落ち込み少女

淡女

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第6章「西山皐月」

第6章「西山皐月」その2

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ああ、暑い。

余裕ぶっこいて、沈着にこの場の状況を語っている僕だが、

体にまとったポリエステルとウールが素材の布たちを

今すぐにでも脱ぎ捨てて全裸になりたいくらいだ。

いや、冗談だ。

僕は変態になるわけにはいかない。

まぁ、ともかくジメジメしているのだ。

それにしても、この状況はふつうじゃない。

いや、僕が全裸になりたい事ではなく(二回目)、

生徒が授業中にペンではなく、下敷きを動かしていれば、

教師は不満顔で注意することが定番なのだが、

三十分あまりこの湿っている教室にいて、

数学を己の個展を開いた芸術家のように語る

関原先生もさすがに僕らに同情したんだろう。

なぜなら、職員室は半袖じゃ心もとないほど冷房が効いているからだ。

まったく人間とは、不条理なものだ。

こっちでは暑くて困っているのに同じ建物にあるはずの職員室は寒くて困っているのだから。

ヒトは大人に近づくほど均等に分けることにこだわらなくなるらしい。

ちなみに数学の先生は二人いて、数学Iが今僕らが受けている数学Aは

今まさに語っているこの関原先生の担当である。

僕がズボンの内側に入れていたカッターシャツを外に出した頃、

右隣の席の少女はいまだに長袖を着て、汗の一つもかいていないようだ。

ひじをつき、右手に顔をのせて、まるでこんな授業聞くまでないと言わんばかりの格好だ。

一体どんな体をしているんだ?(いやらしい意味ではない)

発汗作用がないのか、あるいは変温動物なのかもしれない。

気になったので何となく話しかけてみた。

「平木、そんな格好で暑くないのか?」

授業を聞いていた平木は、僕の声が届いたと同時に僕をゆっくりじーっと見ていた。

「…」

無視だ。

しかし声に気づいてあれだけ僕を注視していたのなら、

無視する意味なんてないだろうに。
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