ヘタレαにつかまりまして

三日月

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4 予想外

8

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自分にもっと触れて欲しい。

もっともっと俺を求めて欲しい。

自分の中に芽生えた欲求の強さに目眩さえ感じる。
このまま菊川の身体の中にズブズブ埋れてしまいたい。
互いを隔てる皮膚を溶かし、境界線を手放して混ざり合いたい。
今まで考えたこともない、狂気に近い想いの深さに振り回される。

ハヤクタベテ、タベテ、タベテ。

潤んでボヤケた視界に、顔を上げた菊川の牙が入った。
唇の下から伸びた雄々しい牙、αの証。
うっとりと見惚れている間に腕を捕らえられ、気づけば床に押し倒されていた。

背中と頭を床に打ち付けた痛みで、一瞬正気に戻る。
発情フェロモンにどっぷり浸されていた意識が、ハクリとほんのひと呼吸分だけその水面上に顔を出したくらいの危うい時間。


「おい、流石に痛い⋯⋯ん?」


頭を抑えて見上げると、菊川が肩でフゥフゥと息を繰り返し、明らかに常軌を逸しているギラギラと尖った瞳で俺を射抜く。
圧倒的な強さの前に、身が竦む。
間近に迫る恐怖に、物理的にこのまま喰われるのではないかと背筋が凍えた。
思わず吸い込んだ息がヒュッと喉奥でおかしな音を立てる。

Ωの発情フェロモンに煽られ、発情を引きずり出されたα。
捲れた唇の内側からスラリと伸びた牙を伝い、ポトポト俺の上に涎が滴ってくる。

コレは、どう見ても、おかしい⋯


「き、菊川⋯⋯?」


た、確かに、発情フェロモンに当てられたαは、抑制剤かΩとの性交でしか静まらなくなると教えられていた。
でも、コレは、異常だ。
尋常じゃない。

名前を呼んでも、反応がない。
正気を失った瞳、狂気に嗤う口。
牙を剥き迫る顔は、昼行灯の菊川の面影をまるで残していない。
別人だ。
事前情報で、発情フェロモンにここまでαが、飛鳥さんが、我を失うなんて、萩野からは聞いてなかった。
身を任せていれば良いと教えられていたんだから。

が。

違和感について、冷静に考えられる時間はもう残されていなかった。

菊川が、乱暴な手つきで俺の足からズボンを引き抜き、濡れた下着も引き千切らんばかりの勢いで剥ぎ取っていく。
獰猛な獣に襲いかかられているのと変わらない状況。
冷静であれば悲鳴の一つも出たところだが、菊川のフェロモンに囲まれ迫られてしまうと容易く発情フェロモンの沼へ引きずり戻される。
俺を求めて覆いかぶさってきた菊川の姿に、期待と歓喜で俺の思考は甘く蕩けた。
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