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元カレを思い出せません
奪ったのは、自分
しおりを挟むガチャリ、と玄関の扉が開く音がした。それに反応して、恭弥は顔をパッと上げる。悠だと思ったからだ。
けれどリビングの扉を開いたのは、悠ではなかった。
「…え、誰」
知らない女が入って来たことに、恭弥は当たり前に混乱していた。
「……久し振りね」
「え…?」
「なあに、私のことまで忘れてるって言うの?」
「……あの、すみません。どちら様で…」
その言葉に、彼女ーー花音は恭弥の前にドスリと座った。
「アンタ、いい度胸ね。私から悠のこと奪っておいて」
「悠さん?悠さんの知り合いの方ですか?」
「私は宇都美花音!!悠の婚約者だったのにアンタを選ぶからって婚約破棄された女よ!!自分だけ記憶失くしましたとか、ふざけないでっ!!」
「こ、婚約破棄?」
突然の頭痛。何だろう。思い出したくない何かが、こじ開けられるような感覚。
「そうやって逃げるのやめてよ!!!アンタがそうやって全部忘れたとか言うなら、悠は返してもらうからっ!」
返してもらう?
嫌だ。悠さんは、俺の恋人で。大好きな人で。
「…だめ、です」
「なにがよ」
駄目。なんで、どうして、俺は。
「悠さんは、悠さんの恋人は、俺なので、花音さんには、返せません」
そうだ。この人は、恋人の婚約者だった。それを俺が奪った。
俺はこれ以上疲れるのが嫌で、記憶喪失に、自分がしていたのだ。無理やり。
こんなに大切な事を、自ら望んで忘れるなんて。
「……ごめんなさい」
「なにがよ」
「ちゃんと、憶えてます。もう逃げません」
彼女は婚約破棄されたと言った。俺が逃げている間、悠さんはちゃんと蹴りを付けていて。
本当に情けない恋人で、申し訳ない。
「本当に、ごめんなさい」
俺は何を考えていたんだ。自分が被害者だと思い込んで。そもそもの婚約者は彼女だった。それがどんな経緯であろうと、彼女から悠を奪い取ったのは自分だ。
記憶を取り戻したというのに、頭は冷め切っている。
別れ話をしても、それでも悠は隣にいてくれた。その事実だけが、ずっと頭の中で彷徨っていて。
「…もういい。今日はこれ返しに来たのよ」
バシンッと投げられたのは、この家の合鍵だった。
「悠に伝えておいて。私を振ったんだから、別れたりしたらぶっ殺すってね。もちろんアンタもよ」
「…はい」
「…応援はしないから」
そう言い残して出て行った彼女と入れ違いで、悠が入ってくる。
「恭弥!?今なんか花音出てきたんだけど!しかもなんか平手打ちされたんだけど!!!」
「……婚約者いること隠して俺と付き合ったりするからですよ、センパイ」
「それを言われたらお前………え?」
驚愕の顔ってこの事を言うんだろうなぁ。
「とりあえず、悠さん。…謝って、ちゃんと説明してください」
五日間も家を空けた訳をまだ聞いていない。
それに、別れ話も途中だ。
それの結論が出るのか、それとも話し合いの途中で仲直り出来るのか。
多分、一時間後には後者であることが確定しているだろうけれど。
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