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イリーガル
どれくらい時間がたったのだろう。
あの日は結局意識を失うまでセックスしてふたりベッドで倒れていた。
卓也が眠っている横で、春兎が静かに目を開ける。
ベッドの横にあるサイドテーブルに、ビニール袋に入った乾燥大麻と、それを巻いた煙草が置かれていてゆっくり手を伸ばすと後ろから声がした。
「なにしてんだ」
「一本もらおうと思って…」
「いいけど体に悪いぞ」
卓也の言葉にくすくす笑ってしまった。人に強引に吸わせておいてよく言えたもんだ。
結局吸わずに裸の卓也に腕をまわして抱きついた。
「ドレッドって初めて見た」
大きな瞳を上目遣いに、細かく編まれた髪を春兎が興味深くそっと触る。
「もうやめる。頭洗えないんだぜ?痒くて我慢できねえ」
「そうなんだあ」
「お前のまわりには五厘刈りの野球選手みたいなのしかいなさそうだな」
あははと声を出して豪快に笑う卓也の肩に頭をよせた。すり寄る仕草が卓也の心をくすぐり自然と笑顔になってしまう。
そんなことを思い出しながら春兎は自分のマンションの窓からぼんやり外を眺めていた。
スマホが暗い部屋で光る。確認すると卓也からのLINEで『今夜会える?』とシンプルにひとこと書かれてあった。
少し考えて『会えるよ』と返信する。
朝からいろんな人から電話が鳴りっぱなしだった。誰とも話したくなくて無視していたが観念して折り返した。
「早かったな」
夜、待ち合わせの駅で卓也と合流する。
やめると言っていた髪型はまだそのままだった。黒革の大きなコートを着てジャラジャラとアクセサリーを身に着けた卓也はとても目立つ。
そんな男の隣に童顔で銀髪の青年が並ぶと余計人の興味を引いてしまう。人目を避けようとすると選択肢は治安の悪いあの辺り。
「おなかすいた」
「アミに連絡しといた。あそこのババ…、いやママは料理上手だから何か作ってもらえ」
強引に行く所を決められたが得に反論はしないで素直に着いていく。
「どうした?浮かない顔して」
無言でうつむきがちな春兎に気がついて心配そうに顔を覗き込んできた。
「ねえ卓也」
「ん?」
「僕のこと…」
気がつくと店の前まで来ていた。
「後で聞くわ。俺も腹減った」
ドアを開けるとカランと音がした。
「いらっしゃいま…、あら卓也…とこの前のお財布の方!」
赤い派手なスーツを着たアミがカウンター越しに笑顔でふたりを迎える。春兎は丸いシルエットの頭をぺこりと下げた。卓也はどかっと無作法に座る。
「さっきの電話。それでママがずーっと料理作ってるわけね。でもパートナーいるんだからもっといい店連れてってあげればいいのに」
カウンターに誘導しておしぼりを渡しながらアミが言う。
「ここだっていい店だろう。ママに失礼だろ」
ボトルを探しているアミの後ろ姿に卓也が文句をぶつけると、暖簾の向こうから料理を乗せた皿を持ってママが登場した。
ママといっても年はアミより少し上くらいで卓也のいう『ババア』ではない。
「いらっしゃいませ!また来てくれたの。うれしいわあ」
「ども…、こんばんは」
おずおずと頭を下げる春兎の横顔を、カウンターに肘をついて卓也が眺めている。淡いライトに浮かぶその顔とベッドの上で喘いでいた顔が重なる。
「やらしい顔してえ。氷溶けちゃうわよ」
アミの冷やかしを無視して、卓也は目の前にあるロックグラスに口をつけずに卓也はじっと春兎を見ていた。
「最近どうなの?卓也」
「ぼちぼちかな。そんな手広くやってないし、今はSNSの時代だから注文もDMで来るし楽だよ」
アミは卓也の正体を知っているようだった。
「今さらだけど、春兎って酒強いの?」
「まだ自分の限界がわかんないけど、強いほうかも」
「へえ。ホント人は見かけによらないな」
気がつくとカウンターからママとアミの姿が消えていた。ほかにお客もいないし、気を回してふたりきりにしてくれた。
「ありがたいこった」
「?」
ビールを飲みながら春兎は不思議そうな瞳を向けてきた。
「見ろよ。誰もいないぜ」
耳打ちされて春兎が真っ赤になる。卓也の手がふとももにのびてきてそっと置かれた。
「ここでする気なの?」
「さすがにしねーよ。裏にアミたちいるし聞かれるぞ。ま、そういうプレイが好きならやってもいいけどこの店出禁になるな」
「ふふ、それは僕も嫌」
そう言いながら春兎は瞳に強い光を宿して卓也を見る。
今夜は何か言いたそうな表情を何度もする。
照れてんのかなと思って卓也は軽く考えていたが、もっと気にしたほうがよかったかもしれない。
「ありがとうございました~」
2時間ほどお邪魔して店を出た。程よく酔って気分がよくなった卓也が『煙草』を取り出して火をつけた。
「今吸ったね」
となりに並ぶ春兎が聞いたことない低い声で言う。
「部屋にもたくさん大麻あったね。証拠写真は撮ったよ」
「何言ってんだお前」
春兎は何かの紙を提示して手錠を取り出した。
「厚生労働省麻薬取締官だ。あなたを大麻所持で逮捕する」
「はあ!?」
突然の展開に卓也の頭が状況を理解出来ない。言葉が出ないまま突っ立っていると腕を掴まれて手錠をはめられた。
さっきまで店にいたアミが背後から自分に銃を向けて立っている。
「お前らマトリか!そんな格好してたらわかんねえわ!」
コツコツとアミの靴音が近づいてくる。おそらく春兎も銃を持っているだろう。
この街に自然に溶け込むための銀髪に、油断させるようなベビーフェイスと馬鹿っぽい夜職の女。
それをマトリと見抜けるわけないだろう。卓也はまだ現実が理解できなかった。
マトリは官僚だが銃の所持を許されていて侵入捜査が出来る機関で逮捕権もある。ここで争うには分が悪い。
ほかの場所で待機していた職員達が集まってくる。クルマに乗せられて連行されていく姿を、春兎は複雑な表情で見ていた。
あの日は結局意識を失うまでセックスしてふたりベッドで倒れていた。
卓也が眠っている横で、春兎が静かに目を開ける。
ベッドの横にあるサイドテーブルに、ビニール袋に入った乾燥大麻と、それを巻いた煙草が置かれていてゆっくり手を伸ばすと後ろから声がした。
「なにしてんだ」
「一本もらおうと思って…」
「いいけど体に悪いぞ」
卓也の言葉にくすくす笑ってしまった。人に強引に吸わせておいてよく言えたもんだ。
結局吸わずに裸の卓也に腕をまわして抱きついた。
「ドレッドって初めて見た」
大きな瞳を上目遣いに、細かく編まれた髪を春兎が興味深くそっと触る。
「もうやめる。頭洗えないんだぜ?痒くて我慢できねえ」
「そうなんだあ」
「お前のまわりには五厘刈りの野球選手みたいなのしかいなさそうだな」
あははと声を出して豪快に笑う卓也の肩に頭をよせた。すり寄る仕草が卓也の心をくすぐり自然と笑顔になってしまう。
そんなことを思い出しながら春兎は自分のマンションの窓からぼんやり外を眺めていた。
スマホが暗い部屋で光る。確認すると卓也からのLINEで『今夜会える?』とシンプルにひとこと書かれてあった。
少し考えて『会えるよ』と返信する。
朝からいろんな人から電話が鳴りっぱなしだった。誰とも話したくなくて無視していたが観念して折り返した。
「早かったな」
夜、待ち合わせの駅で卓也と合流する。
やめると言っていた髪型はまだそのままだった。黒革の大きなコートを着てジャラジャラとアクセサリーを身に着けた卓也はとても目立つ。
そんな男の隣に童顔で銀髪の青年が並ぶと余計人の興味を引いてしまう。人目を避けようとすると選択肢は治安の悪いあの辺り。
「おなかすいた」
「アミに連絡しといた。あそこのババ…、いやママは料理上手だから何か作ってもらえ」
強引に行く所を決められたが得に反論はしないで素直に着いていく。
「どうした?浮かない顔して」
無言でうつむきがちな春兎に気がついて心配そうに顔を覗き込んできた。
「ねえ卓也」
「ん?」
「僕のこと…」
気がつくと店の前まで来ていた。
「後で聞くわ。俺も腹減った」
ドアを開けるとカランと音がした。
「いらっしゃいま…、あら卓也…とこの前のお財布の方!」
赤い派手なスーツを着たアミがカウンター越しに笑顔でふたりを迎える。春兎は丸いシルエットの頭をぺこりと下げた。卓也はどかっと無作法に座る。
「さっきの電話。それでママがずーっと料理作ってるわけね。でもパートナーいるんだからもっといい店連れてってあげればいいのに」
カウンターに誘導しておしぼりを渡しながらアミが言う。
「ここだっていい店だろう。ママに失礼だろ」
ボトルを探しているアミの後ろ姿に卓也が文句をぶつけると、暖簾の向こうから料理を乗せた皿を持ってママが登場した。
ママといっても年はアミより少し上くらいで卓也のいう『ババア』ではない。
「いらっしゃいませ!また来てくれたの。うれしいわあ」
「ども…、こんばんは」
おずおずと頭を下げる春兎の横顔を、カウンターに肘をついて卓也が眺めている。淡いライトに浮かぶその顔とベッドの上で喘いでいた顔が重なる。
「やらしい顔してえ。氷溶けちゃうわよ」
アミの冷やかしを無視して、卓也は目の前にあるロックグラスに口をつけずに卓也はじっと春兎を見ていた。
「最近どうなの?卓也」
「ぼちぼちかな。そんな手広くやってないし、今はSNSの時代だから注文もDMで来るし楽だよ」
アミは卓也の正体を知っているようだった。
「今さらだけど、春兎って酒強いの?」
「まだ自分の限界がわかんないけど、強いほうかも」
「へえ。ホント人は見かけによらないな」
気がつくとカウンターからママとアミの姿が消えていた。ほかにお客もいないし、気を回してふたりきりにしてくれた。
「ありがたいこった」
「?」
ビールを飲みながら春兎は不思議そうな瞳を向けてきた。
「見ろよ。誰もいないぜ」
耳打ちされて春兎が真っ赤になる。卓也の手がふとももにのびてきてそっと置かれた。
「ここでする気なの?」
「さすがにしねーよ。裏にアミたちいるし聞かれるぞ。ま、そういうプレイが好きならやってもいいけどこの店出禁になるな」
「ふふ、それは僕も嫌」
そう言いながら春兎は瞳に強い光を宿して卓也を見る。
今夜は何か言いたそうな表情を何度もする。
照れてんのかなと思って卓也は軽く考えていたが、もっと気にしたほうがよかったかもしれない。
「ありがとうございました~」
2時間ほどお邪魔して店を出た。程よく酔って気分がよくなった卓也が『煙草』を取り出して火をつけた。
「今吸ったね」
となりに並ぶ春兎が聞いたことない低い声で言う。
「部屋にもたくさん大麻あったね。証拠写真は撮ったよ」
「何言ってんだお前」
春兎は何かの紙を提示して手錠を取り出した。
「厚生労働省麻薬取締官だ。あなたを大麻所持で逮捕する」
「はあ!?」
突然の展開に卓也の頭が状況を理解出来ない。言葉が出ないまま突っ立っていると腕を掴まれて手錠をはめられた。
さっきまで店にいたアミが背後から自分に銃を向けて立っている。
「お前らマトリか!そんな格好してたらわかんねえわ!」
コツコツとアミの靴音が近づいてくる。おそらく春兎も銃を持っているだろう。
この街に自然に溶け込むための銀髪に、油断させるようなベビーフェイスと馬鹿っぽい夜職の女。
それをマトリと見抜けるわけないだろう。卓也はまだ現実が理解できなかった。
マトリは官僚だが銃の所持を許されていて侵入捜査が出来る機関で逮捕権もある。ここで争うには分が悪い。
ほかの場所で待機していた職員達が集まってくる。クルマに乗せられて連行されていく姿を、春兎は複雑な表情で見ていた。
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