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9 生徒会室にて
しおりを挟む僕は、四限の授業の挨拶が終わると同時に、急いで授業で使っていたものたちを鞄に入れた。
そして、お弁当をひっつかむ。
……早くどこかに隠れないと、生徒会室に連行される。怖いっ。
きょどきょどしながら逃げようとする僕を笑う柊くん、君は僕の気持ちがわかってないんだっ。
「そ、そんなハムスターみたいにおどおどしながら警戒しなくても…」
僕のこの姿が柊くんはツボらしい。
お腹を抱えながら笑う柊くんを軽く睨んでおく。
「だ、だって早くどこかいかないと…悠が迎えに来ちゃう」
「迎えに来ちゃったらいけないの?」
「ぴっ」
柊くんの言葉にちゃんと答えたのがいけなかった。
穏やかな聞き馴染みのある声が背中から聞こえる。
ほんの少しの遅れで、僕は悠に生徒会室に連れ込まれたのだった_________。
「…いただきます」
「俺も、いただきます」
お昼休み、僕ら以外誰もいない生徒会室。
廊下からは元気な生徒たちの声が響いてきている。いつも昼休みはどこも生徒たちが騒いでいるから。
そんな校内とは対照的に、生徒会室は静まり返っていた。
僕も悠もそんなにお喋りな方じゃないし、ほら、食事中って食べながら話すもんじゃないし…。
「さく、いつもより食べるスピード遅いね?嫌いな食べ物でもあった?俺が食べてあげようか」
僕を心配してくれているのか悠が話しかけてくれるけど、あれ、なんか僕、子供扱いされてる?
お弁当はお母さんが作ってくれてる。子が嫌いな食べ物をわざわざお弁当に入れるほど健康志向に偏った親ではない。全部好きなおかずだ。
「ううん、全部食べられるよ。ていうか、悠はお弁当見たら分かるでしょ、僕の嫌いなものはないって」
幼なじみなんだから、僕の好きな物も嫌いな物も全部知り尽くしているのに、なんでわざわざ聞くのか。
悠は王子様扱いされているけれど、こういうところはちょっと意地悪だと思う。
「ふふ、うん、そうだよね。あ、それおいしそう。食べさせて?」
「これ?」
悠が指さすおかずを箸にとって口まで運んであげれば、ぱくっと食いつき嬉しそうに咀嚼する。
…口開ける瞬間まで美人だ。
「さくママのおかず、俺好きだよ。お返しにこれ食べさせてあげる」
「ん」
悠からもらったのは一口大の唐揚げ。
昔から悠の家で食べてる唐揚げとおんなじ味付けで、懐かしい気持ちになる。
「悠ママの味だ。悠の家の唐揚げ好きだな」
「うん、俺も好き」
お互いにこにことご飯を食べ進める。
やっぱり美味しいものって正義だ。静かでも、こんなにも幸せな雰囲気が漂っている。
「さく、今度はいつ家くる?母さんもさくが来るのを楽しみにしてるよ。お料理教えたいって」
「料理?僕あんまり出来ないんだけど、どうしてだろう。僕が作っても美味しくできないよ」
「花嫁修業だって。俺はさくの作った料理食べてみたいな。ほら、調理実習の時の料理も俺が食べたでしょ?成長を感じたい」
「なに、花嫁って…なんか理由が若干怖いし。僕作らないよ」
そこをなんとか!とか言われたって知らない。
僕なんかが上手く料理できるわけないし…と思いながらもぐもぐしてたら…。
「あれ、会長?」
「…………………………………何か用かな」
生徒会の人なのかな。眼鏡をかけた真面目そうな人が生徒会室に入ってきた。
悠は僕と話してた時の笑顔のまま、ちょっと間を置いて返事をする。
当然僕は固まってしまった。悠が人払いをしたからと渋々ここで食べているのに、人、来るんじゃん!
「ぉぉおおおおおお邪魔ですよね、僕すぐにっ」
「ああ構いませんよ、これ置いて資料取りに来ただけなんで」
慌ててお弁当をしまおうとする僕を、彼女は手に持ってた資料をちょっと上げてみせて止めた。
すぐに出ると言って、すたすたと生徒会室の奥に入っていく。
「……仕事なら今日はしなくていいと連絡したんだけど」
「これは急ぎだったので。来るなとは言われてませんし」
淡々と返事をする彼女、つよい。
僕は悠にめろめろの女子しか見たことがなかったけれど、この子は特に特別な思いは抱いてなさそうだ。真面目そうだし。
「あ、会長、神崎さんが探してましたよ。お昼ご一緒したいですって」
「絶対にここは知らせるな」
「…分かってます」
神崎さんとは、朝に出会った神崎さんだろうか。
あんなに冷たく突き放されていたのに、まだ追いかけていたなんて。彼女の執着心にはもはや尊敬の念すら感じるよ。
食い気味に知らせるな、と言われた彼女も、面倒くさそうな顔をして頷いてた。彼女の積極性は結構広まっているのだろうか。
「ではお邪魔してしまいすみませんでした。失礼します」
本当に彼女は5分も経たずに出ていった。
そして悠はなぜか不機嫌そう。
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