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土屋

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新川の手が土屋の体中をまさぐる。
「土屋君、愛してるよ。僕が全部面倒見てあげるから何も心配しないで。僕に身を任せて」
何を言われているんだろう。判断力を奪われた脳では理解できず、言われた言葉が染み込んでいく。
「僕の言う通りにしていればいいからね。土屋君の面倒は全部みてあげる」
ああ、そうか。金の心配とかしなくていいんだ。
この男が全部みてくれるのか。そうなんだ…。

土屋の手が体中を滑る。その心地よさに土屋は目を閉じながら全身で感じていた。
それがクスリによって高められた快感だということを本人は知らない。

知らない間にヤク漬けか。悪くないな。
優しい言葉をかけながら新川はにやにやする。
「これからは僕の言うとおりにしてね」
「うん…」
面倒みてくれるんだもん。それくらいはする。
「気持ちいいことしかされないから大丈夫だよ」
脳が変な動きをしているような感覚がする。長谷川とは比べ物にならないセックス。
もっとさわってほしい。
「もっと…」
「もっと、なに?」
新川はにやりと笑う。土屋が堕ちた。そう確信した。

「もっと…さわって……抱いて…」
朦朧とした意識の中、土屋はしらふでは絶対言わないだろう台詞を吐いた。
あんなにいきがって生意気だった青年も堕ちれば大したことないな。
「これからは俺の言う通りにしろ。いいな」
新川はかぶっていた「いい人」の仮面を取って本性を出した。
「…うん」
「返事ははい、だ」
「…はい……」

新川の口角が上がる。体位を変えて自分の体に土屋を乗せて下から貫いた。
「…あっ、あ!…ああん!や、は…っいい!…あうっ!…ん……」
新川の上で夢中で腰を振る。勃起したそれからは絶えず液体があふれ続けている。もう何度イッたか覚えていない。
土屋に意識があるのかもわからない。狂ったように腰を振っている姿を見て新川の心は冷めていった。


「土屋がやられた」
突然管理室に現れるなり西田はぐったりした様子で呟いた。
「どういう事?」
「どこまで話したっけ。新川のことは言ったか。俺が隠れろっていった理由。あいつの美少年狩り、土屋が狩られたよ。確かにあいつキレイな顔してたもんな。生意気なヤツだったからよく見てなかった」
管理室でぽつんとひとり、数日隠れるようにすごしていた。どうしてこんな窮屈なことをしていないといけないんだと不満はあったが、西田の言葉を聞いて隠れていて正解だと思った。


佐伯も引越し前の部屋に押しかけられて騒ぎを起こされ迷惑を被った一人だった。何があったかしらないが同情する気はない。
何故か自分に被害を及ぼす存在は勝手に消えていく。高校時代自分の体を弄んでいた先輩連中は黒部が消していった。
「商工会で君を抱いた連中もそのうち商売立ち行かなくなるだろうね。清水組が乗り込んできたら追い出されるか高い金払って居残るか。どっちを迫られたら結果は見えてる。よかったね」
「よくはないよ…」
「でも黙ってても君に害を及ぼした人間は消えていく。不思議だね」
「数が多すぎて誰が俺を犯したのかわからん。いちいちおぼえてないし商工会に対しては復讐とか考えてなかった」
「えー、じゃあ俺は損だったか」
床にあぐらをかいて西田は苦笑いしている。
「後藤さんいなくなったんだし律儀に約束守らなくてもよかったのに」
「後々怖いからな」
頼んだわけではないのに西田はぽつぽつ情報を流してくる。自分に火の粉がかからないためもあるだろうがマメな奴だなと佐伯は思う。

美少年狩りとかいうのも、別に言わなくても西田に害はなかったのにわざわざ教えてきた。隠れる場所まで用意して。
管理人が急にいなくなるのも、疑おうと思えばあやしい。
「どうした?」
上の空になった佐伯に西田が強めに声をかけた。
「なんでもないけど、まだ隠れてないとダメなの?」
「むしろこれからだ。次に誰が狙われるか。君もその見た目だと危ない」
「それなんだけどさ…」
佐伯は少し考えていた坊主にメガネの話をしてみた。

「あっはは!なるほどね、それはいいかも。明日にでもバリカン持ってくるよ!」
「そんなノリノリで言われるとつらいなあ」
「いやあ、思いつかなかったなあ。いいアイデアじゃないか」

ずっと笑いながら西田は帰っていった。
殺風景な管理室でたまにくる荷物を預かったり住人と挨拶したり、あとはすることがなかったが部屋を空けることは出来ずずっとここにいなければならないのは少し窮屈だった。せっかく借りてもらった新しいアパートに帰るのも億劫になって置いてある布団でここに泊まる日が多い。前の管理人が使っていたのだろう布団はおじいさんの匂いがしたがあまり気にならない。

あの土屋がいなくなった。長谷川の新しい恋人として登場して店長会議で全員の顰蹙をかった男。消えたからといって特別なにも感じない。むしろ目障りな人間がいなくなったのだから気分がいい。
西田も言っていたが、自分が何もしなくても嫌な奴は勝手に消えていく。もうなにかの呪いなんじゃないか。最近は本気で気になりだした。
それだけ悲惨な目にあってきた人生の前半だった。気紛れな神様が哀れんでくれたのかもしれない。
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