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残り物でも美味しい
しおりを挟む暗かった夜の空が、薄く白けだした頃、怪我は無いが少々顔と服を泥で汚し所々ボロボロにながら、シェナはカマクラに戻って来た。
怪我した男は相変わらず寝ている。
密かに男が目覚めてカマクラ内をアンデット族のように呻きながら這いずり回ってたら、どうしようかと思っていたが、いらぬ心配だったようだ。
そして、シェナの腕の中にはカマクラを出る時には持っていなかった皮袋を抱えていた。
「あー、疲れた」
シェナはため息混じりに呟きながら抱えている皮袋をカマクラの奥へ持っていき、頭から取ったターバンで包み、皮袋の中身のソレを気遣いながら、慎重に安置する。
「ふぅ、!おっと、」
とりあえずひと段落したかな、そう思っていると、グラリとシェナの視界が揺らいだ。
魔力切れが近くなり身体に一気に襲いかかる疲労感と脱力感。そして、空腹感。
「お腹空いた。でも、先に服洗わないと」
若干億劫に思いながらもカマクラの外で泥で汚れた顔、両手、グローブと上着を水魔法で洗う。
洗ったグローブと上着を乾かす間にシェナは食事の支度を始めた。
使うのは、まず、晩御飯に残していたボタン鍋の残り汁。
鍋の中には半分程残しておいた残り汁と『ワイルドボア』の肉のかけらと野菜のかけらが浮いている。
このまま、この残り汁を温めて飲んでも美味しいだろうが、それでは腹は膨れない。
鞄に入れていたマジックバックの中から、野草『ベーベルの葉』と白くて太い根菜『ダイコン』。そしてある物を取り出した。
実はシェナは『月花の花』を採取に行く前にある物を仕込んでいた。
その、ある物をとは、持ってきた小麦粉をぬるま湯で混ぜてコネた、シェナの片手の平に余るくらいの白く少しモチっとペチャっとした生地。
『すいとん』の生地だ。
まずは、鍋の調理に入る。
カマクラの外に出て鍋を竃にかけ、スプーンでかき回すとフンワリと温められたミソの香りが辺りに漂う。
ぐうう~~。
お腹の虫も鳴りだすのは、致し方なし。
3時間程前に晩御飯食べたのに、この立ち上るミソの香りは最早暴力に近い。
早く食べたい気持ちを抑えて、中の汁がクツクツとなるように温め、頃合いを見てザグ切りにした『ベーベルの葉』と半月の様に薄く切った『ダイコン』をカサ増しを兼ねて、少し多めに入れた。
しばらく煮て、一口、味見してみる。ミソの暖かい味が胃袋にジンワリ染み渡る。
「、うま!!」
野草をカサ増し多めに入れた為、全体的に少し薄味になっているが、ミソの塩っぱさとボタン鍋で使った肉に脂、が火が通った野草の『ベーベルの葉』と『ダイコン』の優しい甘さが引き立つ。
そこに、一口大に千切った『すいとん』の生地を鍋の中に投入。
後は、『すいとん』に火が通り、味が染み込むのを待つだけだ。
待つ間も、ギルドの救援隊の目印に狼煙を焚き、皿の用意をし、座りながら薬湯を作る。
水と火の魔法で月花の花と薬草を沸騰しないように煮溶かす。
まだ、男が目を覚まさなければ、また飲ませなければならない。このままではやっぱり苦くてエグいから、今度は薬効が変わらないように味を調節する。
まぁ、専門ではないから、出来ることは限られているけど。
そうこうしているうちに、外から『すいとん』の香りがカマクラの中に流れ込んでくる。
くつくつと煮える鍋の中で『すいとん』は確実にボタン鍋の旨味を染み込ませているのだろう。
「あー、お腹減った」
あー、また、お腹が鳴りそう。
そう思っていると、
グゥオオオオオオ!!!
突然盛大なナニかの唸り声が聞こえた。
でも、それはシェナのモノではなかった。
「ッ!へ!?」
反射的に振り向くと、寝ていたと思っていた男が目を見開き、顔をこちらに傾けていた。男の顔は真っ赤になり固まっていた。
「・・・・・・・お腹の中、猛獣でも入ってるの?」
あまりの男の腹の虫の唸りに、思わず呟くシェナだった。
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