気がついたら呪われてました

希京

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天職

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水木刑事が口を開いたまま硬直していた。
「病院送りにしましたよ」
華が笑いながら足を組みかえる。
「ただ制御できないんです。フルパワー出すことしかできないのでうちで手加減の練習してます。毎回そんなことしてたら寿命が短くなりますからね、危険です」
ちく、と心臓に痛みが走る。

「すごいな…。この仕事天職じゃないか。今は何の仕事をしてるの?」
今まで空気でしかなかった青年に興味を示して水木刑事は食いついてきた。
「転職活動中です」
無職、それが後ろめたくて小さな声で答える。
「華さんの所で仕事したほうがいいんじゃないか?特別な力を持つ者としてそれがどこかの誰かを救うことになる」
真剣な目に貫かれてなんとなく後ろめたい気分になる。
「まだ修行中なんで…。もし力になる事ができればぜひ」
当たり障りのない返事をして悠人はうつむいた。

「それでこのサイトなんだけど」
いつの間にか近くのパソコンを勝手に操作して例の呪いグッズサイトを開いていた。
「闇サイトでもなく普通の物販サイトで、まあ面白がって買う人がいるんでしょう」
「女子中学生も藁人形持ってきたな。ここで買ったのか?」
「ええ。それでここなんですけどメールアドレスが書いてあるの」
指をさした所に小さくkenjiから始まるアドレスが表示されている。

なんともいえない顔で水木刑事がそれを見ていた。
「おもしろがって買う人が大半だと思うんだけど、中には本気で呪い殺そうとグッズを買う人間もいる。でもまあ素人がやっても効果がない。当然クレームが来る。それが狙い」
「呪い代行を請け負いますよってか。嫌な誘い水だな」
華が無言でうなずいて、水木刑事は腕を組んで大きく息を吐いた。

ふたりともこのkenjiという人物を知っている感じで話をすすめている。
なら事件解決は早いかもしれない。

「最近おとなしいと思ったらこんな商売始めてたのか」
「今回の女子中学生の件、おおやけにしないでもらえますか。逃げられる可能性がある」
「もちろん保護者と学校に連絡しただけで事件にはならないよ。女の子も本当に呪いが効果あったと思ってさすがに不安になって警察に来たんだろうな。もしそうでも未成年だから立件されないし相手の情報が欲しかったんだろう。最近の子は狡猾だ」

「いじめてた子を呪うって発想、どこから来たんだろう」

華の言葉に疑問が走る。

「殺された子が、いじめられてた子」
混乱している悠人に気がついて華が説明した。
「呪いかけたほうがいじめの主犯格。仲間で盛り上がって呪いかけてみようってノリになったらしい」
水木刑事が補足した。
「あの子、嘘ついてたんですか?」

自分がいじめの被害者と偽ってたわけか。
華が藁人形に優しく話しかけていた理由がようやくわかった。

「警察に駆け込んで、相手の死因とか聞き出したかったかったんだろう。まわりの大人は伏せるもんな。こちらが事情聴取をしているつもりが相手に情報盗まれたようなもんだ。頭いいな」

「ついでにかわいい転校生に近づく理由にもなる」
「…え?」
「あんなかわいい子なら普通いじめのターゲットにされそうなもんだけど、相手はメグ君だからね。被害者ぶって相談のふりして話しかけたらポロッと私達のこと言っちゃったんでしょ」
弱者のふりしてメグに近づいたなんて悠人の心の底にある何かがうずく。
『ひとりで行くの怖いから一緒に来て』くらいなことは言ったに違いない。

「途中からクラスに入ったから今までのいじめの事知らないでしょうしメグ君は愛されるからね。悠人さんも彼のことになると目の色変えるじゃない?あれも才能よね」

確かに明確な理由はないがメグのことは気になる。
水木刑事が立ち上がってカタカタとキーボードを操作し始めた。

左側にずらりと文面、右側に顔写真。
黒髪のオールバックに細い眼鏡。年齢は29とある。

名前は井上賢司。

kenjiはここからきているのか。

「とにかく問題はこいつだ」
デスクに手をついてPC画面を指さしながら水木刑事が言い、華も画面を横目で見る。
「神楽葉より強いからな」


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