ヘタレαにつかまりまして

三日月

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「この馬鹿力っ」


やたらめったらに身体を捻り、そこから抜け出そうと抵抗を試みるが菊川の腕はびくともしない。
力を入れている様子もないのに、だ。
仕方がないから、パンツと下着を脱ぐだけ脱いでしまおうと頭を切り替える。

けれど、それは思った以上に難しかった。
下ろそうとしても、手首を握る菊川が難無くその力を相殺してくる。
頼むからやめろと穏やかな顔と声で宥められ、情けないやらムカつくやら。
ギロッと睨んでも、目を細めて流され喉奥で唸る。

クソッ、相手にされてないっ

Ωはαに比べ、元々非力で小柄な傾向がある。
類に漏れず、俺と菊川の体格差は中等部から今に至るまで開く一方だった。
いくら俺が体力作りに励んでも、筋肉はほんのりとしか上乗せされないし、カルシウムを摂取しても背はちょっぴりしか伸びなかった。
菊川が、年々身長と引き締まった肉体をものにするのとは比べるまでもない。

この四月から、教室で睨んでいたのはその妬みもたっぷり含まれている。
萩野に、体質的に無理なものは無理ですよと狐目で冷ややかに言い切られてからは余計悔しくて堪らなかったからな。
この三年間の恨みは根深いのだ。

ブルブル腕が震えるくらい、手に全体重と力を込めると。
漸く数センチ下がった!
が、僅かな達成感を味わう間もなく、あっさり俺の手ごと元の位置まで戻されてしまった。

くそっ、ムカつく。

敵わないからと言ってなにもしないのは癪に障る。
それに、これは時間稼ぎにもなりそうだ。
なにか反撃出来る要素はないものかと視点を変え、照準を目の前の菊川の額に移した。
諦めたのかと勘違いした菊川が、気を抜いた瞬間を見逃さずに自分の額をぶつける。

ゴンッと重い音が鳴り、俺もくらくらきたけど菊川だって怯んだ筈。

さぁ、手を離してもらおうかっ


「痛いって!」


チカチカする視界の奥で、菊川は痛みに顔を顰めつつも怒っているというより困惑した様子でぼやいた。
しかも、俺が痛みで立ちくらんでいる間に、俺の手首をさっきより強く掴み直されていた。
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