それはファンタジーだったはずっ!

希京

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天禅高校

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天禅てんぜん高等学校は仏教を教育の主とする男子校だった。

煩悩を減らすか無くすという不思議な教育方針。そんなものを信じた自分が馬鹿だった。

北川 れんは親の意向でエスカレーター式のここに入学して以来、状況は好転することはなかった。

それはそうだ。若い性の衝動は修行や勉学で簡単に消えるものではない。

まわりは男しかいないのなら思春期のそれは男に向かう。

ー理屈ではそうだけどっっ!もう少し何とかならんかっ!

親に逆らって共学に変わっておけばよかったと北川は天を仰いだ。

中性的な見た目が悪いのもある。少し長めのストレートの前髪、目つきは鋭いが二重の目。廊下を歩けばジロジロと好奇の目にさらされるし、道を歩けば今度は女の視線が体を刺す。無駄にお洒落な茶色いブレザーの制服が拍車をかけている気もする。

ーああ、どこか人のいない場所で生きていきたい…マジで。

北川が一番校風に合っている心理状況になっていた。

「蓮、どったのシケた顔して」

教室の自分の席でぼー…っと窓の外を眺めていた蓮に、同じクラスの南 悠月ゆづきと、伊東 英人ひでとが隣から話かけてきた。

このふたりだって見た目は悪くないのに自分だけオトコに狙われるのはなぜなのか、蓮は不思議で仕方がない。ヒマを持て余した神々の遊び?

「お前がその業から逃れるにはブサイクに整形するしかないと思うぜ」
暗めの金髪に長身で、男女両方にモテそうな悠月が椅子に座りながら言う。
「それ割と真剣に考えてる。でも今は金が無い」
「マジか」

幼稚園からの幼馴染で、ふたりは蓮を性的な目で見ることはない…、と信じたい。

「髪剃って坊主にするとかは?」
英人のほうは自身の黒い短髪を引っぱってヘラヘラ笑いながら、こちらは冗談とわかる雰囲気で言う。
「ふたりとも他人事でいいよな」

「蓮くーん、やっほ」

ほら、噂をすれば悩みのタネがやってきた。

前髪を分けて一方は片目が隠れる程度に伸ばした黒髪に、後ろはボリュームを少なくして結んでいる男。

スポーツバッグをリュックのように背中に背負って、潰した学バンを手に持って片手を大きく振って西野 りつが教室に入って来た。


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