるぐると黒く塗りつぶされた顔上半分が見えない。
サーヤが一度目の婚約をして、婚約破棄するのを黙って見ていた。きっとサーヤはルドルフといた前世の記憶を持っている。ルドルフを避けるサーヤから、そう確信していた。なぜサーヤがルドルフを避けるのか分からない。しかし、サーヤがルドルフを避けていても、いづれはルドルフがサーヤを娶る。そう思っていたけれど、ルーウェン・ウォン・リンケルトと婚約するのも、黙って見ていた。
サーヤを今でも愛している。しかし、だんだんとサーヤと結婚した後、ずっと上顔半分を見ることができないサーヤと未来を歩んでいける自信がなくなっていた。代償は一生付きまとう。一生サーヤを見ることができずに死ぬのだ。悲しむルドルフを見て、きっとサーヤはもっと悲しむ。
だから、サーヤを諦めることがサーヤとルドルフのためだと思い直した。サーヤが幸せになるのを見届けることができるなら、ルドルフはもうそれでいい。だから前世から続くサーヤに降りかかる悪意をルドルフが払おうと思った。ヴェルナーと結婚したいユリアは、ヴェルナーと友人関係のサーヤを気にしているのは知っている。あの性格は変わらない。前世のようにユリアはサーヤを排除しようとするだろう。
そして、ユリアを排除できた今、今後はルドルフの出番はない。本当は誰かにサーヤを任せたくはないけれど、サーヤとの未来はルーウェンに任せようと思う。サーヤが幸せだと思うなら、それでいい。
「……ありがとうございます。姉様の幸せを願っていただいて」
「……俺はサーヤを裏切ってばかりいるからな。時間の逆行をしてしまったし、……生まれた息子を見捨てたのだから」
「……え?」
「息子が生まれていたんだ。サーヤが死んだ日、臨月だった死んでいるサーヤの腹から生まれてきた。しばらくして、乳母が息子を見せに来た。俺に似た息子で、俺はすぐに興味を失ってしまった。それよりも、頭はサーヤと会いたいことに囚われていたから」
ルドルフは、『子供が生まれていたら』とサーヤが悲しんでいたとユリウスに言われるまで、たった一度会っただけの息子の存在を忘れていた。それは、ルドルフとの子を楽しみにしていたサーヤを裏切る行為だろう。ルドルフはサーヤの傍にいるべきではないと、今更ながらに納得してしまった。
「……ユリウスはルーウェンと話をすることがあるだろう。サーヤと婚約して以降、ルーウェンを観察していたが、あれは『ルーウェン』なのか?」
悪行が鳴りを潜め、サーヤにべったりでサーヤを取られまいとけん制する姿は、完全に別人のようだ。サーヤのデビュタント以降、ルドルフも何度か視線でけん制された。誰かに頭を殴られでもして、頭の中の危険分子だけが除外されたような感じを受けた。しかし記憶喪失というわけでもなさそうである。
「……姉様に恋をして、心を入れ替えたのでしょう」
「……そうか。今のルーウェンなら、サーヤを大事にして幸せにしてくれるだろうと思える。だから、サーヤの結婚を邪魔するつもりはない。それと、今した話は、誰にも話さないように」
「承知しました」
サーヤにも話す必要はない。姉大事のユリウスなら、わざわざ悲しませるような話を姉にしないだろう。ルドルフはもう話すことはないと、その場を後にするのだった。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
いつもお読みいただきありがとうございます。
毎日三話ずつ更新しておりましたが、少し間に合わず、本日は二話更新となります。
ご了承くださいませ。
また、明日は最終話まで更新する予定です。(たぶん一話か二話で最終話です)
宜しくお願い致します。
さすがにこれはおかしい。時間を逆行させたことの影響だろうか。宮殿の図書室で、時間の逆行に関する文献でも残っていないかと探すが、そういったものはやはり残っていなかった。しかし、たまたま過去の皇帝の日記のようなものを発見した。時間を逆行させたことのある皇帝だろうか、そこにはこう書かれていた。
『後悔しないと思っていた。あの子さえ笑っていてくれるならと。しかし本当に見たかった笑顔を見る機会を、私は与えられなかった。代償とは、これのことだったのだ。今となってはもう、あの子の顔さえ思い出せない。弧を描く瞳が印象的だったはずの笑顔が思い出せない』
この日記を見て、愛した人の顔が見えなくなる、それが時間を逆行させた代償なのだと思い知った。
しかし、顔の上が見えないからと、どってことはないと思っていた。サーヤが何をしているのか分からないが、街をうろつくサーヤをいつも追った。サーヤの事業の取引先に部下をこっそり配置したりした。危ない時は、陰ながら助けたりもした。サーヤの声、動く口、それさえ分かればいいではないかと思っていた。
しかし、だんだんと成長するサーヤを見て、見えない顔上半分が見えないことが悲しくなるのだ。緑色の大きい猫目が印象的な、ルドルフが好きなサーヤの顔。メイル学園の医務室でサーヤが寝ているところをこっそり覗いては、サーヤの前髪を上げるけれど、やはり見えない。目の前にいるのに、肌が温かく生きているのに、ぐるぐると黒く塗りつぶされた顔上半分が見えない。
サーヤが一度目の婚約をして、婚約破棄するのを黙って見ていた。きっとサーヤはルドルフといた前世の記憶を持っている。ルドルフを避けるサーヤから、そう確信していた。なぜサーヤがルドルフを避けるのか分からない。しかし、サーヤがルドルフを避けていても、いづれはルドルフがサーヤを娶る。そう思っていたけれど、ルーウェン・ウォン・リンケルトと婚約するのも、黙って見ていた。
サーヤを今でも愛している。しかし、だんだんとサーヤと結婚した後、ずっと上顔半分を見ることができないサーヤと未来を歩んでいける自信がなくなっていた。代償は一生付きまとう。一生サーヤを見ることができずに死ぬのだ。悲しむルドルフを見て、きっとサーヤはもっと悲しむ。
だから、サーヤを諦めることがサーヤとルドルフのためだと思い直した。サーヤが幸せになるのを見届けることができるなら、ルドルフはもうそれでいい。だから前世から続くサーヤに降りかかる悪意をルドルフが払おうと思った。ヴェルナーと結婚したいユリアは、ヴェルナーと友人関係のサーヤを気にしているのは知っている。あの性格は変わらない。前世のようにユリアはサーヤを排除しようとするだろう。
そして、ユリアを排除できた今、今後はルドルフの出番はない。本当は誰かにサーヤを任せたくはないけれど、サーヤとの未来はルーウェンに任せようと思う。サーヤが幸せだと思うなら、それでいい。
「……ありがとうございます。姉様の幸せを願っていただいて」
「……俺はサーヤを裏切ってばかりいるからな。時間の逆行をしてしまったし、……生まれた息子を見捨てたのだから」
「……え?」
「息子が生まれていたんだ。サーヤが死んだ日、臨月だった死んでいるサーヤの腹から生まれてきた。しばらくして、乳母が息子を見せに来た。俺に似た息子で、俺はすぐに興味を失ってしまった。それよりも、頭はサーヤと会いたいことに囚われていたから」
ルドルフは、『子供が生まれていたら』とサーヤが悲しんでいたとユリウスに言われるまで、たった一度会っただけの息子の存在を忘れていた。それは、ルドルフとの子を楽しみにしていたサーヤを裏切る行為だろう。ルドルフはサーヤの傍にいるべきではないと、今更ながらに納得してしまった。
「……ユリウスはルーウェンと話をすることがあるだろう。サーヤと婚約して以降、ルーウェンを観察していたが、あれは『ルーウェン』なのか?」
悪行が鳴りを潜め、サーヤにべったりでサーヤを取られまいとけん制する姿は、完全に別人のようだ。サーヤのデビュタント以降、ルドルフも何度か視線でけん制された。誰かに頭を殴られでもして、頭の中の危険分子だけが除外されたような感じを受けた。しかし記憶喪失というわけでもなさそうである。
「……姉様に恋をして、心を入れ替えたのでしょう」
「……そうか。今のルーウェンなら、サーヤを大事にして幸せにしてくれるだろうと思える。だから、サーヤの結婚を邪魔するつもりはない。それと、今した話は、誰にも話さないように」
「承知しました」
サーヤにも話す必要はない。姉大事のユリウスなら、わざわざ悲しませるような話を姉にしないだろう。ルドルフはもう話すことはないと、その場を後にするのだった。
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いつもお読みいただきありがとうございます。
毎日三話ずつ更新しておりましたが、少し間に合わず、本日は二話更新となります。
ご了承くださいませ。
また、明日は最終話まで更新する予定です。(たぶん一話か二話で最終話です)
宜しくお願い致します。
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