ヘタレαにつかまりまして

三日月

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1 また、明日

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「あ、わりぃね、かなちゃん」

「席、もどろーぜ」

「すまないな」


俺には、嘲笑。
教師には、形ばかり頭を下げて。
次々自分の席に戻っていく、取り巻き三人。


「ごめんな、煩くて」


後ろを振り向き、俺に向かって頭を下げる菊川。
耳に心地よい穏やかな声。
サラサラと流れる前髪と。
人懐っこい垂れ目。
躊躇いがちに微笑む唇。

言葉限りでは無く、コイツが俺の苛立ちに申し訳無いと思っているのが伝わってくる。
αが格下相手に取る態度じゃないが、コイツに限っては珍しいものじゃない。
中等部でもそうだったが、相手が誰であろうとコイツは謝罪と感謝を口にする。
俺は平らな目でそれを見返すだけだ。

だが、コイツの両隣から後ろにいる女子も男子も関係なく、その姿を見た生徒が息を飲んだのがわかった。
菊川の視界に入る自分を意識して、髪型や服装を急いで整える者。
背筋を伸ばし、姿勢を正す者。

誰もが少しでも菊川に気に入られたい一心なんだろう。

この教室には、コイツのフェロモンが広く浸透している。
ここは、菊川のマーキングの内側。
他のαと違い、薄く最低限にコントロールされた支配の場。

α特有のマウンティングは。
αには、頂点にいるのが自分であること。
βには、問答無用に服従を。
Ωには、傘下にいる限り安住を約束する。

普通のαならば、王様気取りで踏ん反り返るのが当たり前なスペースだ。
わざわざ臣下に謝罪など必要ない。

俺は、周囲のざわつきを煩わしく感じ、無言のまま前を見ろと顎で示した。

菊川の心情の変化に合わせ、教室のフェロモンが揺れて混じり動く。
これには、他のαと違い、屈服させるような圧迫感はないし。
俺は、コイツのフェロモン以上に濃くて優しい両親のフェロモンに包まれている。

なのに、息苦しい。
コイツのフェロモンを眺めているだけで、どうあっても敵わない自分を晒されているようで落ち着かない。
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