報われないこの世界で

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「やあ、腕は治ったみたいだね。」

蒼は医務室から出た後、晴海の部屋まで来ていた。

「おかげさまで、妖の事など色々教えて貰いました。」
「そうかい、それは良かったね。実は今日君を呼んだのは何も治療する事だけが目的じゃないんだ。」

(そりゃそうだろ、やっと本題に入ったか。)

「やっぱりその様子だとあんまり驚いてないみたいだね。僕は君の事を買っていてね。是非とも、妖退治を手伝って貰いたいなんて考えているんだけど、どうかな?」

成程。これが本題か。だがそんなもの嫌に決まっている。なぜ俺が見知らぬ他人の為に命を懸けて戦ってやらなければいけないのだ。俺は本来守られる側だ。特殊な力もなにもない。逆に守ってほしいくらいだ。

「大変申し訳ありませんが、お断りさせて頂きます。私に人を護りたいだなんて気持ちはないので向いてません。」
「じゃあ、なんで今回は戦ったんだい?君の事だから気付いてると思うけど、僕は街中に式神を置いていてね。式神を通して街中を見る事が出来るんだ。今回君は巻き込まれていない。自分から関わりに行ったんだ。何故かな?」
「流石に私も知り合いに死なれると悪い夢でも見そうですからね。頼られたから行ったまでです。」

お互いに腹の中は見せない。
弱みを握られればこいつに逆らえなくなる。

「どうしても嫌なら仕方ないや。」

しかし思ったよりあっさりと諦めた。
逆に不自然だがチャンスだ。言質は取った。
この隙に逃げてしまおう。
そう思い席を立ち部屋の襖に手を掛けた。

「ああ、そうそう。これは雑談なんだけど、妖は霊力が大きい人に寄ってくるんだ。だから一般人が襲われる事は稀なんだよね。
まあ、2回も襲われたのは偶然だと思うけど、一体誰がターゲットだったんだろうね。」
蒼がその場に立ち止まり、晴海の顔を見るとヘラヘラと笑っていた。
クソっ!こいつ最初から俺がどう動くかわかった上で泳がせていたんだ。その事に気付くのが遅かった。
俺は2回とも自分から関わりに行ったし、美玖は逃げても追いかけられる事はなかった。
つまり妖に狙われているのは真央という事だ。
俺が妖退治を引き受けないと真央が危ないぞとこいつは言いたいのだろう。

「あんた、いい性格してるってよく言われるだろう。」
「ようやくちゃんと話してくれたね。ずっと距離置こうとしてたでしょ。敬語だったし。まあこれからも宜しくね。」

俺は晴海と握手をした。
こうして俺は、陰陽師や妖といった不可思議な出来事に関わっていく事になった。











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