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3 お花畑
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ビルが建ち並ぶ大通りを車が進んでいくと、ガラリと景色の変わる区画に入る。
片側にはビルが続いているのに、こちら側には二メートルを超える白い塀と黒のフェンスが暫く途切れなくなるのだ。
やっと変化が見えてきたと感じるのは、その視線の先に黒のフェンスと同じ意匠で作られた門が現れたとき。
近づくにつれ、それが三メートルを超える大きな門だと確認するのにも時間がかかる。
門や塀自体は古いものだが、セキュリティは日々最新に更新されている俺の家だ。
事前に登録されているこの車を感知すると、その門はゆっくりと開いて敷地内に導く。
そして、門の脇を抜ければ目の前に連なるのは新緑の桜並木。
『桜宮御殿』
そんな風に俺の家は呼ばれているらしい。
敷地内に入ってから滑らかな石畳の上を走り続けた車は、外観に歴史をにじませる屋敷の前に到着。
運転手に荷物は任せ、単身車の外に出た。
車を出てからの一歩一歩がやけに重く感じてしまう。
もうここに、当たり前のように帰ってくることはないのだ。
この幅広の大理石で出来た階段。
何度、雨の日に転びそうになってヒヤリとさせられたことか。
屋敷のあちこちに残る思い出のおかげで、少し緊張がほどけてきた。
階段の途中で、玄関の扉が開かれ人が出てくる気配がした。
足を止め、見上げる。
使用人が出迎えてくれるにしては、足音が⋯
「お帰り、奏」
開いた扉の内側から出迎えてくれたのは、桜宮家32代目当主、桜宮 湊(さくらみや みなと)。
俺の父親であり、桜宮財閥のトップ。
すらりと伸びた長身と鼻筋の通った顔立ち。
仕事中は容赦なく毒舌を吐く唇も、家に帰れば家族想いの甘い言葉で埋め尽くされる。
俺を映す翡翠色の瞳がすでに潤んでいて。
父親が初めて見せる表情を前に、貰い泣きしそうになりグッと奥歯を噛みしめ笑顔を作る。
「ただいま、父さん」
けれど、堪らず残りの階段を一気に駆け上がり、その勢いのままぶつかるようにその胸に飛び込んでしまった。
ふらつくことなく優しく抱きとめてくれる父さん。
背中に腕を回すと、同じように腕を回してトントンと背中を優しく叩いてくれる。
「お、お帰りぃ⋯」
震える声の主を探し、父さんの腕の中で首を動かすとすぐ隣でボロボロと涙をこぼす、俺と同じ淡い水色の瞳とぶつかった。
父さんよりも頭一つ小さな身体は、小刻みに震え嗚咽が止まらない。
俺を産んでくれた、桜宮 美咲(さくらみや みさき)。
引く手数多の優生α女性なのに⋯父さんに一目ぼれして、何年もかかって口説き落とした情熱の人。
俺がΩと分かってから、ずっとずっと自分を責めていた人。
出会ってすぐの父さんに褒められてから、手入れに余念がなかった自慢のストレートの黒髪。
なのに、今日は艶もなく手入れがおざなりになっている。
「もう、母さんは泣き過ぎだよ!」
α同士の親からでさえ、稀に生まれてしまうΩ。
α至上主義の家なら里子や離縁が定着している中で、バース性は関係なく自分達の子どもだと俺を愛しみ桜宮の子どもとして生きていけるように育ててくれた。
後ろから母さんに抱きしめられ、サンドイッチのように両親に挟まれる。
屋敷の外に出るときは、常に俺を守ってくれた暖かくて優しい二人のフェロモン。
抱き締められ、更にそれが増えていくのが伝わってくる。
次に屋敷を出るときは、取り払われてしまう温もりと優しさ。
俺も、ついに泣き出していた。
片側にはビルが続いているのに、こちら側には二メートルを超える白い塀と黒のフェンスが暫く途切れなくなるのだ。
やっと変化が見えてきたと感じるのは、その視線の先に黒のフェンスと同じ意匠で作られた門が現れたとき。
近づくにつれ、それが三メートルを超える大きな門だと確認するのにも時間がかかる。
門や塀自体は古いものだが、セキュリティは日々最新に更新されている俺の家だ。
事前に登録されているこの車を感知すると、その門はゆっくりと開いて敷地内に導く。
そして、門の脇を抜ければ目の前に連なるのは新緑の桜並木。
『桜宮御殿』
そんな風に俺の家は呼ばれているらしい。
敷地内に入ってから滑らかな石畳の上を走り続けた車は、外観に歴史をにじませる屋敷の前に到着。
運転手に荷物は任せ、単身車の外に出た。
車を出てからの一歩一歩がやけに重く感じてしまう。
もうここに、当たり前のように帰ってくることはないのだ。
この幅広の大理石で出来た階段。
何度、雨の日に転びそうになってヒヤリとさせられたことか。
屋敷のあちこちに残る思い出のおかげで、少し緊張がほどけてきた。
階段の途中で、玄関の扉が開かれ人が出てくる気配がした。
足を止め、見上げる。
使用人が出迎えてくれるにしては、足音が⋯
「お帰り、奏」
開いた扉の内側から出迎えてくれたのは、桜宮家32代目当主、桜宮 湊(さくらみや みなと)。
俺の父親であり、桜宮財閥のトップ。
すらりと伸びた長身と鼻筋の通った顔立ち。
仕事中は容赦なく毒舌を吐く唇も、家に帰れば家族想いの甘い言葉で埋め尽くされる。
俺を映す翡翠色の瞳がすでに潤んでいて。
父親が初めて見せる表情を前に、貰い泣きしそうになりグッと奥歯を噛みしめ笑顔を作る。
「ただいま、父さん」
けれど、堪らず残りの階段を一気に駆け上がり、その勢いのままぶつかるようにその胸に飛び込んでしまった。
ふらつくことなく優しく抱きとめてくれる父さん。
背中に腕を回すと、同じように腕を回してトントンと背中を優しく叩いてくれる。
「お、お帰りぃ⋯」
震える声の主を探し、父さんの腕の中で首を動かすとすぐ隣でボロボロと涙をこぼす、俺と同じ淡い水色の瞳とぶつかった。
父さんよりも頭一つ小さな身体は、小刻みに震え嗚咽が止まらない。
俺を産んでくれた、桜宮 美咲(さくらみや みさき)。
引く手数多の優生α女性なのに⋯父さんに一目ぼれして、何年もかかって口説き落とした情熱の人。
俺がΩと分かってから、ずっとずっと自分を責めていた人。
出会ってすぐの父さんに褒められてから、手入れに余念がなかった自慢のストレートの黒髪。
なのに、今日は艶もなく手入れがおざなりになっている。
「もう、母さんは泣き過ぎだよ!」
α同士の親からでさえ、稀に生まれてしまうΩ。
α至上主義の家なら里子や離縁が定着している中で、バース性は関係なく自分達の子どもだと俺を愛しみ桜宮の子どもとして生きていけるように育ててくれた。
後ろから母さんに抱きしめられ、サンドイッチのように両親に挟まれる。
屋敷の外に出るときは、常に俺を守ってくれた暖かくて優しい二人のフェロモン。
抱き締められ、更にそれが増えていくのが伝わってくる。
次に屋敷を出るときは、取り払われてしまう温もりと優しさ。
俺も、ついに泣き出していた。
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