n.(R18・完結)

ちゃあき

文字の大きさ
1 / 33
1

1

しおりを挟む




「ナナ、あのね。私結婚したの」

 私の親友、伯爵令嬢のカーリンは青い瞳を細めてそういった。


 私も彼女におめでとうと伝えた。

 カーリンが16歳で結婚することは、彼女の家に代々伝わるしきたりだと以前きいた。

 とはいえカーリンもまだ私と同じ学生だ。
 卒業までは形だけの夫婦として今まで通りの暮らしを続けるらしい。

「今日は夫のノアが屋敷をたずねてくるから、あなたにも紹介させてね」
「分かったわ。どんな人か楽しみ」

 素敵な人なのとカーリンは愛らしい顔で笑う。
 
 ゆたかな金髪にぱっちりした大きな碧眼、白くて細い身体、ピンク色の唇……富豪の伯爵家の一人娘カーリンは絵にかいたようなお姫さまだ。

 一方の私には、半分は平民の母親の血が流れている。

 黒い髪に黒い瞳、身体も痩せて肌も白いというより青白くて何だかみすぼらしい。

 私の母は何も悪くない。でもその血の濃さを呪いたいときがある。

 こんな私とも親しくしてくれるカーリンはまさに天使だと思う。幸せそうな彼女を見ていると、私も何だかうれしいのだ。




「カーリンお嬢さま、ノアさまがお見えになりました」
「こちらへお通しして」

 姿をあらわしたのは想像とは違う人だった。
 ノア・フェルド氏は由緒正しい子爵家の次男で、24歳の文官だそうだ。

 私は堅物カタブツそうな人を想像していた。ここにはいないが、例えば私の兄のような。

「カーリンお嬢さま、ご機嫌うるわしゅう」
「お嬢さまはやめて! ノア」

 カーリンはノアの姿を見つけると、ぱっと明るい顔になった。彼もカーリンに微笑みかける。

 ノア・フェルドは思ったより表情が柔らかい人だ。そしてカーリンと同じ金髪に青い瞳で、想像よりずっと洗練された端正な顔をした人だった。

「紹介するわ、彼がノアよ。私の夫になった人……ノア、彼女が話してたナナよ。私の一番大切な親友」

 『一番大切な親友』という言葉が素直にうれしい。

 ただカーリンの親友の座にいるのが私のような女だったことに、ノア氏が失望しないか心配だった。

「はじめまして、ナナ・ハレノです。」
「ノアです、よろしく。カーリンはいつもあなたの話ばかりしてますよ。ところでハレノって、エミル・ハレノ伯爵の……お嬢さん?」
「妹です」

 これは失礼しましたとノア氏は謝った。兄のエミルとは夜会などで顔見知り程度の知り合いらしい。

「伯爵も人が悪いよ。こんなに美しい妹君を隠してるんだから」
「ふふ、私はまだ世間のことにうといですから」

 兄だってこんなみすぼらしい義妹の存在を世間に知られたくないのだ。だから16歳にもなっておおやけの場へ出ることも許されない。

「ナナさんもいずれどこかへ嫁がれるでしょうけど、カーリンとは末長く友達でいてあげてくださいね」

 ノア氏は優しい人だ。こんな私にも温かい言葉をかけてくれる。彼に肩を抱かれたカーリンも幸せそうだ。

 ノア氏はカーリンの夫に相応しい素敵な人だと思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...