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3話 服を買いに行く
6. 帰りの電車で
しおりを挟む「眠いんじゃん?フラフラしてる」
「あずき、そこ座って」
「……ヒャン」
犬みてーな声とあつしが笑う。
ウトウトしはじめたあずきを電車の空いた座席に座らせて、僕たちはその前の吊り革とポールに掴まった。
恵奈さんの店を出た後もあちこちうろうろしているうちすっかり遅くなってしまった。流れていく窓の外の景色にはもうパラパラとネオンが灯ってる。
すっかり疲れた様子のあずきは座席に座った途端瞼が閉じてしまった。
「悪いな、熱士」
「何だよ」
「靴が一番高かっただろ」
「似合ってたからいいだろ。あずきの靴だったんだよ、最初から」
なああずき? と聞こえないのが分かって熱士は言う。
いつも通りの無表情だけど、楽しげな顔だ。あつしは人間のあずきも気に入ったようだ。
「お前の妹の友達だっつうからただの芋だと思ってたけど……まぁ、芋は芋だけど見どころあるよなこの子」
「……確かに」
適当な通販やホムセンで彼女の身の回りをすませようとしていた自分を軽く殴りたかった。
店から着て来たピンクのトップスと黒いスカートははじめからあずきのものだったみたいによく似合ってる。
白いリボンの靴下と赤い靴は可愛くていっそ憎らしいくらいだ。熱士がいなければこれはなかった。
「なぁ、こいつってお前のなんなの?」
「……え?」
「普通、妹が来れないのに友達だけ連れて歩くか? それにこの子滅茶苦茶お前に懐いてんじゃん」
まさかあずきとの仲を疑われてるのか。
彼女との間に犬と飼い主以上のものは何もない。だから、確かに気が合う子だけど妹の友達の一人にすぎないとそういう関係は明確に否定した。
熱士はふぅんと唸って掴まった吊革をプラプラ揺らす。
「京の妹って高二だっけ?」
「ん? 高二と中二と……」
「ああ、お前兄弟多いんだよな」
そうじゃなくてあずきの友達のと言われたので、高二と答えた。
あずきの外見年齢は微妙なところで、あつしには多分それくらいに見えたのだろう。だからそういう事にしておいた。
しかしなぜあつしはそんな事を気にし出したのだろう。
「いいよなこの子。ひらべったいし、明るいし全然怖くないわ」
「は?」
「ちょっと好きかも知れん」
「は!?」
「いや、まぁ冗談だけど」
「おいおいおいおい」
肩をグーで殴るとあつしはおもしろ、と言って他人事のような顔で笑った。
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