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第二話 反撃

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三ヶ月後。新学期まであと二週間のある日。

 夏休み中、翔はアルバイトをしていたり、結菜も図書館や友人宅へ避難していたため、うまくすれ違いの生活となっていた。
 今日は翔が在宅しているため、結菜は友人の舞香まいかの家に遊びに来ていた。彼女は結菜の趣味ともだちでもある。

「結菜ちゃん、今回のやばいね! すっごく面白い。しかもバズってるじゃん! これって実体験なの?」
「半分はね」
「うそ、やばーい! ホントごちそうさま!」

 舞香はタブレットの画面を閉じ、満面の笑みを浮かべた。
 ここ数日、SNS上である漫画が話題となっていた。
 それは、結菜が描いた漫画の新作で、タイトルは『兄が毎日男を連れ込むので困ってます』だ。毎日のように男を連れ込み情事に溺れる兄を、隣の部屋にいる妹の視点で描くBL漫画である。
 元々結菜のアカウントはフォロワー五百人程度だったが、この漫画を掲載してから三日で三倍に増えていた。いいねや共有も止まらずついには一万を超えてきた。
 デリカシーのない兄への憂さ晴らしにしては、予想以上の結果がついてきて結菜も若干戸惑う。

「本当は女なんだけどね。こっちの方が面白そうだからBLのネタにしてやった」
「ええ、そうなんだ! うちのお姉の学校でも、結菜ちゃんのお兄ちゃんモテてるらしいよ。かっこいいもんね~」
「顔だけはね。ホント顔しかないから」

 中学生の頃は小学校からの持ち上がりメンバーばかりなせいか、翔がモテるということはなかったが、高校に入学した途端、彼の中身が空っぽなことに気づいていない女子たちにモテているようだった。

「でもこれ、お兄ちゃんにバレたらヤバくない?」
「さすがにBL漫画なんて、お兄ちゃんとかその周りに知るルートはないよきっと」
「ま、確かにそうだよね~」

 今までも結菜が漫画を描いてSNSに掲載していることや、趣味のアカウント自体舞香以外は知らない。なので結菜は今回もそうだと油断していた。

◇◆◇◆

 そして、九月一日。
 始業式の日、午前で学校も終わり、結菜は定休日で家にいた両親と昼食の焼きそばを食べていた。

 「おい! 結菜!」

 玄関ドアが荒々しく開く音と共に、兄の声が聞こえた。明らかに怒っている。彼の感情の起伏が激しいことは家族全員知っているので、誰も気にしていない。結菜も気にせず目の前の焼きそばを頬張り、口の中に広がるソースと鰹節の風味に舌鼓を打つ。

「翔ー! 焼きそば食べる?」

 母も翔が怒っていることは全く気にせず、ダイニングから声を掛ける。

「それどころじゃない! 結菜! お前何てことしてくれてんだ!」
「え? 何のこと?」

 とぼけたわけではない。結菜は本当に心当たりが無かった。
 しかし、翔が顔を真っ赤にして怒り狂いながら見せてきたスマホの画面を見て、状況は一変する。

「……あ」

 そこには、結菜が夏休みに描いた漫画が表示されていた。

「これのせいで散々だ! ふざけるなよ、このオタクブス! 絶対許さねえからな!」

 翔が持っていたスマホを床に叩きつける。ただならぬ状況に、両親も仲裁に入ろうと席を立つ。
 母がスマホを拾い上げ、画面に釘付けになり、たちまち彼女の顔は真っ赤になった。

「ちょっと、何よこれ!」
「どうしたんだ、お前まで騒いで……。なっ、何だこれは!」

 ああ、そういえば兄を受けにしていたな、と結菜は遠くを見つめていた。まさか非オタクである兄に知られるとは。そこまで話題になっていたのか、とその場でただ一人、結菜は冷静に考えていた。
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