イオン結合をぶった切れ!!

たんぽぽ。

文字の大きさ
1 / 1

本文

しおりを挟む
理科の野田先生が、カッカッと力強い音を立てて板書している。

野田先生は筆圧が強すぎるので、白チョークが時々ポッキリ折れる。1時間に3本は必ず折るくらいの筆圧だ。

このせいで彼は「筆圧大魔王」と呼ばれている。チョークに一族郎党を殺されでもしたのだろうか。

それにしてもチョークがもったいない。税金で賄われているんだろうから、私にも多少は影響があるかも知れない。私だって消費税を払っているんだから。

「水酸化ナトリウムの電離式な~」

大魔王の癖に間延びした声で先生が言う。

『NaOH → Na+ + OH-』

黒板に書かれた式を見て、私は愉快になった。水酸化ナトリウムが別れた‼︎

愉快になるのには訳がある。

私はNaOHつまり水酸化ナトリウムが大っ嫌いだ。何故なら、NaとOHがくっ付いているからだ。

私が好意を寄せる鶴崎央つるさきおう君と、彼と付き合っている上野夏美うえのなつみを思い出させるからだ。

OHの央君とNaのなっちゃん、2人は付き合いたてで「ラブラブ」らしい。

私は鶴崎君が好き過ぎて、小原オハラ君に頼んで彼の事をいろいろ調べてもらった。

例えば家族構成(祖母、父、母、姉、弟、フェレット)、体重身長(59.8kg・168.7cm)、好物(2日目の皿うどん、バッテラ)、住む家の固定資産税の額(年間18万)などだ。

小原君はチーズ蒸しパンと引き換えに様々な情報を提供してくれるので「工作員」とあだ名されている。

先週、見たくもないのになっちゃんに2人のツーショットのプリクラを見せられた。

鶴崎君となっちゃんが2人で並んでいるプリクラだった。鶴崎君が天真爛漫に愛知県をひっくり返したような格好をして笑っていて、なっちゃんは目をかっぴらいて上目遣いして、口角を不自然に上げているいつものキメポーズを決めていた。

そこに恥ずかしげもなく「ラブラブ」の文字がピンク色で書いてあった。きっとなっちゃんが書いたのだと思う。

2人の間にはプリクラ上で数ミリの距離があるけれど、いずれこれが0になるのだろうか。それとも既になっているのだろうか。

「ふうん。今が一番いい時期だね」と言うと、なっちゃんは「逆じゃない? 今からどんどん良くなるんでしょ。彼氏がいない人には分からないかな?」なんて答えた。

いけ、しゃあ、しゃあ、と‼︎ 私の笑顔は引きつっていたと思う。

なっちゃんは多分、私が鶴崎君を好きなことを知っている。

修学旅行の夜、同室のみんなと恒例の好きな男子の言い合いっこをしたのだ。

なっちゃんと私は班が違ったけど、彼女と結構仲の良い末次スエツグさんが私の好きな人を聞いていた。

末次さんは大勢の前ではぶりっ子しているのに影でいろんな人の噂を振りまくので「お局予備軍」と呼ばれている。

思い出し怒りのせいで、気付かないうちに授業が進んでいた。

筆圧大魔王の授業は板書中心で、滅多に生徒に問題を解かせる事はないので結構好きだ。彼の授業は内職にはうってつけの時間だ。

隣の席の「マツオ・デラックス」こと松尾君なんて油の匂いをプンプンさせながら唐揚げ6個と月見バーガーと1号サイズのカステラを平らげてしまったし、斜め前の「デイトレーダー渡辺」こと渡辺さんなんて、デイトレードで稼ぎまくっている。

「水酸化ナトリウムと塩酸が中和する式な~」

大魔王はそう言いながら黒板に式を書く。

またチョークが折れた。本日20本目。白16本に赤2本、黄色1本、青1本だ。最高記録かもしれない。チョークにありったけのストレスをぶつけているとしか思えない。

思うに彼は欲求不満か何かじゃないのだろうか? もしかして、家庭が上手くいっていないとか?

彼の奥さんは前にうちの学校に勤めていた「ミス・ヒステリー」と呼ばれていた家庭科教師だ。話を聞くくらいなら私でも出来るのだけど。

そう思いながら大魔王から黒板に目を移すと、そこにはこう書いてあった。

『NaOH + HCl → NaCl + H2O』

思わず顔がほころんだ。私は急いで教科書を立てて顔を隠した。誰かに見られたらむっつりスケベだと思われてしまう。

この式では水酸化ナトリウムがバラバラになった上に、OHが、私「ハナ」の頭文字のHとくっ付いた!

なっちゃんはNaCl食塩でも舐めてろ‼︎
 
私はこの反応式を一発で暗記した。

ノートに式を写しながら、他人の物を略奪する事に長けているので、「海賊王」の異名をほしいままにしている私は妄想する。

なるほど、2人を別れさせて鶴崎君と付き合うには、HCl塩化水素の水溶液をぶっかければいいのか。もちろんなっちゃんの方に。

その時後ろの男子から背中をつつかれ、妄想が中断した。

振り向くと、「鶴崎君に回してだって」と小さなハート形にたたまれた紙を渡された。表に「央君へ♡」とある。私の列の一番後ろのなっちゃんからだろう。

私は容赦無くそれを開いた。

「ゃくそくどぉりぉ弁当っくってきたょ。きょぉのキャラ弁は『ブリキュア』だょ。たのしみにね!」

私の脳はその日本語もどきに対する拒否反応により頭痛を起こした。

重力崩壊を起こすくらい、それを握りしめる。

……ところで、塩酸って中学生でも手に入るのだろうか。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

処理中です...