逆転彼氏

三日月

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Level 1

4 駅前にて

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オフ会当日。
落ち着かなくて約束の一時間前に待ち合わせ場所に着いてしまった。
高校や自宅からは電車で1時間離れている駅前広場。
引っ越し前に住んでた町だけど、ここに親しい人間はいない。
今の高校に通う地元民は、ほぼ最寄り駅前の大型スーパーで遊ぶこともリサーチ済。
ここならありのままでゆっくり話せる。

ゲームの中のマオちゃんは、素直で明るくて優しい女の子だ。
同級生で勉強より運動が得意。
優しい兄がいると言うことまでは今までのやり取りでわかっている。
逆を言えば、それだけしかわからない。
でも、半年も(オンラインゲームだけど)苦楽を共にしていれば、人柄や相性の良さはわかるし十分だった。

どんな告白ならこの気持ちが真剣だと分かって貰えるだろう。

目元が完全に隠れているライトブラウンのモッサリヘアーに、中学から愛用している『ソード♡クエスト』初期企画トレーナー(目印)に綿のパンツ。
安定のジミメン『田中 和』仕様だ。
この格好だと「ラーメン王子ですか」と話しかけられる心配が一切無い。
待っている間、告白の練習をしておこう。

「マオちゃん、好きです」は、シンプル過ぎるか。
「ずっと好きだったんだ。付き合ってください」は、どうだろう。
「マオちゃん、好きっ」は、チャラいか?

待合せとしては有名な場所だけ有り、時計の下には何人も人が立ったりしゃがんでいる。
でも、俺のことを気にする人はいない。
早さや声の調子を変えながら、目を閉じてマオちゃんの姿を想像し繰り返し練習。
次第に夢中になり、何かに怯えるように周りから人が消えて取り残されていたことにも気付けなかった。

「マオちゃん、ずっと好きでした。
付き合ってください」うん、これなら・・・
「は、はい」

すぐそばから聞こえた声に驚いて目を開ける。
え、はいって・・・ヒィッ

目の前に立っていたのは男性。
そうわかったのは、最初は肩のあたりしか見えなかったからだ。
誰だろうかと顔を上げて、絶句。
歩く顔面凶器の真野様が、真っ赤な顔で額に血管まで浮かせて立っていた。
白のスーツに黒シャツに紫のネクタイとか、攻撃力高すぎだろうっ

「な、なななな、なんで?」

なんでここに真野様が??
そう、俺は聞いたつもりでいたんだけど。

「俺も、KAZのこと、ずっと好きだったから」

ギンッと睨まれ、その目にも言葉にも震え上がる。
え、何、俺?
全然理解できない、いや、したくないんだけどぉっっ

視線を感じてそ~っと周りを見渡せば遠巻きにされている。

「え、えっと・・・取り敢えず、歩く?」

『高校のカズ』スキルを使ってヘラッと笑ってみせると、首がもげそうな勢いで頷かれた。
その手に持ってるアタッシュケースは、何?
銃器とか出てくんの?
運び屋なの?
って言うか、マジでそういうことなの??
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