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前編
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しおりを挟む「オスのサビが兄猫でいさおです。メスの白猫が妹猫でサユキといいます」
「そうですか」
石動氏のアトリエ……というか独居の長屋はせまく猫が2匹いた。
珍しいサビ猫のオスがいて、でかくて目つきが悪い。ほそくてかわいい白色とは本当の兄妹らしいがオスのサビに生殖能力はないので二匹一緒に飼ってるらしい。
「絵といっても商品以外はスケッチしかありません。ただのスケッチブックですがこういうのでも?」
「かまいません!わざわざご準備いただいてすみません」
石動氏は数冊の画帖を出してくれた。
やはり絵はうまい。先生の絵の女はきれいだ。
僕はてきとうに頁をめくりながら期をうかがった。
先生、美人画がお得意なんですねと。
石動先生は聞いているのかいないのか菓子折りをひらきながらそうですかねと返事した。
「このとなりは安い女郎屋でしょう?見えるんだよ夜ごと。だからモデルにしてる」
石動先生は唐突にそういった。
言葉のとおりとなりはまだ提灯をたたんでいるけど女郎屋で、かべは漆喰でひどくうすいようだった。
「見てごらんそこ」
「え……?」
指さされたところをみるとまるく黒い穴がある。
僕は画帖を置き、息を呑んでそこをのぞきこんだ。
穴のむこうはがらんとした小部屋だった。
そこに稚児らしき女の子がいて、開いた障子のむこうにもっとおとなの女の脚がみえる。
着物のすそがひらいてて生肌がよくみえる。
「さくラよ、かたづけさして悪いね。なかなか旦那さまがかえらないから。八つ時にはおきてくるからごほうびあげるからね」
「なんでもないです!ヒラギねえさんっ」
さくラとよばれた可愛い稚児の子はわらって"ヒラギねえさん"をふりかえった。
乱視の僕に女郎の顔はよくみえない。しかしその肉体はやわらかげで白くて、石動先生の絵そのもので………………。
「よく見えるろ?」
「まさしく」
石動画伯はいい家を借りてる。
振り返るとだいふくをほおばりながら、さっそく絵筆をとっていた。
お客の僕にはお茶も菓子もないらしい。
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