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交わされる獣愛

2話※

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彼自体を受け入れるのはいい。
けれどこんな形は私たちが今まで作ってきた関係性とはまるで真逆の様なものに思った。

「おれはどうしたって半分は獣なんだよ。 他の雄の匂いさせてどうなるかなんてわかってるでしょ?」

だからそれは誤解なのだとさっき言ったのに。

そんな理屈なんか通じない彼はまるで異質で。 そう、 高遠さんに手を上げたあの時に似てる。

『真弥が笑ってくれるのが嬉しかったよ』

そう言って私を諭した琥牙。
自分よりも私を優先に考えてくれる。

拒む私の体を彼がその力で開かせる。

そうしたらなにかが壊れてしまう気がした。

「あ、ぁあ……ッああ、…く」

「おれの周りってそういう雌の辛そうな声を雄は余計に喜ぶみたい。 そんなの、最低だよね。  でも特別なんだよ」

そんな事を掠れた声で呟いている。

乾いた秘裂がやっとその太い尖頭を呑んで、若干湿ってる内部をぎちぎちと拡げて進んでくる。

 「それ以上大事にするし嫌ってほど交尾もする。  他の雄の事考える隙なんか与えないために。  ……そういう血が俺にも流れてる」

乱されたシーツを私の足先が無意味に巻き込み、苦痛にさらに深い皺を刻む。

「や…ふ、っんん……うッ」

「真弥が痛い位に拒絶してるの分かる」

後ろからのしかかれて、首に当たる琥牙の息は熱かった。
胸に腕を回して抱きしめてる、もう片方の手が私の内腿をぐいと開かせる。

「や……抜い、てっ」

振り向いてぼろっと涙を流してしまった私を見ても琥牙は行為を止めようとしなかった。

奥底をぐっと強く押されて一瞬息が詰まる。
硬い棒みたいな陰茎がすぐに抜かれまた押された。
琥牙の力が強過ぎて動けなかった。

「アぁっ、やっ…やあっ!」

忙しなく音を立てて軋むベッド。
性に目覚めたばかりの男性が、ただ自分の欲望をぶつけるだけのような動きだった。

それなのに、浮かされたみたいに繰り返される律動はそれでも私から思考を奪う。
激しく膣壁の往復を続ける抵抗が弱くなってきて、その代わりにゴツゴツ奥を小突く感覚が鋭くなる。

「……あ…う……あぁっ」

傷付けないように私を守ろうとして滲み出る体液は、私も持ってるちっぽけな動物の本能。

本当は抗いたかった。
彼に絡みついてまで迎え入れようとするこの体を疎ましく思った。

そしてこんな風に慣らされるのも。

きつくって、体を逸らす。
はだけた私の肩に彼の唇が這う。

そんなつもりも無いのに喉元から漏れてしまう、吐息混じりに媚びた自分の声。

「…ぁあッあ……あぁ、っはぁ…ッ」

さっきまではひりつく内部を彷徨うみたいに動いてた体内の異物。
奥を打って送られてきた先端は、すぐにまた別れを告げるように引き抜かれ、再び力強く送り込まれてくる。

そうやっているうちにより大きく深く内部で猛る雄の器官は、今は私を犯してるとは言い難い。

「んんっ……や、ぁあ、そこ……やあッ」

その快感がダイレクトに口から吐き出される。
それらが摩擦のたびに溢れる愛液と相まって、例えようの無い淫靡な音の旋律を紡いでいく。

間に混ざるのは、私に与えられる一瞬の休息に漏れる彼の荒々しい吐息。

直前まで抜かれた時の焦燥感にも似た感情に戸惑う。

「凄い…ナカが、うねって。 匂いも変わる……真弥も堪んないって、雌の匂い。 もっとって言ってる」

彼に包まれた手の中の胸が形を変えて、力を入れるたびに行き場の無いその先端が指の間で潰される。

そうされると私を穿ってる槍みたいな肉の棒が膨らんで悲鳴みたいな声が出てしまうのだけどそうじゃない。
自分の内部がぎゅうっとすぼまってそれを締めつけてしまうのだと気付く。

「や、もう…っ止め…ぁあッ、あん!」

腟内で達するのがどんななのか私はまだ知らない。
けれど、小刻みな痙攣を繰り返しながら溢れ続ける波のうねりはそれに似ているのかも知れない。

「真弥の全部、こっちに流れてくる」

そう言って落とされた口付けはもう何も伝える必要は無いのだと思わせる。

言葉が見付からない。

おそらくもう達しそうに猛っているというのに、彼も快楽に没頭してるって表情じゃなかった。

たわめられた双眸がその少年らしい顔立ちにはそぐわない陰翳を作っていた。

「琥……」

「壊したくなる……真弥も、おれも」

暴れ続ける熱の塊が文字通り私を壊してく。

その瞬間に深い所に埋められたまま、かたくかたく抱きしめられて息が止まった。


彼は知らないフリして我慢する、なんて事はしない。
一晩寝たって忘れない。
「上手くやる」なんて事は考えない。
そうするとしたら本当に抗えないお天気相手位のものなんだろう。

その激しさは例え最初の痛みが消えたとしても、きっと私の体に消えない刺青みたいに見えない傷を残すに違いない。




永遠に近いようにも思えたその時が終わると嘘のような静寂が私たちを包んだ。

体が気怠く感じる他には驚く程何も無かった。

彼に囁く為の愛の言葉も残ってない。
それは琥牙も同じ様で、私たちはお互いにそれより深い何かを交わしたみたいに感じていたからだ。

薄く目を開けると私の脇に肘を付いた琥牙がこちらを見下ろしていた。
その瞳は金色とまでは言わないけれど、どこか黄味がかかっている。
私の体調かその余韻のせいかは分からなかったけど、あんな行為のあとにも関わらず額に触れられた指先が酷く冷たく感じた。

「真弥を取られる位なら、おれはきっと相手を殺すと思う」

野生の動物は時に雌を取り合って戦い殺し合う。
それは彼に流れる獣の血。

「わ……たしも、殺す……の?」

出会った頃よりは丸みを帯びてない頬の線。
もの哀しそうに細められた目線はやっぱり大人の表情で、その危うい綺麗さに息をのむ。

「……かも知れない」

優しい琥牙。
あと半分の人間の彼は、その時きっと自らもいなくなる事を選ぶのかもしれない。

軽々しく付き合える相手じゃないと、頭では分かっていた。
二つの彼を受け入れる事。


広い窓ガラスから入ってくる月明かりに目を移した。

変わらないものなんてない。
満ちていく月みたいに何かが変化する予感を私は感じていた。

「後悔してる、なんて訊ける余裕はおれにはもう無い」

あの日出会った私たちはお互いの何に惹かれたんだろう?
そして、何のために出会ったのだろう。

その先が苦痛や憎しみとは無縁のものである事を私は願う。

……私ももう、寝てやり過ごす事なんて出来なくなってしまうのかもしれない。

そんな事を考えながらそっと目を伏せる。


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