報われないこの世界で

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鬼神

利害の一致

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話は少し遡る。

坂上と別れ、屋敷の外に出た蒼は人を探していた。

鈴鹿里奈は明らかに怪しい。
鬼を説得したいなら俺たちだけ、退治するなら坂上だけでいい筈だ。
これでは、何をしたいのかわからない。

本当に強者にどっちつかずの人間は存在しない。
いざという時に迷ってしまう人間は生き残れる世界ではないからだ。
鈴鹿里奈の強さは本物だった。
だとすると、明確な目的があるに決まっている。
それも俺と坂上を呼ぶ必要がある理由が。

暫く歩いていると、何者かが争った跡を見つけた。

この辺りか…

蒼は周囲を歩き回っていると小屋を見つけた。決して大きくないが人一人は住める大きさの小屋だった。


蒼が小屋に入ろうとしたその瞬間、背後から刀を首に添えられた。

「何者だ?何故こんなところにいる?」

「鈴鹿御前に鬼退治を雇われた者だ。
どうにもきな臭くて、近辺調査をしていたらこの小屋を見つけた。
どうか刀を納めては頂けないだろうか?」

立烏帽子は蒼は見た後、仮に何かあっても蒼程度処理できると考え中に通した。
蒼に本当の事を話しても信じるのかが分からず、戸惑っていると蒼から話しかけて来た。

「間違えだったら悪いのですが、貴方はもしかして立烏帽子と呼ばれるお方ではありませんか?」

「何故それを知っている!」

立烏帽子は驚いた。
こんな事、外部に漏れる筈もない。
だとすれば姉の手先の可能性が濃厚だ。

「鈴鹿御前と出会った時から変だと思っていたのです。立烏帽子の戦闘は神通力と武器を使うと聞いていましたが、あの方は武器を扱うの修練を行った事がない様に思えます。
歩き方や周囲への警戒がまるでなっていません。
極め付けは、彼女は何も持ち歩いていませんでした。巫女はその身が武器となる為、何も持ち歩く必要がありません。
ただし、武人の場合は必ず武具を持ち歩きます。そうしないといつどこで出会うかわからない妖に遅れをとるからです。
立烏帽子程の武人がそれを怠るとは思えませんでしたので。」

驚いた。この子は良く見ている。
彼になら話しても大丈夫か。

立烏帽子は蒼に大嶽丸や鈴鹿に襲われた事や三明の剣を奪われた事を話した。

「そういうご事情ですか。わかりました。
お願いがあるのですが、今日おそらく我々は命を奪われるでしょう。
ですのでその場から助け出して頂きたい。
見返りとして三明の剣をお渡しします。」

「信用出来ません。貴方は弱い。
私に出来ないことは貴方にも出来ませんよ。

「こちらには坂上田村丸の子孫がいると言ったら。」

立烏帽子の表情が変わった。
坂上田村丸と言えば、大嶽丸を退治した有名な人物だ。
彼の祖先にならかける価値はある。

2人は同盟を組む事にした。
蒼は任務達成の為の鬼退治のため
理子は三明の剣を取り返すため
双方の目的を叶える為に。
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