豆柴彼女。

ちゃあき

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1話 豆柴の恩返し

1.落ちてた

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 寒い小雨の深夜だった。 

 僕は駅からの短い帰路を急いでた。宅飲みしてた大学の友人の部屋から、隙を見て抜け出してきたのだ。

 そのまま泊めてもらえばよかったけど、一人暮らしの家にインコを飼ってる。餌と水が心配だからそっとフェードアウトしてきてしまった。

 ペットに本気過ぎるとよく言われる。でもここで本気を出さずして、どこへ心血を注ぐべきか僕には分からない。

「……あれっ」

 ふと見ると、電信柱の影に赤茶色の小さなぬいぐるみが落ちてた。

 ゴミ捨て場は一つ向こうの電柱だ。落とし物かそそっかしい近隣住民の仕業だろうか。

 雨にぐっしょり濡れて、うつぶせになってるぬいぐるみは何だかさみしげで可哀そうだ。酔いもあり、しゃがみ込んで背中をつまむと思ったより柔らかくてむにゅりと伸びた。

 ……——かすかに温かい。よく見ると腹がすこしだけ膨らんだり萎んだりする。

 僕はそのかたまりを腕に抱えると、自宅へ向かう足を一層早めた。 


□□□


 クッションの上にバスタオルを敷き、赤茶色の塊を寝かせ電気ストーブを引き寄せた。

 濡れた毛をふいて、なでてみたけど目を開けない。口元に手で水を持っていってやったら少し飲んだ。まだ生きる気力は残ってるようだ……とても小さいけど、確かにそれは生き物だった。

 遠赤外線に照らされてるのは、赤茶色をした柴の子犬だ。

 なんとか息をしてるけど、今にも止まってしまいそうなほどか細くて弱い。拾った時より呼吸が深くなった気がする。それがいいのか悪いのか今は分からない。

 目を覚ました緑色のインコがカゴの中から興味深そうにこちらを伺ってる。動物の言葉が分かるなら、どうすればいいか彼に相談してみたい。

 もしも話ができるなら、なぜあんな所に一匹で行き倒れてたのか、そして今何を望んでるのか聞いてみたい……。

 もしも彼らと人間みたいに話ができたなら、







「……あのっ」
「ん?」
「あのっ、すみませんっ」

 重たいのですが……と掌の下から声が聞こえる。

 寝ぼけながらもごめんねと言って手をどける。すると、ありがとうございますと律儀にお礼を言われた。

 昨日はいつの間にかソファを背もたれに寝てしまった。酔ってたし疲れてもいた。それに確か昨日は……——犬!

 はっとして飛び起きた。そうだ、昨日は雨の中で行き倒れの子犬を拾ったんだ。今にも生き絶えそうなほど弱った子犬だった。

 あの犬をなでながら、いつの間にか眠ってしまったようだ。

 しかし話ができるようになったという事は昨日より回復したんだろう。寝ぼけた頭にそんな明後日なことを考えながら、クッションの上に視線を移した。

「お、おはようございますっ」

 そこにはふわふわした赤茶色の髪に黒目がちな瞳をした女の子がいた。

 垂れた短い眉毛が困ったようにひそめられてる。でも元気よく挨拶してくれたし機嫌が悪いわけではなさそうだ。

 だんだん酔いや眠気が醒めてきた……同時に背筋も寒くなってきた。確かに昨日は酔っ払ってた。だからってこんな間違いを犯すとは愚かにもほどがある。

 子犬と女の子を間違えるなんて、いくらなんでもモウロクし過ぎだ。

 いっそ死んだ方がいい。ここからの流れによっては社会的に死ぬ。緑のインコが冷めた目でこっちを見てる。
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