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イケメン vs. 子狼
3話
「聞いた事ある。 ワーウルフってヨーロッパとか。 日本でも大神として祀られてる所もあるとか?」
「国によって出来損ないの悪魔の使いみたいに扱われたりもするから眉唾ものだけど。 実際におれは病弱だし」
だからそれは琥牙のせいじゃないと思うんだけど。
「そしたら、前から聞きたかったんだけど………もし琥牙がちゃんと成長したら、伯斗さんが言ってるみたいに琥牙は元の場所に帰るの?」
「そうだなあ。 伯斗や雪牙、里のやつらは黙ってないだろうね。 そしたら真弥の事攫って逃げていい?」
いつも通りののんびりした調子でそんな事を言う。
「もう。 私は真面目に訊いてるんだよ」
「どこ行っても一緒にいる、って答えにならないかな」
そう言って指先で私の髪に風を通すみたいに梳いてきた。
少し考えてからこくんと頷く。
「ならない事もない」
軽く笑う琥牙の腰に手を回す。
見えない先の事考えるよりも、それだけあればいいかな、と私は思う。
彼と一緒なら。
「おい!! そこ、何やってる!」
声のした方向に目を向けると雪牙くんに思う存分振り回されて、さすがの浩二も息が上がっている様だった。
彼がズカズカと私たちに向かって歩いてくる。
「誰に断って真弥に触ってるんだよ」
ああ、やっぱりこうなるのね、そう思い軽く息をつく。
私の弟は昔からこうだ。
留守がちな両親で、かつ兄弟の中で唯一の男性だったからなのかもしれない。
一方浩二の矛先がこちらに向いて、あとにぽつんと取り残された雪牙くんはつまらなそうに呟いた。
「……もう、終わり?」
タッタッタッとこちらに走って来た雪牙くんが、嫌そうな表情の琥牙と手を合わせて選手交代を示した。
買い物袋に手を入れて私がアイス食べる? と訊くと嬉しそうな顔をする。
「食う!! あっちーな! いい運動になった。 いいな、アイツ。 人間の癖にタフだし壊れにくそうだ」
そして私の隣に座り込んだ雪牙くんが今度は観客となる。
「んー? どっかで見たよなあ、こういう光景」
他人だと冷静に見えるからねえ、ついそう口に出てしまって雪牙くんがぷっと頬を膨らませた。
私に向けて攻撃的だった自分を浩二に重ねてるんだろうか。
一応身に覚えはあるらしい。
「お前も何か……あのチビと似てる。 なあ、何者なの? お前らって」
「おれは真弥の伴侶だけど」
「ハア!!?」
「そしたら浩二って言った? そっちはおれの義弟になるのかなあ。 なんか見てたら、性格的に雪牙が増えたとしか思えないような気もする」
でもぶっちゃけ一人も二人も同じか、よろしくね。 やや照れがちに話しかける琥牙に浩二がブルブルと震えている。
「っみ………認めるかよ!!!」
そんな浩二の叫びと一緒に琥牙の頬に入る右ストレート。
頬を掠った様に見えたけど特に怪我などをしてる様子はない。
「平気だって。 兄ちゃんならあれ位ちゃんとダメージ流せるし」
彼らの所に向かう私に後ろから雪牙くんの声が追ってくる。
それでも。
これまで多少の事があろうと『心配してくれてる訳だから』。 そんな大義名分の元に浩二の過干渉を本気で取り合ってなかった。
事実、どこか抜けてる私を弟はいつも助けてくれてた。
それでも私が実家を出てから離れて暮らして8年。
いつかこんな日が来る。
「真弥の身内に手を出す気はないんだ。 落ち着いてよ。 家で西瓜でも食べ」
おそらく私はいつになく腹を立ててたのだと思う。
私を見た琥牙がぎょっとした表情をしていた。
「浩二、あんたいい加減にしなさい!!!」
と同時に浩二の方も私の剣幕に後ずさる。
「ま、真弥……?」
琥牙はその複雑な身の上を抱えながら一緒にいると言ってくれた。
言われなくったってそうするけど。
「だ、だって。 冗談にしてもこんなガキが真弥のって有り得なくね?」
「浩二がそんなだから言わなかったんだよ。 いつも言ってるでしょ!? 人を見かけでしか判断しない上に、失礼な事しちゃダメだって」
それは親や兄弟よりも大事なものなのだと私の本能が告げているから。
『真弥の事を悪く言うのは許さない』
あの時の琥牙の気持ちが私にも分かった。
そんな風に真剣な私の耳に呑気な二人の声が遠くから届く。
「……これも見た光景だよなあー…っか、真弥って怒ったら怖ぇ。 母ちゃんかと思った」
「普段はぼんやりしたお姉さんだもんね。 ああいうギャップもクるけど……そういえば最中にも止められた事あるからなあ。 巻き込まない様におれも自重しないと」
「あっ、分かったぞ!! 真弥がそそっかしいのはこのシスコン弟に守られまくってたからかあ」
「浩二って子も勘が良さそうだし。 真弥が世話好きな理由も分かった。 でもなんだろう? もう少し引っかかる」
◆
「ああ、そりゃウチはあと下に年が離れた妹も二人いるから。 真弥が長女で俺が長男ね。 だからお前らみたいなチビはほっとけないタチなんだろ」
そして現在。
場所を移して私のマンションにてしゃりしゃりと私たち4人は西瓜を食べている。
チビ……そう呟いている琥牙は腑に落ちなさそうだ。
浩二と雪牙くんは似たもの同士だからかなかなか気が合うらしい。 わあわあと笑い合いながら格闘技の話なんかをしている。
言ってはいないが実際の歳も近いはず。
「そう。 そのせいで真弥って頼れる年上の男が好みだった筈なのになんで琥牙だっけ? お前みたいのがって。 お前らって兄弟には見えないけど顔はいいから、ヘタに騙されて貢がされてるのかって思うだろ?」
後腐れないのが浩二の良い所だ。
私たちが本気で付き合ってるのは分かってくれたらしい。
彼が過干渉なのは妹たちに対してもそうで、最近は高校生になる彼女らにも煙たがられてるとか。
浩二も見た目はいいんだから、彼女でも作ればいいのに。
「妹だってさ。 雪牙、おまえどう?」
「オ…オレは女には興味ねぇよ。 もっと鍛えて兄ちゃんの右腕になるからさ」
「けど今は何となく。 お前相当やるだろ? 俺よりこの雪牙ってチビよりもずっと」
「それはないし、なんでみんな基準がそこなのかなあ」
ほう、と琥牙がやる気なさげにため息を吐く。
『最強だった父親が人の銃弾で簡単に倒れたんだ』
本当に怖いのは元々の弱さゆえに武器を持ち始めた人間なのだと琥牙は知っている。
それは雪牙くんや珀斗さん、彼が本来居るべき筈の周囲の人々の価値観とは相容れない。
『そしたら真弥の事攫って逃げていい?』
だから最初に出会った時、実は琥牙はそこから離れようとしたのかもしれない、なんて私はその時思った。
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