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しおりを挟む誘導されたまま季節の花々を通り、温室の奥に辿り着いた。
彼が壁にある葉っぱや蔦を退かせば、その向う側に小さな空間が広がる。
中には小さな白い丸いテーブルと椅子が二つ置いてある。
彼は私を椅子までエスコートし、そこに座るようにと促した。
「ここは……」
「母のお気に入りの場所だ」
旦那様の母。すなわち前公爵夫人。
植物を研究している方であり、ゼベラン国の緑化にも手を尽くしている方だと聞いた。
ロートネジュ家に嫁いだ後も彼女はその研究を続けるが……
(そういえば、ニコルがこの温室は先代の時に建てられたものであると言ったな。もしかすると、ここで研究をしてたのかな)
シンプルでありながらも今でもよく手入れされている机を一撫でする。
中にある植物が程よく強い日差しを遮るように配置され、とても心地よい空間だ。
花も華やかなものより、小ぶりで控えめな種類が沢山咲いている。
この空間に入るだけで、私の中に前公爵夫人に対する好感が芽生えた。
叶わない願いだと分かっているが、一度彼女と言葉を交わしたくなった、そんな不思議な気持ちになった。
「坊ちゃま、奥様。紅茶の準備をさせていただきます」
心地よい空間を堪能している間に、ソフィが現れた。
ソフィは手際よく紅茶を用意し、全部が終わった後私に優しく微笑みかける。
何故か旦那様には少し笑顔のようで笑顔ではない表情を送ったように見えた。……これは、気のせいでしょう。
ソフィが「ごゆっくりどうぞ」と言い、礼をしてこの場所を後にした。
シンプルで上品なカップを囲い、私たちは再び二人きりになった。
間を誤魔化すために、ソフィが入れてくれた紅茶に手を付ける。
あ、このティーセット、見覚えがあるわ。確か、旦那様の母君が気に入ったもののはず。
どうしよう、何を話せばいいのだろう。
私が提案したことなんだから、私自身が何とかしないと。
今まで母にも妃教育の時でも会話に関して教えられたのに、彼の前では何故か上手く繰り広げられない。
だけど、気まずい沈黙を避けるために、何かを言わないといけない。
無難なことを聞こうとしたその瞬間。
「不備はないか」
まさか、彼が先に会話を始めてくれた。
「そんな、ことはないですよ。屋敷の皆様、とても優しくて快適に過ごしています。分からないことがあれば答えてくれますし、やりたいことがあれば手伝ってもくれています。今日だって、朝はソフィと一緒にポプリを作る準備をしていまして――」
動揺を隠すために、ひたすら回答を伸ばす。
だけど、一度口にすれば、連鎖するかのように次々と話が浮かぶ。
気怠いな起床を明るくしてくれたソフィ。
小食な私の健康をいつも気にしてくれたハンナ。
どんな質問でも丁寧に答えてくれたニコル。
面白い話で場の雰囲気を賑やかにしてくれたカレン。
ここに嫁いでから、二ヶ月しか経っていない。それでも、大切にされていると実感できるほど皆は私を受け入れてくれた。
そして、今、私の前に座っている夫だって――。
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