花屋の息子

きの

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12 俺、混乱

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この人は今なんて言った?
『城に来てくれ』って言った?

え、なんで?
やっぱり俺、連行?不審者だから?
ここでダリさんたちともお別れになるのかと思考が先走り、焦りもあってか俺の目に涙の膜が張り始める。
くそ、前はこんな事で泣くような人間じゃなかった。
しかし、やはり目の前の軍人のような美人からの圧が強すぎて、俺が耐えきれない。
ここで泣いたら俺まじで情けない、と自分を叱咤しながら気合いで相手と目を合わせ続けた。





「あ、や、すまない、焦って、口走ってしまった。ごめんな、泣かないでくれ…」

「あ、いえ……」


俺の泣き姿に焦ったのか、軍人さんが涙を拭おうとしてくれるが、反射的に避けてしまう俺。
だって仕方がない、怖い。
殴られるかと思った。

そしてまた固まる軍人さん。
なんだか青ざめているような気がする。一般市民に手を出したような絵面になっているのだろうか、俺が勝手に泣きそうになっているだけなのに。


「すみません、これは俺が悪いので…」


ごしごしと涙がこぼれないように服の袖で拭おうとして、止められる。
はっと顔を上げると、彼は苦々しい顔をしていた。


「いや、俺のせいだな。言葉足らずで怖がらせた、本当に申し訳ない…擦ると赤くなってしまうよ」

「あ、はい…」



ぺこりと下げてしまう頭、俺はやはり日本人。



「君はここで働いているのか?」

「はい。アルバイトですけど」

「見慣れない髪色と瞳の色だね」

「まぁ…そうですかね」

「毎日働いているの?」

「そうですね、今のところは…」

「どこら辺に住んでいるのかな」

「それは流石に個人情報なので…」


軍人さんは俺から目を離すことなく質問責めにしてきた。
なんだこれなんだこれ、とは思いつつ個人情報は隠しておかないと、という意識はあった。ダリさんたちに住まわせてもらっている身だし。


あらかた質問し終えたのか、質問が急に止む。
そして数秒視線をさまよわせたあと、再び彼は口を開いた。




「……恋人は」





…なんだか、試されているような視線。
じっと見つめて、俺も視線を外せない。
元の世界でもいなかったし、来たばかりのこちらの世界にも当然居ない。
それをイケメンに問われる、微妙にむかつく。


「いません、けど」




瞬間、彼の瞳が輝いた。
元々美人だと思っていたが、嬉しそうな表情を見ると、やっぱりイケメンだ。
凛々しい眉は意思が強そうだし、彫りが深すぎないことで男っぽく感じられるが、王子様フェイスからも外れていない。瞳の色は不思議で、光の当たり方によって色が変わる。
不思議な雰囲気だが、イケメンかと問われれば100人中100人、そうだと即答するであろう。


「そうか、恋人はいないのか」

「はい、だったら何か」


再び、俺を掴む腕に力を入れられる。
え、何ですか、と言葉を発するより前に、前のめりに彼が言った。






「好きだ。俺と一緒に城に来てくれないか」


懇願するような彼の声色と、更に近づいたイケメンフェイスに_______________、


俺はとうとう思考が停止した。
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