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正義
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門を抜けその地へ足を踏み入れるとそこは広場となっていた。あたりを見渡してみるがこれといって目を引くようなものはない。よくあるように人がいて建物がある、そんなただ広いだけの場所だ。しいて目立つものを挙げるとすればこの門の近くにある剣と天秤を持った女性の銅像だろうか。しかし、それも興味を引くほどのものではない。姿形は違えど銅像なんてものは色々な場所にあるものだ。
ひとまず体を休めることが出来る宿を見つけるとしよう。長く滞在する理由は見つからなさそうだけど、次の目的地を決めるまでの間はここのお世話にならなくちゃいけないし。案内所を見つけるのも面倒だし、とりあえず端の方にあるベンチ座ってるおじいさんにでも訪ねてみるか。
「あの、すみません、少しお伺いしてもいいですか」
おじいさんはこちらに気づき顔を向けてくれた。
「いいですよ。どうかされましたか」
物腰の柔らかそうな人だ。
「僕は他の国から来たものなんですがこの国は今日が初めてよく知らなくて、それで宿屋を探しているんですけどどこにあるか教えてもらえますか」
「おお、旅人さんでしたか、それは遠路はるばるご苦労様です」
会釈をしておく。労われるのは嬉しいものだ。
「宿屋でしたか、何か希望されるものはありますか」
「といいますと」首をかしげ聞き返した。
「ここから近い方がいいとか、料理が出てくる方が良いとか何か旅人さんが求める条件のことです」
なるほど条件か。そんなことまで気にかけてくれるとは相当に親切なおじいさんだ。
「そうですね、ではあまりお金がかからないところを教えてもらえますか」
「それでしたら、ここを真っ直ぐ進んで左手側の曲がり角から三つ手前のところがありますよ」
おじいさんが指をさして教えてくれた方向を向き、場所を確認する。
「わかりますかな」
「はい、大丈夫です」
僕はおじいさんの方へ向き直り頭を下げた。
「丁寧にありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして」
おじいさんは最後まで嫌な顔を見せることなく対応してくれた。よほどな人格者のようだ。
「旅人さん、宿屋に行くということは明日もこの国にいるということかね」
宿屋の方に向けていた体を再度おじいさんの方へ向ける。もうやり取りは終わりだと思ったのに違ったらしい。
「はい、その予定です」
「そうですか、それなら良いものが見られるかもしれませんね」
良いものとはなんだろう。聞き返しても良かったが明日のお楽しみということにしておこう。
僕はもう一度頭を下げ、今度こそ宿屋の方へと向かっていった。
「いえいえ、どういたしまして」
おじいさんは最後まで嫌な顔を見せることなく対応してくれた。よほどな人格者のようだ。
「旅人さん、宿屋に行くということは明日もこの国にいるということかね」
宿屋の方を向いていた体をおじいさんの方へ向ける。もうやり取りは終わりだと思ったのに違ったらしい。
「はい、その予定です」
「そうですか、それなら良いものが見られるかもしれませんね」
良いものとはなんだろう。聞き返しても良かったが明日のお楽しみということにしておこう。
僕はもう一度頭を下げ、今度こそ宿屋の方へと向かっていった。
教えてもらった宿屋へはすぐに着いた。あれだけ親切だと分かりやすさや近さも考慮して選んでくれたのではないかと思ってしまう。
宿屋は三階建ての木造の建物で、古く傷んでいるところもあったがそれは嫌な感じを出さず、むしろそのものの味として感じ取ることができた。その雰囲気は中に入っても変わらず、一階は入って左側に机と三つの椅子、右側には客の対応をするであろう台があるという作りになっていた。
「すみません」と台の方へ声をかけると奥の方から「はーい」という女性の声が聞こえてきた。
ほどなくして声の主と思われる女性が姿を現した。
「お待たせしました」と言い女性は台を挟んで僕の前へ立った。
「宿泊を希望されますか」
「はい」
「では宿帳への記入をお願いします」
そう言うと女性はこちらへ宿帳とペンを渡してきた。
名前を書き、ペンと宿帳を女性へと返却する。
「何日ほど止まられる予定ですか」
「二泊です」
女性は宿帳へ何かを書き足しながら「分かりました」と言った。
ペンが離れる速さをみるに書き足したのは一、二文字程度だろう。
その後、僕は言われたほどのお金を女性に渡した。かなりお安かったのでおじいさんには再度感謝である。
「ではお部屋へ案内いたします、お荷物をこちらへ」
「いえ、少量なので自分で」
「かしこまりました。ではこちらへ」
女性の後に続き階段を上がった。案内されたのは二階の最も奥にある部屋だった。
「こちらがお部屋の鍵になります」
『205』と書かれた鍵を手渡される。
「ありがとうございます」
「それからお客さん朝食としてパンとスープをよければご用意いたしますがどうなさいますか」
あの安さでそんなサービスまであるのか。
「じゃあお願いします」
「かしこまりました、何時頃お届けすればよろしいでしょうか」
少し考える。
「起きるのがいつになるかわからないんで僕が取りに行くってのはできますか」
「大丈夫ですが、その場合温めるのにお時間をいただきますがよろしいですか」
「大丈夫です」
「わかりました、ではそのように」
「ありがとうございます」
女性は「ではごゆっくりどうぞ」と頭を下げるときた道を戻っていった。それを見てからドアを開け部屋へと入った。
その日はそれから外へ出ることはしなかった。夜の食事も前に訪れた場所で買った魚の缶詰で済ませられたし、部屋にシャワーも付いていたので出る理由もない。
翌朝、僕を現実に引き戻したのは甲高い悲鳴のような声だった。頭がぼぉっとしており夢の出来事だったのか本当の悲鳴だったのかよくわからない。
カーテンを開け光を全身に浴びて体を起こす。服を着替え朝食をもらいに一階へ降りるとちょうど昨日案内をしてくれた女性が建物の入り口のあたりに立っていた。
「おはようございます、すみませんが、朝食を用意してもらえますか」
そう声をかけると焦った様子で女性はこちらに振り返った。
「おはようございます」
焦りというより、急いでいるのかもしれない。声をかけるタイミングが悪かったようだ。
「なにか用があるのでしたらそちらが済んでからでも構いませんが」
「本当ですか」
女性は顔を輝かせ、声を大にしてそう返してきた。よほどのことのようだ。そしてそのような反応をされてはなにがあるのか気になってしまう。失礼かもしれないが尋ねてみるか。
「何か大事なようですか」
「はい、正義が執り行われるんです」
女性は足早に外へと飛び出していった。ヒーローショーでもあるのだろうか。何にせよおもしろそうだ。僕もその正義とやらを見にいってみよう。
外へ出てみると昨日おじいさんから道を聞いたあたりに人溜まりができていた。女性は走っていったがはたしてあの集団の前の方にあるのだろうか。
僕はたいして正義に執着もないし歩いて行くとするか。
こうして歩いている間にも僕の横を何人もの人が走って過ぎ去って行く。これは大層なものが観れるかもしれないと胸を膨らませる。
その直後だった。
「ぅあああああああ」という叫び声が聞こえたかと思うと集まっていた人々が一斉に歓声を上げ始めた。多種多様な声色ではあるがその全てが喜びを含んでいる。
脳裏に朝聞いた悲鳴のようなものがよぎる。あれは現実の音だったのか、しかし今回の叫びは男のものだ。
分からない、いって確かめるしかない。急ぎ足で歓声のなる方へと向かう。
辿り着いたはいいが、人が多すぎて後ろからではなにがあったのか見ることができない。人の間を潜りながら前へ前へと進んでいくと、とろみのある黒い赤みかかった液体が流れているのが見えた。
「血か……」
それが流れ出る先にいたのは一人の男だった。膝をつきそのまま前へ倒れたようだ。右のふくらはぎの裏には矢が刺さっており、左胸には刺し傷がある。この血の量をみるにもう息はしていないだろう。
何度か死体は見てきたが、やはり何度見てもいい気持ちはしないもんだ。なによりこの光景に歓喜しているこの集団が気味が悪い。この死んでいる男が殺人鬼だったとでもいうのだろうか。
依然として歓声は鳴り続ける。そんな中一人の男が死んでいる男の側へ近寄って行くのが見えた。年を取っているそれこそ昨日のおじいさんと近いように思える。その老人が男へ近づくごとに歓声は小さくなっていく。
老人が人集りの真ん中に経つ頃には歓声はなくなっていた。
「また一つここに新たな正義が生まれた」
老人は堂々とそう宣言した。
「今回正義を執り行ったのはそこにいる勇敢な少女である」
老人の伸ばした手の先にその少女がいるようだが、人が多くここからではみることができない。
「こちらへおいで」と老人が手招きすると見えなかった少女の姿が見えてきた。
ピンク色のワンピース、肩のあたりまで伸びた髪、可愛らしい顔立ち。
その姿は右手に握られた血の付いた刃物を除けばなんら特筆することはない少女であった。
少女が老人の横に立つと民衆は拍手を始めた。称えているのだろうか。
「皆もこの少女のように正義をしっかり心に抱き、正義に恥ぬよう行動するように」
それが締めの言葉となったようで拍手は次第になくなっていき、人々も散り散りに離れていった。しばらくして少女も両親と思われる大人たちの元へ近寄り、この場から遠のいていった。
僕も戻るか。
宿屋へ戻ると女性がパンとスープを乗せたトレイを持って階段を登ろうとしていた。
ドアが開く音に気づいたのか女性はこちらに振り向いた。
「今朝はすみませんでしたお客さん」
いいえ、という気持ちを込め手を振る。
「今パンとスープをお持ちしようと思ってたところなんですが、外に出てらしたんですね」
女性はこちらへ近づいてきて「このままお持ちしますのでどうぞ」と道を譲ってくれた。
「ここで食べてもいいですか」そう言って脇の方にある机の方を指差した。
「構わないですけど、人が出入りすることがあるので落ち着かないかもしれませんよ」
「それは大丈夫です、それからよければなんですけど少しお話を聞かせてもらってもいいですか」
「分かりました」
そう言うと女性は机へトレイを持って行きそれを机の上へ置いた。そして椅子に座ることなく横に立ちつくした。客より先には座らないというのを実行しているのだろう。
足早に椅子へと向かい腰をおろし「どうぞ」と声をかけた。
「失礼します」と会釈をしてから女性も対面の椅子へと腰かけた。
僕はスープを一口すすり話を切り出した。
「先ほど外で行われていたあれについて教えてもらえますか」
「あれといいますとなんですか」
「人が集まっていたじゃないですか」
「ああ、あれですね、あれは素晴らしい正義の執行ですよ」
正義の執行......
「その正義の執行というのは殺人のことでいいんですか」
女性の顔が険しくなる。
「それは違います、あれは悪を裁いたんです」
「......」
女性の顔の険しさがなくなっていく。
「正義に基づいた行動ですよ、悪事を働いたものがいたから粛清した、それだけのことです」
「ちなみにあの男は何をしでかしたんですか」
「朝、悲鳴聞こえませんでした?近くの女性が果物を売っているお店を襲ったんです」
「強盗ですか」
「いいえ、万引きです」
「万引きで殺されたんですか」
「はい、小さな悪でも大きな悪でも悪は悪ですから」
それにしても限度がある、なんて言ったところで聞き入れてはくれなさそうだ。
「そしてそれを裁いたのがあの少女なんですね」
「そう、素晴らしい子よ本当に、あの幼さで正義がどうあるべきかわかっているんだもの」
「......わかりました。お話を聞かせてくださりありがとうございます」
「いえいえごゆっくり」
女性は立ち上がり姿を消した。
その後パンとスープをいただいたがおいしい食事とは思えなかった。
昼食をとることはしなかった。食欲がないわけではないが進んで口に入れたいとも思わず食べなかった。
午後は街をぶらぶらして過ごした。土産屋に入ってみたり、今後必要になるかもしれない食べ物とナイフを買ったりして時間を潰す。こうしていると穏やかで平和なところなのだが、あの異様な光景を見たあとだとどうもいい場所であるとは思えなかった。
夜も更け、街は街灯がなければ存在を保てないほどに暗くなっていた。昼食は食べなかったからせめて夕食は、と思い人気のなさそうな時間を狙って飲食店へ足を踏み入れた。
「悪いな、今日はもう店じまいだ」
中にいたがたいのいいおじさんにそう断られた。時間も時間だし仕方がない。
「そうでしたか、失礼しました」
「ちょいまちな、あんたよそから来た人か」
店を出ようとしたところを引き止められる。
「はい、ここの出身じゃあありません」
おじさんは顎に手を当てている。何か考えているようだ。
「これも何かの縁かもしれねえ、特別にもてなしてやる、入ってこい」
「いいんですか」
「いいっつってんだろ、入ってこい」
案内され、店のカウンター席に座る。
「お前さん、酒はいけるか」
「飲めます」今は飲みたいとは思わない。
「そうか、少し待ってろ用意してやる」
まあ、いいか。
「八年くらい寝かしといたやつだ、ほんとはもう少し置いときたかったが飲む機会がねえからな」
出てきたのは紫色のお酒。
「きっとうまいぞ」
「ありがとうございます、これはぶどう酒ですか」
「ワインだ、前にこの国から出た時に買った」
そういえばそんな呼び名もあったな。
「まあ、やってくれ」
催促されたので飲んでみる。
「おいしいですね」
素直な感想だった。お酒を嗜むことはしないから味の違いはわからないが、飲みやすく優しい味をしている。
「そうか、それは良かった」
おじさんがやさしく笑いかけてくれた。
「それじゃあ俺もいただくとするかな」
おじさんは新しいグラスを出しワインを注ぎグイッと一気に飲み干した。
「かっー、こりゃうめえ」
おじさんも満足したようだ。
「なあ、あんたはどうしてこの国に来たんだ」
おじさんはカウンターを挟んで奥側に座り込んでいた。どうやら話し込む気があるらしい。
「深い意味はないです、前に訪れていた国から程よい距離にここがあったから来たそれだけです」
おじさんは自分のグラスにワインを注ぐ。
「旅をしてるんだな」
「はい」
「良かったら道中であった話をいくつか聞かせてくれないか」
「わかりました」
僕はそれから以前訪れた二つの国について話をした。いずれもおじさんからしてみたら面白かったらしく。大いに喜んでくれた。
「これからも旅は続けるのか」
4杯目のワインをおじさんは飲みほした。
「はい、明日にもこの国を出ようと思っています」
「そうか」
そういった彼の言葉はどこか哀愁を帯びていた。
「お前さんはこの国に来てあれを見たことがあるか」
あれが何を指すのかはあらかた想像がつく。
「正義ですか」
「そうそれだ、あれを見てどう思った」
これは率直な感想をいってもいいのだろうか。
「忖度はいらねえ、素直に何を思ったか教えてくれ」
そう言うのであれば遠慮なしに言わせてもらおう。
「一言で言えば異常ですね、過去に訪れた場所に大量に人殺す国もありましたし、殺しをよしとする国もありましたが皆で喜ぶというのはそうはなかったです」
「異常か、そうだよな、俺もそう思うよ」
この国にもあれをおかしいと思う人がいたのか。
「まあ、それもこれも外の世界を知っているからなんだろうな」
おじさんは5杯目のワインを注ぎ入れ、僕のグラスにもワインを注ぎ足した。
「以前旅に出たことがあってよ、たまたま訪れた場所で殺人があったんだ、その犯人はすぐに捕まって死刑になった、しかしそれを止めるものこそいなかったが喜ぶやつもいなかったんだよ」
少しワインを飲む。
「それを見てなんでこいつらは喜ばないんだと不思議に思った、この国じゃ俺が子供の頃から悪を裁いたら正義を執行したら皆で喜んでたからな、異常に思えたんだその光景が、でも異常なのはこの国の方だったんだよな」
おじさんはワインを少し飲み、話を続けた。
「それを確信したのはうちに一人の爺さんが来たときだ、その爺さんは『君には正義のために悪になってもらう』と言ってきやがった、もちろん意味がわからなかったから反対したさ、それでも最後には承諾した」
「どうしてですか」
「この国のためさ。この国の人間はいいやつらだろ、みんな人に親切だし、困っているやつがいれば放っては置かない、そんないいやつばっかの国だ」
「それはそう思います」
「みんな正義を持って生きてんだよ、ただそれに気づいていないんだ、小さな正義に気づかないんだみんな」
「......」
「だからわかりやすい正義が必要なんだよ、みんなが自分は正義を持っているんだという自信を持つためのわかりやすい正義が」
「それが悪を裁くということなんですね」
「そういうことだ、だからみんなの正義を守るため誰かが悪のふりをしなくちゃならねえ」
「でもそれをすると死んでしまうんですよ」
「わかってる」
「それでもやるんですね」
「ああ、結局俺もこの国の住人だからな、正義には逆らえない」
「......」
「いくら異常とはいえこの国には必要なものだからな、それにみんなの正義のために命を落とせるだなんて最高にかっこいいじゃないか」
そういう考え方もあるいは正しいのかもしれないと思えてきた。
「貴方はいつ悪事を働くんですか」
「明日さ、だから最後にお前さんの話が聞けて嬉しかったし、お前さんに話が出来てよかったよ、こんな話国のやつにはできねえからな」
僕はかける言葉も見つからず、早急に支払いを済ませて立ち去ろうとした。
「金はいらねえ、奢りだ」
目が合わせられない。
「ありがとうございます」
「旅、気をつけてな」
入口の前で会釈をし、宿屋へ戻った。
翌朝、パンとスープを食べたのち鍵を女性へ返して宿屋を後にした。
次の目的地はもう決めてある。
門へ差しかかろうという時に二日前道を教えてくれたおじいさんと出会った。
「旅人さん出発なされるのですか」
「はい」
「そうですか、この国はどうでした」
「みなさん、優しい心をお持ちで過ごしやすかったです」
「それは良かったです、では道中お気をつけて」
コクリと頷き、再び歩き出す。
門を出て少ししたところで後ろの方から歓声が聞こえてきたが、僕が後ろを振り返ることはなかった。
ひとまず体を休めることが出来る宿を見つけるとしよう。長く滞在する理由は見つからなさそうだけど、次の目的地を決めるまでの間はここのお世話にならなくちゃいけないし。案内所を見つけるのも面倒だし、とりあえず端の方にあるベンチ座ってるおじいさんにでも訪ねてみるか。
「あの、すみません、少しお伺いしてもいいですか」
おじいさんはこちらに気づき顔を向けてくれた。
「いいですよ。どうかされましたか」
物腰の柔らかそうな人だ。
「僕は他の国から来たものなんですがこの国は今日が初めてよく知らなくて、それで宿屋を探しているんですけどどこにあるか教えてもらえますか」
「おお、旅人さんでしたか、それは遠路はるばるご苦労様です」
会釈をしておく。労われるのは嬉しいものだ。
「宿屋でしたか、何か希望されるものはありますか」
「といいますと」首をかしげ聞き返した。
「ここから近い方がいいとか、料理が出てくる方が良いとか何か旅人さんが求める条件のことです」
なるほど条件か。そんなことまで気にかけてくれるとは相当に親切なおじいさんだ。
「そうですね、ではあまりお金がかからないところを教えてもらえますか」
「それでしたら、ここを真っ直ぐ進んで左手側の曲がり角から三つ手前のところがありますよ」
おじいさんが指をさして教えてくれた方向を向き、場所を確認する。
「わかりますかな」
「はい、大丈夫です」
僕はおじいさんの方へ向き直り頭を下げた。
「丁寧にありがとうございました」
「いえいえ、どういたしまして」
おじいさんは最後まで嫌な顔を見せることなく対応してくれた。よほどな人格者のようだ。
「旅人さん、宿屋に行くということは明日もこの国にいるということかね」
宿屋の方に向けていた体を再度おじいさんの方へ向ける。もうやり取りは終わりだと思ったのに違ったらしい。
「はい、その予定です」
「そうですか、それなら良いものが見られるかもしれませんね」
良いものとはなんだろう。聞き返しても良かったが明日のお楽しみということにしておこう。
僕はもう一度頭を下げ、今度こそ宿屋の方へと向かっていった。
「いえいえ、どういたしまして」
おじいさんは最後まで嫌な顔を見せることなく対応してくれた。よほどな人格者のようだ。
「旅人さん、宿屋に行くということは明日もこの国にいるということかね」
宿屋の方を向いていた体をおじいさんの方へ向ける。もうやり取りは終わりだと思ったのに違ったらしい。
「はい、その予定です」
「そうですか、それなら良いものが見られるかもしれませんね」
良いものとはなんだろう。聞き返しても良かったが明日のお楽しみということにしておこう。
僕はもう一度頭を下げ、今度こそ宿屋の方へと向かっていった。
教えてもらった宿屋へはすぐに着いた。あれだけ親切だと分かりやすさや近さも考慮して選んでくれたのではないかと思ってしまう。
宿屋は三階建ての木造の建物で、古く傷んでいるところもあったがそれは嫌な感じを出さず、むしろそのものの味として感じ取ることができた。その雰囲気は中に入っても変わらず、一階は入って左側に机と三つの椅子、右側には客の対応をするであろう台があるという作りになっていた。
「すみません」と台の方へ声をかけると奥の方から「はーい」という女性の声が聞こえてきた。
ほどなくして声の主と思われる女性が姿を現した。
「お待たせしました」と言い女性は台を挟んで僕の前へ立った。
「宿泊を希望されますか」
「はい」
「では宿帳への記入をお願いします」
そう言うと女性はこちらへ宿帳とペンを渡してきた。
名前を書き、ペンと宿帳を女性へと返却する。
「何日ほど止まられる予定ですか」
「二泊です」
女性は宿帳へ何かを書き足しながら「分かりました」と言った。
ペンが離れる速さをみるに書き足したのは一、二文字程度だろう。
その後、僕は言われたほどのお金を女性に渡した。かなりお安かったのでおじいさんには再度感謝である。
「ではお部屋へ案内いたします、お荷物をこちらへ」
「いえ、少量なので自分で」
「かしこまりました。ではこちらへ」
女性の後に続き階段を上がった。案内されたのは二階の最も奥にある部屋だった。
「こちらがお部屋の鍵になります」
『205』と書かれた鍵を手渡される。
「ありがとうございます」
「それからお客さん朝食としてパンとスープをよければご用意いたしますがどうなさいますか」
あの安さでそんなサービスまであるのか。
「じゃあお願いします」
「かしこまりました、何時頃お届けすればよろしいでしょうか」
少し考える。
「起きるのがいつになるかわからないんで僕が取りに行くってのはできますか」
「大丈夫ですが、その場合温めるのにお時間をいただきますがよろしいですか」
「大丈夫です」
「わかりました、ではそのように」
「ありがとうございます」
女性は「ではごゆっくりどうぞ」と頭を下げるときた道を戻っていった。それを見てからドアを開け部屋へと入った。
その日はそれから外へ出ることはしなかった。夜の食事も前に訪れた場所で買った魚の缶詰で済ませられたし、部屋にシャワーも付いていたので出る理由もない。
翌朝、僕を現実に引き戻したのは甲高い悲鳴のような声だった。頭がぼぉっとしており夢の出来事だったのか本当の悲鳴だったのかよくわからない。
カーテンを開け光を全身に浴びて体を起こす。服を着替え朝食をもらいに一階へ降りるとちょうど昨日案内をしてくれた女性が建物の入り口のあたりに立っていた。
「おはようございます、すみませんが、朝食を用意してもらえますか」
そう声をかけると焦った様子で女性はこちらに振り返った。
「おはようございます」
焦りというより、急いでいるのかもしれない。声をかけるタイミングが悪かったようだ。
「なにか用があるのでしたらそちらが済んでからでも構いませんが」
「本当ですか」
女性は顔を輝かせ、声を大にしてそう返してきた。よほどのことのようだ。そしてそのような反応をされてはなにがあるのか気になってしまう。失礼かもしれないが尋ねてみるか。
「何か大事なようですか」
「はい、正義が執り行われるんです」
女性は足早に外へと飛び出していった。ヒーローショーでもあるのだろうか。何にせよおもしろそうだ。僕もその正義とやらを見にいってみよう。
外へ出てみると昨日おじいさんから道を聞いたあたりに人溜まりができていた。女性は走っていったがはたしてあの集団の前の方にあるのだろうか。
僕はたいして正義に執着もないし歩いて行くとするか。
こうして歩いている間にも僕の横を何人もの人が走って過ぎ去って行く。これは大層なものが観れるかもしれないと胸を膨らませる。
その直後だった。
「ぅあああああああ」という叫び声が聞こえたかと思うと集まっていた人々が一斉に歓声を上げ始めた。多種多様な声色ではあるがその全てが喜びを含んでいる。
脳裏に朝聞いた悲鳴のようなものがよぎる。あれは現実の音だったのか、しかし今回の叫びは男のものだ。
分からない、いって確かめるしかない。急ぎ足で歓声のなる方へと向かう。
辿り着いたはいいが、人が多すぎて後ろからではなにがあったのか見ることができない。人の間を潜りながら前へ前へと進んでいくと、とろみのある黒い赤みかかった液体が流れているのが見えた。
「血か……」
それが流れ出る先にいたのは一人の男だった。膝をつきそのまま前へ倒れたようだ。右のふくらはぎの裏には矢が刺さっており、左胸には刺し傷がある。この血の量をみるにもう息はしていないだろう。
何度か死体は見てきたが、やはり何度見てもいい気持ちはしないもんだ。なによりこの光景に歓喜しているこの集団が気味が悪い。この死んでいる男が殺人鬼だったとでもいうのだろうか。
依然として歓声は鳴り続ける。そんな中一人の男が死んでいる男の側へ近寄って行くのが見えた。年を取っているそれこそ昨日のおじいさんと近いように思える。その老人が男へ近づくごとに歓声は小さくなっていく。
老人が人集りの真ん中に経つ頃には歓声はなくなっていた。
「また一つここに新たな正義が生まれた」
老人は堂々とそう宣言した。
「今回正義を執り行ったのはそこにいる勇敢な少女である」
老人の伸ばした手の先にその少女がいるようだが、人が多くここからではみることができない。
「こちらへおいで」と老人が手招きすると見えなかった少女の姿が見えてきた。
ピンク色のワンピース、肩のあたりまで伸びた髪、可愛らしい顔立ち。
その姿は右手に握られた血の付いた刃物を除けばなんら特筆することはない少女であった。
少女が老人の横に立つと民衆は拍手を始めた。称えているのだろうか。
「皆もこの少女のように正義をしっかり心に抱き、正義に恥ぬよう行動するように」
それが締めの言葉となったようで拍手は次第になくなっていき、人々も散り散りに離れていった。しばらくして少女も両親と思われる大人たちの元へ近寄り、この場から遠のいていった。
僕も戻るか。
宿屋へ戻ると女性がパンとスープを乗せたトレイを持って階段を登ろうとしていた。
ドアが開く音に気づいたのか女性はこちらに振り向いた。
「今朝はすみませんでしたお客さん」
いいえ、という気持ちを込め手を振る。
「今パンとスープをお持ちしようと思ってたところなんですが、外に出てらしたんですね」
女性はこちらへ近づいてきて「このままお持ちしますのでどうぞ」と道を譲ってくれた。
「ここで食べてもいいですか」そう言って脇の方にある机の方を指差した。
「構わないですけど、人が出入りすることがあるので落ち着かないかもしれませんよ」
「それは大丈夫です、それからよければなんですけど少しお話を聞かせてもらってもいいですか」
「分かりました」
そう言うと女性は机へトレイを持って行きそれを机の上へ置いた。そして椅子に座ることなく横に立ちつくした。客より先には座らないというのを実行しているのだろう。
足早に椅子へと向かい腰をおろし「どうぞ」と声をかけた。
「失礼します」と会釈をしてから女性も対面の椅子へと腰かけた。
僕はスープを一口すすり話を切り出した。
「先ほど外で行われていたあれについて教えてもらえますか」
「あれといいますとなんですか」
「人が集まっていたじゃないですか」
「ああ、あれですね、あれは素晴らしい正義の執行ですよ」
正義の執行......
「その正義の執行というのは殺人のことでいいんですか」
女性の顔が険しくなる。
「それは違います、あれは悪を裁いたんです」
「......」
女性の顔の険しさがなくなっていく。
「正義に基づいた行動ですよ、悪事を働いたものがいたから粛清した、それだけのことです」
「ちなみにあの男は何をしでかしたんですか」
「朝、悲鳴聞こえませんでした?近くの女性が果物を売っているお店を襲ったんです」
「強盗ですか」
「いいえ、万引きです」
「万引きで殺されたんですか」
「はい、小さな悪でも大きな悪でも悪は悪ですから」
それにしても限度がある、なんて言ったところで聞き入れてはくれなさそうだ。
「そしてそれを裁いたのがあの少女なんですね」
「そう、素晴らしい子よ本当に、あの幼さで正義がどうあるべきかわかっているんだもの」
「......わかりました。お話を聞かせてくださりありがとうございます」
「いえいえごゆっくり」
女性は立ち上がり姿を消した。
その後パンとスープをいただいたがおいしい食事とは思えなかった。
昼食をとることはしなかった。食欲がないわけではないが進んで口に入れたいとも思わず食べなかった。
午後は街をぶらぶらして過ごした。土産屋に入ってみたり、今後必要になるかもしれない食べ物とナイフを買ったりして時間を潰す。こうしていると穏やかで平和なところなのだが、あの異様な光景を見たあとだとどうもいい場所であるとは思えなかった。
夜も更け、街は街灯がなければ存在を保てないほどに暗くなっていた。昼食は食べなかったからせめて夕食は、と思い人気のなさそうな時間を狙って飲食店へ足を踏み入れた。
「悪いな、今日はもう店じまいだ」
中にいたがたいのいいおじさんにそう断られた。時間も時間だし仕方がない。
「そうでしたか、失礼しました」
「ちょいまちな、あんたよそから来た人か」
店を出ようとしたところを引き止められる。
「はい、ここの出身じゃあありません」
おじさんは顎に手を当てている。何か考えているようだ。
「これも何かの縁かもしれねえ、特別にもてなしてやる、入ってこい」
「いいんですか」
「いいっつってんだろ、入ってこい」
案内され、店のカウンター席に座る。
「お前さん、酒はいけるか」
「飲めます」今は飲みたいとは思わない。
「そうか、少し待ってろ用意してやる」
まあ、いいか。
「八年くらい寝かしといたやつだ、ほんとはもう少し置いときたかったが飲む機会がねえからな」
出てきたのは紫色のお酒。
「きっとうまいぞ」
「ありがとうございます、これはぶどう酒ですか」
「ワインだ、前にこの国から出た時に買った」
そういえばそんな呼び名もあったな。
「まあ、やってくれ」
催促されたので飲んでみる。
「おいしいですね」
素直な感想だった。お酒を嗜むことはしないから味の違いはわからないが、飲みやすく優しい味をしている。
「そうか、それは良かった」
おじさんがやさしく笑いかけてくれた。
「それじゃあ俺もいただくとするかな」
おじさんは新しいグラスを出しワインを注ぎグイッと一気に飲み干した。
「かっー、こりゃうめえ」
おじさんも満足したようだ。
「なあ、あんたはどうしてこの国に来たんだ」
おじさんはカウンターを挟んで奥側に座り込んでいた。どうやら話し込む気があるらしい。
「深い意味はないです、前に訪れていた国から程よい距離にここがあったから来たそれだけです」
おじさんは自分のグラスにワインを注ぐ。
「旅をしてるんだな」
「はい」
「良かったら道中であった話をいくつか聞かせてくれないか」
「わかりました」
僕はそれから以前訪れた二つの国について話をした。いずれもおじさんからしてみたら面白かったらしく。大いに喜んでくれた。
「これからも旅は続けるのか」
4杯目のワインをおじさんは飲みほした。
「はい、明日にもこの国を出ようと思っています」
「そうか」
そういった彼の言葉はどこか哀愁を帯びていた。
「お前さんはこの国に来てあれを見たことがあるか」
あれが何を指すのかはあらかた想像がつく。
「正義ですか」
「そうそれだ、あれを見てどう思った」
これは率直な感想をいってもいいのだろうか。
「忖度はいらねえ、素直に何を思ったか教えてくれ」
そう言うのであれば遠慮なしに言わせてもらおう。
「一言で言えば異常ですね、過去に訪れた場所に大量に人殺す国もありましたし、殺しをよしとする国もありましたが皆で喜ぶというのはそうはなかったです」
「異常か、そうだよな、俺もそう思うよ」
この国にもあれをおかしいと思う人がいたのか。
「まあ、それもこれも外の世界を知っているからなんだろうな」
おじさんは5杯目のワインを注ぎ入れ、僕のグラスにもワインを注ぎ足した。
「以前旅に出たことがあってよ、たまたま訪れた場所で殺人があったんだ、その犯人はすぐに捕まって死刑になった、しかしそれを止めるものこそいなかったが喜ぶやつもいなかったんだよ」
少しワインを飲む。
「それを見てなんでこいつらは喜ばないんだと不思議に思った、この国じゃ俺が子供の頃から悪を裁いたら正義を執行したら皆で喜んでたからな、異常に思えたんだその光景が、でも異常なのはこの国の方だったんだよな」
おじさんはワインを少し飲み、話を続けた。
「それを確信したのはうちに一人の爺さんが来たときだ、その爺さんは『君には正義のために悪になってもらう』と言ってきやがった、もちろん意味がわからなかったから反対したさ、それでも最後には承諾した」
「どうしてですか」
「この国のためさ。この国の人間はいいやつらだろ、みんな人に親切だし、困っているやつがいれば放っては置かない、そんないいやつばっかの国だ」
「それはそう思います」
「みんな正義を持って生きてんだよ、ただそれに気づいていないんだ、小さな正義に気づかないんだみんな」
「......」
「だからわかりやすい正義が必要なんだよ、みんなが自分は正義を持っているんだという自信を持つためのわかりやすい正義が」
「それが悪を裁くということなんですね」
「そういうことだ、だからみんなの正義を守るため誰かが悪のふりをしなくちゃならねえ」
「でもそれをすると死んでしまうんですよ」
「わかってる」
「それでもやるんですね」
「ああ、結局俺もこの国の住人だからな、正義には逆らえない」
「......」
「いくら異常とはいえこの国には必要なものだからな、それにみんなの正義のために命を落とせるだなんて最高にかっこいいじゃないか」
そういう考え方もあるいは正しいのかもしれないと思えてきた。
「貴方はいつ悪事を働くんですか」
「明日さ、だから最後にお前さんの話が聞けて嬉しかったし、お前さんに話が出来てよかったよ、こんな話国のやつにはできねえからな」
僕はかける言葉も見つからず、早急に支払いを済ませて立ち去ろうとした。
「金はいらねえ、奢りだ」
目が合わせられない。
「ありがとうございます」
「旅、気をつけてな」
入口の前で会釈をし、宿屋へ戻った。
翌朝、パンとスープを食べたのち鍵を女性へ返して宿屋を後にした。
次の目的地はもう決めてある。
門へ差しかかろうという時に二日前道を教えてくれたおじいさんと出会った。
「旅人さん出発なされるのですか」
「はい」
「そうですか、この国はどうでした」
「みなさん、優しい心をお持ちで過ごしやすかったです」
「それは良かったです、では道中お気をつけて」
コクリと頷き、再び歩き出す。
門を出て少ししたところで後ろの方から歓声が聞こえてきたが、僕が後ろを振り返ることはなかった。
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