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第一話

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「プロデューサーなんて大っ嫌い!」

広い事務所の中で高校の制服姿の少女が叫ぶ。デスクの向こう側に座る20代なかばのスーツ姿の男性に向かって両の小さな手を握り締めながら。
「じゃあ断って良かったのか?モデルの仕事やりたかったんだろ?喜んでたじゃないか」
「そりゃそうだけどカメラマンがあいつなんて聞いてない」

彼女が文句を言うのも理由がある。
そう、今回の撮影のカメラマンが彼女の叔父だったのだ。名前は聞いていたが血縁関係、さらには彼女が嫌っているとは知らなかった。もともと決まっていたモデルの体調不良による急遽の代わりの仕事だったので打ち合わせが疎かになってしまっていた。

「それは悪かった。こっちの連絡不足ですまない。でもいい写真だったよ。可愛かった」
「ま、まあいいの撮って貰えたからいいんだけど」

少し照れる彼女にいいんかい!じゃあ文句言うんじゃねーよ!
と心の中でツッコミながらその言葉を飲み込む。
「とにかく明日のレッスンも早いんだから帰って休め。ライブも近いんだからメンバーに遅れるなよ」
「わかってるって!センター舐めないでよね!」

ふふん、と笑う彼女の笑顔はなかなか魅力的だ。あらためていい子を見つけたと思う。裏表のない彼女の性格にファンも多い。これからもグループを引っ張っていって欲しいと心から思う。

「じゃあね!プロデューサー!お疲れ様でしたー!」
「ああ、気をつけて帰れよー」

扉が閉まってから少しため息をつく。
俺もこの書類を片付けて帰ろう。

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とある服飾ブランドのデザイナーをしていたオレが、アイドルのプロデューサーをやりはじめて3年が経つ。
パンク系の、世間からみたら少し尖ったデザインを売りにハマる人にはハマる服を作っていた自分に学生時代にお世話になった小さい芸能事務所の社長に声をかけてもらい今に至る。
最初の頃は何もかも初めてだらけで戸惑ったものの、自分のセンスに任せて曲や衣装を仲間と共に作ってきた。
スカウトも自ら先導して探し、育ててきた5人の娘達もとうとう1ヶ月後には武道館ライブも開催できるくらい人気を集めてきた。

書類を片付けながら物思いに耽っていると、自分の右腕とも腐れ縁とも言える悪友がノックをしながら部屋に入ってきたところで話が大きく動き出す。
まさか自分が異世界でもアイドルをプロデュースするとは夢にも思っていなかった。
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