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目的地

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クルスを一切れゼノンさんから預かった『シルクビー』にもおすそ分けしながら昼食を完食する。

「ん、ごちそうさまでした」

両手を胸の前で合わせて、食材への感謝の祈りを捧げる。

「ふう。・・・・うん。よし。体力も魔力も回復した」

両手を握ったり開いたりする。
身体の中から力と魔力が充実していく。
ポーションやハイポーションで体力、エリクサーで魔力は回復するがシェナは自分で作った料理を食べる方が体力と魔力の回復が捗る。

前のパーティーで雑用していた頃クエスト中でメンバーの食事を作っていたが、好き嫌いが多いメンバーだった。
妙に美食家を気取って、自分達が食べたい物は次次と注文し作れと言うのに、下級魔獣の肉は食べたくない。野草は生臭いから嫌だ。川魚は骨が面倒くさい。などと文句をよく言っていた。
だから、シェナはたまーに、腹いせに食用の蛙型魔獣の肉を鶏肉と偽って食卓に並べていたものだ。
それを鶏肉だと信じて食べていた元パーティーメンバーだった。

空を見上げると、太陽が少し傾いて来ている。
素早く後片付けに入る。しっかり火の始末をして小鍋に残ったアヒージョの花油を冷まして市場で買ったガラスの小瓶に流し入れる。
流し入れ終えたら小鍋の中を綺麗で乾いた布でなるべく綺麗に拭う。
この布は後で着火剤として使える。
後は水の魔法で小鍋と皿と金串とフォークを洗う。
洗い終えた綺麗に布で水気を拭き取りとる。
水気を拭き取ったらマジックバックに収納する。

「よし。行こう」

シェナは『ネルの森』の奥へと向かう。


「ハァ!!!」
『ブゴオ!!』

いきなり突進して来た猪型魔獣『ワイルドボア』。
シェナは追突する寸前に『ワイルドボア』の頭上へ跳び上がりそのまま『ワイルドボア』の脳天に踵落としをきめた。
体長2メートルの中型の『ワイルドボア』の頭が地面に叩きつけられ、めり込んだ。

「よし。食料と素材ゲット」

猪型の『ワイルドボア』赤黒色をした剛毛の毛皮と太い牙を持ち獲物に突進してくる。だが毛皮や牙は錬成でいい防護系の魔道具になる。

昼食を食べ終わってから約2時間。
木の実や果物や薬草、キノコを採る中、小型、中型の魔獣の触れ合いと襲撃に遭いつつ素材を狩る。
獲物は結界を張りその場で手早く血抜き。闇の魔法と水の魔法で冷保存を施す。
シェナを襲撃をかけ突進してきた2メートルあった『ワイルドボア』もトドメを刺され素材の毛皮と牙、蹄。骨。4つの肉塊と臓物と分けた。
『ワイルドボア』の肉は食用。
しかも、血抜きと解体の仕方でとっても美味しいお肉になる。

「うん。いい肉だ」

新しく買ったマジックバッグが早くも採取した素材でいっぱいになるから、この『ワイルドボア』のお肉は今晩の晩御飯にする。
とりあえず、晩御飯分の肉に冷保存の魔法をかけ小袋に詰めて鞄に入れる。

「綺麗な肉。脂ののりも良質。これは分厚く切り分けて軽く塩胡椒して焼いただけでも美味しいだろうな。これだけ新鮮なら内臓も余す事なく食べれるよね」

このお肉をどう料理してやろうと考えながら目的地へと急ぐ。

シェナの今回の目的、『月花の花』。
満月の夜に開花し、開花した花は高い薬効があり効能が高いハイポーションの原材料になり、一房銀貨3枚と高値で売れる。
だが満月の夜は魔素が強くなり、魔獣が活発化し更に花が採取できる所は森の奥にある。
当然、魔獣の遭遇率も格段に上がる。

しばらく、遭遇する魔獣達を叩きのめしながら森の奥へ進むと木々が大きく開け中央に広大な湖がある場所に出た。
深い緑の木々に囲まれた深い紺碧色の水面。開けた空には白みがかった薄い茜色が染まっていく。湖には遮ぎる木々も影もない。

「ッ!」

湖までは結構距離があるが泉の水面でナニかが動いたのが見えた。
咄嗟に木の陰に身を隠すシェナ。

ザバァ!!!

水飛沫と共に水面から出てきたモノは、

『ブルルルル!!』

馬の顔だった。

湖の水面から出てきた紺碧色の顔に藍色の鬣の馬の顔。
『ケルピー』だ。

『ケルピー』は上半身が馬の体で下半身に魚の尾鰭を持つ馬型の水魔獣で、美しい鬣を靡かせ水の中を泳ぐ『ケルピー』はさながら大地を駆ける駿馬そのもの。
また下半身の尾鰭を馬の脚に変える事で水陸と移動が出来る。この『ネルの森』のボスと呼ばれている魔獣。
陸地では藍色の鬣を持った普通サイズの紺碧色の馬になるが、優美な馬だと誘惑し惑わせ、一度湖に引き込まれては回避はまず難しい。
そして、そんな『ケルピー』の好物は“人肉”。
見た目は広大な普通の湖だが、湖底には『ケルピー』に惑わされ湖に引きずり込まれた人間の骨のカケラが散乱している。

だが、シェナの目的の『月花の花』はあの『ケルピー』の巣に自生しているのだからこのまま帰る訳にはいかない。

「寝床を作って、月を待とう」

東の方の空が茜色から薄紫色に変わっていく。もうすぐ夜になる。
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