47 / 1,039
4 予想外
8
しおりを挟む
自分にもっと触れて欲しい。
もっともっと俺を求めて欲しい。
自分の中に芽生えた欲求の強さに目眩さえ感じる。
このまま菊川の身体の中にズブズブ埋れてしまいたい。
互いを隔てる皮膚を溶かし、境界線を手放して混ざり合いたい。
今まで考えたこともない、狂気に近い想いの深さに振り回される。
ハヤクタベテ、タベテ、タベテ。
潤んでボヤケた視界に、顔を上げた菊川の牙が入った。
唇の下から伸びた雄々しい牙、αの証。
うっとりと見惚れている間に腕を捕らえられ、気づけば床に押し倒されていた。
背中と頭を床に打ち付けた痛みで、一瞬正気に戻る。
発情フェロモンにどっぷり浸されていた意識が、ハクリとほんのひと呼吸分だけその水面上に顔を出したくらいの危うい時間。
「おい、流石に痛い⋯⋯ん?」
頭を抑えて見上げると、菊川が肩でフゥフゥと息を繰り返し、明らかに常軌を逸しているギラギラと尖った瞳で俺を射抜く。
圧倒的な強さの前に、身が竦む。
間近に迫る恐怖に、物理的にこのまま喰われるのではないかと背筋が凍えた。
思わず吸い込んだ息がヒュッと喉奥でおかしな音を立てる。
Ωの発情フェロモンに煽られ、発情を引きずり出されたα。
捲れた唇の内側からスラリと伸びた牙を伝い、ポトポト俺の上に涎が滴ってくる。
コレは、どう見ても、おかしい⋯
「き、菊川⋯⋯?」
た、確かに、発情フェロモンに当てられたαは、抑制剤かΩとの性交でしか静まらなくなると教えられていた。
でも、コレは、異常だ。
尋常じゃない。
名前を呼んでも、反応がない。
正気を失った瞳、狂気に嗤う口。
牙を剥き迫る顔は、昼行灯の菊川の面影をまるで残していない。
別人だ。
事前情報で、発情フェロモンにここまでαが、飛鳥さんが、我を失うなんて、萩野からは聞いてなかった。
身を任せていれば良いと教えられていたんだから。
が。
違和感について、冷静に考えられる時間はもう残されていなかった。
菊川が、乱暴な手つきで俺の足からズボンを引き抜き、濡れた下着も引き千切らんばかりの勢いで剥ぎ取っていく。
獰猛な獣に襲いかかられているのと変わらない状況。
冷静であれば悲鳴の一つも出たところだが、菊川のフェロモンに囲まれ迫られてしまうと容易く発情フェロモンの沼へ引きずり戻される。
俺を求めて覆いかぶさってきた菊川の姿に、期待と歓喜で俺の思考は甘く蕩けた。
もっともっと俺を求めて欲しい。
自分の中に芽生えた欲求の強さに目眩さえ感じる。
このまま菊川の身体の中にズブズブ埋れてしまいたい。
互いを隔てる皮膚を溶かし、境界線を手放して混ざり合いたい。
今まで考えたこともない、狂気に近い想いの深さに振り回される。
ハヤクタベテ、タベテ、タベテ。
潤んでボヤケた視界に、顔を上げた菊川の牙が入った。
唇の下から伸びた雄々しい牙、αの証。
うっとりと見惚れている間に腕を捕らえられ、気づけば床に押し倒されていた。
背中と頭を床に打ち付けた痛みで、一瞬正気に戻る。
発情フェロモンにどっぷり浸されていた意識が、ハクリとほんのひと呼吸分だけその水面上に顔を出したくらいの危うい時間。
「おい、流石に痛い⋯⋯ん?」
頭を抑えて見上げると、菊川が肩でフゥフゥと息を繰り返し、明らかに常軌を逸しているギラギラと尖った瞳で俺を射抜く。
圧倒的な強さの前に、身が竦む。
間近に迫る恐怖に、物理的にこのまま喰われるのではないかと背筋が凍えた。
思わず吸い込んだ息がヒュッと喉奥でおかしな音を立てる。
Ωの発情フェロモンに煽られ、発情を引きずり出されたα。
捲れた唇の内側からスラリと伸びた牙を伝い、ポトポト俺の上に涎が滴ってくる。
コレは、どう見ても、おかしい⋯
「き、菊川⋯⋯?」
た、確かに、発情フェロモンに当てられたαは、抑制剤かΩとの性交でしか静まらなくなると教えられていた。
でも、コレは、異常だ。
尋常じゃない。
名前を呼んでも、反応がない。
正気を失った瞳、狂気に嗤う口。
牙を剥き迫る顔は、昼行灯の菊川の面影をまるで残していない。
別人だ。
事前情報で、発情フェロモンにここまでαが、飛鳥さんが、我を失うなんて、萩野からは聞いてなかった。
身を任せていれば良いと教えられていたんだから。
が。
違和感について、冷静に考えられる時間はもう残されていなかった。
菊川が、乱暴な手つきで俺の足からズボンを引き抜き、濡れた下着も引き千切らんばかりの勢いで剥ぎ取っていく。
獰猛な獣に襲いかかられているのと変わらない状況。
冷静であれば悲鳴の一つも出たところだが、菊川のフェロモンに囲まれ迫られてしまうと容易く発情フェロモンの沼へ引きずり戻される。
俺を求めて覆いかぶさってきた菊川の姿に、期待と歓喜で俺の思考は甘く蕩けた。
36
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【運命】に捨てられ捨てたΩ
あまやどり
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
奇跡に祝福を
善奈美
BL
家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。
※不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる