サラダに恋して

白米かため

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寛一さん

②-2※

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『おはようございます桜田さん』
『おはよう、南くん』

ジャルダンの桜田さくらださんはいつも優しく声をかけてくれてたまに試食までくれたりする。
顔はもちろんイケメンだけど、性格までイケメンでここ辺りのマダム達は桜田さん目当てで毎日通っていると言っても過言ではない。

『今日とてもいいズッキーニが入ったんです、どうですか?』
『わあ、嬉しい、ちょうど夏野菜カレーを作ろうと思っていたから助かるよ』
『良かったあ、何箱要りますか?』
『全部もらうよ』
『え!?そんな、5箱ありますよ?』
『ランチで出たら1週間も持たないよ、またいい夏野菜が入ったらお願いできるかな?』
『もちろん!ありがとうございます!』

それとお土産、と、桜田さん特製のトルティーヤをくれた。

『フレンチのお店だからメニューには出せないけど、作ってみたんだ。良かったら感想くれるかい?』
『うわあ、美味しそう~!ありがとうございます!』
『ううん、南くんが美味しいお野菜を持ってきてくれるから料理の味も良いって言ってもらえてるんだよ? 感謝してるのはこちらだよ、いつもありがとう』

ニコリと笑う顔はまるでどこかの王子様みたい、宮殿のようなお店も相まって桜田さんが本物の王子様に見えてしまう。

『じゃあ気をつけてね?』
『はいっ、ありがとうございます!』

桜田さんは『チャオ♪』なんて言って見送ってくれた、こんな言葉も似合ってしまうのが憎らしいくらいだ。

お店に戻って商品を並べると地元のおばちゃんおじちゃん達が次々と買ってくれる。
青葉との共同制作のドレッシングも今日は良く売れて1日の目標売り上げを達してしまった。

『はあ~、疲れたぁ』

ようやくお昼ご飯を食べてまた暇な午後の店番だ。お母さんとお父さんは病院へ行っているしひとりで店番をしているとぽかぽかの初夏の陽気につい眠気に負けそうになる。

うとうとしていると空が暗くなってきてさっきまでのぽかぽか陽気はどこに行ったんだ?と思うくらいの激しい雨が降り出した。

『うわっ、夕立かな…』

もう夏なんだな、なんて降りしきる雨を見ながら思いふけっていたら小走りでお客さんがお店に入ってきた。

『寛一さん…!?』
『ハアッ、こんにちは』

暗い空とは反対に眩しいほどの笑顔で挨拶をする寛一さんは、夕立のせいで白いTシャツが濡れてしまっている。

『急に降って来ちゃって、参りましたね』

雨のせいで透けたシャツから厚い胸やお腹が見えてしまっている、思わず胸がドキッと高鳴る。
腹筋なんか6つに割れていて張り付いたシャツからもその形が分かるくらいだ。

『あ、あの、今日もお肉買いに来たんですか?』
『はい』

髪から滴る雫がポタポタと落ちている、筋ばった首筋に流れ落ちる雨水はなんだかえっちで目が離せない。

『あ、あの、中入ってください…』
『え?』
『そんなに濡れてたら風邪ひいちゃいます、こっち…』

雷が鳴っている、光で照らされた寛一さんは彫刻のように綺麗だ。

『でも、こんなに濡れてちゃ…』
『いいですから、入ってください、こんな雨じゃお客さんも来ませんから』

暖簾のれんを上げ促すと寛一は頭を下げて中へ入ってくれた。

『これ、タオル』
『ありがとうございます』

ガシガシと髪を拭く腕は相変わらずたくましくて思わず唇に指を当てた。

『あの、シャワー、浴びてください』
『そんな…タオルだけでもありがたいですから』
『でも、じゃあ、あの、着替えだけでも、風邪ひいちゃう』

僕のじゃサイズが小さ過ぎる、置きっぱなしにしてあったたっちゃんのズボンとTシャツを引っ張り出して寛一さんに当てた。

『どうだろう…?小さいかな?』
『いいんですか?』
『だってこんなに濡れてちゃ…』
『そうですね…ありがとうございます』

髪をかきあげる仕草がたまらなくセクシーだ。
雨に濡れた頬や唇がヌラっと光っていて思わず舌舐めずりした。

『あっ…ごめんなさいっ』

その場で服を脱ぎ出した寛一さんに背を向け後ろでゴソゴソと動く気配だけを感じていた。
雨のせいで気温は低く朝より寒くなってきたのに、頬が熱くて息が荒くなる。

『南さん?』
『あっ、はいっ』
『着替えました、ありがとうございます』

これでやっとあんな姿の寛一さんを見なくて済むと思い振り返ると、その瞬間稲妻が走って家中の電気が消えた。

『え…停電?』
『そう、みたいですね』

それからすぐに地響きがして大きな雷が落ちる。

『ひゃあッ!?』
『南さんっ?』

驚きすぎてパニックになってしまった。目の前の体に抱きつき恐怖で高鳴る胸を押し当てた。

『ハアッ、ハアッ、ハアッ…』
『大丈夫ですか?』
『ひぅっ、ヤダぁ…っ』
『あの、大丈夫です、すぐに電気付きますよ…』

硬い腕にギュウッと抱きしめられてだんだんと落ち着いてきた。背中をさすり頭を撫でてくれる手に安心してホッと息を吐き出す。

『ごっ、ごめんなさい…』
『いいえ、大きい音、苦手なんですか?』
『は、はい、ちょっと…』
『あっ、』

稲妻が走って寛一さんが耳を塞ぐ、だけど近くで目線を合わせた目が『大丈夫』と言っているようでそのまま受け入れた。

ドガガガッ!ドガシャーンッ!

両目を瞑り耐えていたが、寛一さんが耳を抑えてくれたお陰でさっきよりは少し落ち着いている。

恐る恐る目を開くとすぐ近くに寛一さんのガッシリした顔があって、真っ直ぐにこちらを見つめていた。

あ…唇が触れそう……

こんな近い距離なのに寛一さんは真っ直ぐに目を合わせている。

吸い込まれるように唇を合わせてしまった。

寛一さんの唇は雨で濡れていてしっとりと吸い付いてくる、思わず目をつぶってその感触に身を委ねた。

チュッ…と音を鳴らし顔を離すと、暗闇に浮かぶ寛一さんの顔が少し歪んだように見える。

『んっ…』

今度は寛一さんから唇を重ねられた、角度を付け何度もキスをされる。

『んっ、ハアッ…』

お店と居間の境目の小上がりに座り込んでしまうと、寛一さんは唇を合わせたまま、また髪を撫でた。

クチュッ

舌が入り込んできて思わず寛一さんが着ているたっちゃんの服を握りしめた。
こんな大人のキスは初めてだった。

『ん…ぁ、ん…』

絡む舌が溶けそうで気持ちよくて指先まで熱くなっていく。

『あっ…』

寛一さんの手が膨らんだズボンを撫でた、雨に当たったのは寛一さんのはずなのに僕の下着の方が濡れてしまっている。

『脱がせていいですか…?』

どうしようと考えていると返事を待たずジッパーを下され中に指が入り込んできた。
寛一さんの大きな手が下着ごとそこを握りしめて上下させてくる。

『んんっ…ん、ハアッ、あ、ハアッ』
『ん…』

またキスをすると今度は貪(むさぼ)るように互いに舌を吸い合った、寛一さんの手に合わせて腰を揺らすと下着の中からクチャクチャと湿った音が鳴ってしまう。

『んハアッ…』

唇を離した寛一さんの顔が下におりていく、足を担ぎあげられ左右に開かれると膨らんだそこに唇が当てられる。

『あっ…やあっ…』

あまりの刺激に体を支えきれず床に倒れ込み寛一さんの手を握った。

『ん、んん…』

暗い部屋の中で2人の荒い息が豪雨にかき消されていく。先端を吸い上げられ足が上がるとサンダルが脱げ落ちていった。

『あっ、あぁ…ハアッ、あっ、ああっ』

下着がズラされ寛一さんの唇が直でそこに当てられている感覚がする、ヌルヌルと下から上まで舌が這いずり回っていく。
もうダメ、これ以上したら、
言いたいのに口からは言葉にならない声だけが漏れて足が開いていくのを止められない。

『ハアッ、あっ、あっ、あぁ…!』

稲妻が走った。腰が跳ねて足がダラしなく床に落ちていく。

『ハアッハアッ、ハアッ…』

起き上がった寛一さんが目の前で唇をペロっと舐める、端が白く汚れていて自分の舌を伸ばしそれを舐め取った。

『ん、ふ、ぁむ、ん…』
『ハアッ、ん、んく、ん』

ピチャックチュクチュッ

『ん、ハアッ…』
『南さん…』

唇を離すと寛一さんが頭を抱きしめ囁いた。まだ部屋は暗く豪雨がコンクリートを強く叩く音が鳴り響いている。

しばらくそのままでいたが、荒い息を整え体を離すと寛一さんが僕の身なりを整えスッと立ち上がった。

『お仕事中に、すみませんでした』
『あ…いや、その…』
『服、洗って返します』

見上げるとたっちゃんの服を着た寛一さんは申し訳なさそうな顔をして頭を下げ濡れた服を持ち上げるとお店から出て行った。

あ、お肉買うの忘れてる。

後ろ姿を見つめるともう雨は止んでいて、薄く日が差し込んできていた。

夏の夕立は本当に気まぐれだ。
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