落ち込み少女

淡女

文字の大きさ
97 / 172
第7章「移りゆく時期」

第7章「移りゆく時期」その3

しおりを挟む




しかし山寺は本当に子どもが好きなのかどうかわからなくなる。


今まで学校を通して教師を見てきたわけだが生徒を怒るたびにみな疲れた顔をしていた。

僕はならなぜ教師になったのか、と問いただしたくなる。

そんなに辛いなら辞めたらいいのに、そう言いたくなる。

食いつないでいくためにやる職業でもないだろうし。


「おい、羽塚。お前、書き写したのか」


枯れはてた声が僕の名字の音をあてはめた。

緊張の糸がこれ以上張れないんじゃないかと思うほど教室の空気がこわばっていた。

最後列の窓際だったので、クラスメイトの視線が僕に集まっているのが目でわかる。

まるでさらし者を見るかのような心配と悪意が混じった不気味な視線だった。

時間が経つにつれ、背中に嫌な汗を感じた。

山寺に名指しで呼ばれ、この状況を理解するのに

教室の壁につるしている時計の長針が半周するまで時間がかかった。

そして僕は気づいた。右手にペンを持っていないことに。

ハッとなり急いでペンを探したが、机には白紙のノートと筆箱があるだけだった。

筆箱の中もまさぐるように探したが、

あるのは角が削れた消しゴムと赤ペンのみだ。

自分の筆箱の寂しさに愕然(がくぜん)とした。

いや、持ってきていないはずはないんだ。

現に僕は一限の生物はシャーペンで文字を書いていた。

落としたのか、床を見たがホコリとお菓子の紙切れがあるだけだ。


山寺は教卓あたりから僕の状況を理解したのか、

「ペンくらい持ってこい。とりあえず、今日は隣の平木に貸してもらえ」

呆れたように言って、黒板に示した文章の解説を始めた。

その声を聞いて、みんなが僕への視線を解いたのがわかった。

緊張がほぐれたのか深いため息をついてしまった。

しかしまだ嫌な汗を感じているのもわかった。


ふとド真ん中の席にいる西山の方を見ると、

心配そうな顔をして前を向きなおしたを確認できた。

人の優しさがまるで吸水紙をゆっくり水槽につけるように

足から頭の隅々まで全身にしみる感覚におちいった。

その時、右肩を軽く叩かれた。

右方を見ると、してやったりと楽しそうな顔をしていた少女がいた。

平木は左手でシャーペンを持って、ペン回しをしていた。

まるでバレエダンサーのピルエットのような優雅さを感じるペン回しだった。

しかし何が言いたいのか時計の長針が一周しようと理解できなかった。


そして直後に気づいた。

その回っているシャーペンは僕が探していた僕のシャーペンであることに。

「ひどすぎるだろ」

「ぼーっとしていた羽塚くんが悪いんじゃない」

さっきまで優しさに包まれていたはずが、いまや恐怖に変わっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...