封魄画帖

ちゃあき

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後編

7

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下駄屋の主人はその晩、傘をさして逢瀬の場所へたっていた。

40年間毎週日曜ここへ通うのをかかさなかった。

当然芙美はこない。40年間それはかわることはなかった。
かわったことといえば、今日の昼間はおかしな若者たちと会ったことだ。

(芙美を絵に描きたいか……)

芙美はとびぬけた美人ではない。
しかし下駄屋の主人にとって今生で一番愛しい人だった。

自分を恨んで死んだ醜いすがたではなく、普段の芙美の心優しいところや可愛いところを描いてくればよいのにと主人は思った。

芙美の霊は片方だけの下駄をはき、びしょ濡れで泣いているのだときく。

「しかし、わたしがそんな姿にしたのだ……」

清松せいしょうさん」

雨音にまぎれ主人は名前を呼ばれた。

ふりかえるとそこには懐かしいすがたがある。
芙美だ。雨だれのむこうにあの頃のままのきれいな芙美がいる。

いそいで手を引っ張り自分の傘にいれた。

その手はつめたい。しかし間違いなくよく知った芙美の柔らかい手だ。

「芙美?どうして?」
「清松さん聞いてください。わたしあの夜まちがえて橋から落ちちゃったんです」

だからあなたを恨んでないのよと芙美はいった。

「あれから40年間、清松さんが川辺で悲しそうにしてるのを見てました。わたしはそれが悲しかったの。だから時々橋で泣いていました。あの夜最後に言いたかったことはあなたへのうらみごとじゃなかったから」

芙美はいう。
あの晩、最後の別れに伝えたかったことは、わたしたちに今生の縁はなかったけれど、あなたはほかの人を愛し幸せになってほしい。
わたしも自分のしあわせをさがすからと。 

その言葉に下駄屋はいまからでも自分の人生を生きると約束した。

芙美はうなずき、また雨だれにまぎれていった。

40年越しの日曜の雨の宵、二人はようやく和解した。


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