金は天下で回らない

希京

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雨~水は低きに就くが如し

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早朝、眠りを誘うような音で中川京介が目を覚ます。
「あ~あ…」
カーテンから外をのぞくと雨が降っていた。
寝癖のひどい髪をぼさぼさと乱しながら、スマホを操作して今日の日付を確認する。
「ボスの月命日か」

足元に酔い潰れてまだ眠っている田中満流みつるも、のそのそ起きてきた。
「大事な日に必ず雨降らすねあの人」
腕を頭上で伸ばして、勢いをつけて起き上がる。雑魚寝なので体が痛い。

「林が白銀直樹をヒットできたそうだぞ」
コーヒーを淹れながら中川が言う。
「殺したのか?」
「今どきそんな荒事できないって。神経戦で倒したって話を角川さんから聞いた」
「かわいい顔してすごいよな」
未知の命令なら同性でも寝る林には敵わない。苦いコーヒーから1日が始まった。


大きな黒い傘を持ち、黒の喪服を着て金子未知が父の眠る墓まで歩く。
先祖代々の墓はあるが、それとは別に父だけの新しい墓を買った。

「おはようございます。美加とけんかしてしまいました。謝りたいんですが会ってくれません。全部私が悪いんです。どうしてあの時美衣に殺意を抱いてしまったのか、私は情が薄いのでしょうか」
しばらく墓石の前で日頃誰にも言えない愚痴をこぼす。
「でも仕事は受け継ぎます。いいでしょ?」
それしか父と自分を繋ぐものがない。

しおれた花を新しいものに交換して、線香の束に火をつける。雨で消えないように傘で覆って、小さな炎の種を見ていた。


「あれえ?美衣ちゃんご無沙汰!」
事務所兼自宅の未知のマンションに、派手なアロハシャツに髪先を外にはねさせた中川京介と、クラシカルなスーツ姿の田中満流みつるが訪れた。

「おい、大学生に手を出すなよ」
ダイニングから角川が釘を刺す。
「そんな恐ろしいことしないです。でも美衣ちゃんイメチェンした?なんか未知さんに似てき…痛っ!」
角川に分厚い本の角で軽く頭を叩かれる。痛がりつつ中川は髪を急いで整えた。

「最近どうだ?」
髪型を気にしている中川を放置して、田中に話をふる。
「総務省のお偉いさんと知り合いになりまして、たまに食事に行く仲になりました」
「それ、やめとけ。誰かが裏切る。スケープゴードにされるぞ」
眉間にしわをよせながら、角川が新しいソファに座った。

「あれ?ソファ新調したんですか?今度は革?かっけー」
「前のは血飛沫ちしぶきを浴びてご臨終だ」

ふたりの血の気が引く。
「まだそんな仕事引き受けてたんですか?」
「最後の残りカスだ。1円でも回収する」
「そういう所は父親似だなあ」

こんな話を、何も知らない美衣には聞かせられない。さり気なく違う話題にしようとした時、美衣が田中の横に座った。
「どうやってお金を返させるの?」
「そろそろ登校しないと間に合いませんよ。行きましょう」
話に乗ってきた美衣の扱いがわからず角川にアイコンタクトをするが、未知が妹をどうするのかわからない今は何も話さないほうがいいと判断して、この話題を終わらせた。

「返さないやつは地獄に落とす、とは言えないよな」
中川がぼそりとつぶやいた。



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